「範囲指定魔術か。屠るべき敵だけ燃やす炎、それを広範囲に展開……あんたらあんなバケモン見たいなの追っかけてたワケ?」
その頃、アメリの地下深くの遺跡の一角で白い髪の少年がそう問いかけた。目の前にはエルフの装飾とはかけ離れた鏡が置いてある。そしてそれがアメリの様子を映し出していた。
「『器』がこれほどまでの魔術を使ったのは、これが初めてですよ。はたして、『器』自身の力か、その『中身』の力かは、私には検討がつきかねます」
嫌味なほどに涼やかに、その声の主は微笑んだ。歩くたびに鎧が金属音を立てる。白い髪の少年――ブラン・エヴァンスは、不快に感じて眉根を寄せた。
「何年何十年って追っかけてるくせに、なーんにも掴めてないっての?」
「失礼ですね。『器』は何度も移し替えられてますし、その度に違う能力があったものです。今回の『器』は特殊なようなので、日々驚きの連続なんです」
全く驚いたと思っていない声色だ。やがて声の主が姿を見せる。
暗闇でなお明るく輝く銀色の髪が揺れる。毛先だけ染めているのだろうか、赤ともピンクともとれる色に染まっている。長い不揃いな髪を二つに分けて結われたそのてっぺんには、見たことのない燃えるような色をした花が一つずつ差されていた。猫のように丸い瞳、エルフのように尖った耳。そこまで見れば彼女は可憐な少女だっただろう。
しかし、銀髪とは正反対の真っ黒な刺々しい鎧を身に纏っているのだ。小手も、胴当ても、脚絆も、ブーツの踵に至るまで全てが刺々しい。
――まるで毛虫だ。美しい花を蝕む、毛虫。
ブランは彼女をそう形容している。
「『器』ねぇ……俄かに信じがたい話ではあるけど」
ポリポリと、左頬の刺青あたりを掻きながら、彼はもう一度鏡に目を向けた。
激しく立ち昇っていた炎は収まっており、ジブリールの隊員たちが後始末にと慌ただしく走り回っていた。そんな中、肩で呼吸をしながら、立ち尽くしている朱茶の髪の少女をその鏡は映している。
chapter.3-42
world/character/intermission