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「ひゅー! 見た見た今の! すっごいね! ジブリールがあっという間に火の海だよ!」
ジブリールを俯瞰出来るバルコニーから身を乗り出し、オペラグラスを片手に、黒い髪の少年は興奮気味に隣に立っている男にまくしたてる。
男――いや、体格的に女性かもしれない――は長いオレンジ色の髪を一つに纏め、きっちりと軍服を着込んでいる。さらにその上から、贅沢にファーをあしらった真紅のマントを羽織っていた。彼の青い瞳は細く、常に笑っているような印象を受けるが、決して柔らかいものではない。
成り上がりの権力者。それが少年が彼を見たときの印象だった。実際それは間違っていない。
「落ち着きたまえよ、情報屋くん」
女性にしては低く、男性にしては高い声。それはこのマントの人物の物だ。彼は苦笑しながら、このままでは落っこちかねないと、首根っこを掴んで手摺から引き剥がす。少年の右頬にある十字の刺青がちらりと視界に入った。
少年――ノワール・エヴァンスは不服そうに男を睨みつけるが、またオペラグラスを覗き出すと、その顔に再び笑みが浮かぶ。
「話には聞いてたけど、こんなにすごいとはね。うんうん、人生何があるかわかんないね」
ノワールが一人で納得し、頷いているが、男には全くそれが理解できなかった。
「私には全く君の話の意図が掴めないのだが。とにかく早くジブリールの消化活動に移ったほうがよさそうだ。民が不安がる」
「それは必要ナシ」
彼がそうジブリールを指差すと、さっきまであれほど激しく燃え上がっていた炎はすっかりその勢いをなくしていた。
chapter.3-41
world/character/intermission