chapter.3-40
集中しろ。集中しろ。全神経をこの剣に。
全ての音を遮断する。聞こえるのは自分の息遣いだけ。今はそれさえも騒音だ。
集中しろ。集中しろ。
もっと、もっと。思考をクリアに。余計なものを取り除け。思い描くのはシンプルなことでいい。
敵――とても小さい。そいつだけを狙う。クモの姿。嫌な気配。
真っ暗な空間の中に、ポツポツと、無数の禍々しい光が浮かび上がる。
蠢くそれに、逃げ出したくなるほどの嫌悪感を感じるが、シェスカは強く剣を握り、それを押さえ込んだ。
範囲――できるだけ広く。気配は感じるが、正確にどこにいるかまではわからない。
思い浮かべろ。何よりも強固なイメージ。
冷たい刃にそっと手を添える。指先から魔力を剣に流し込んでいく。徐々に、徐々に、刃が熱を帯びていった。
――威力の加減は必要ない。強くないと倒せないでしょ。私のできる最大級で、敵を屠る。思い浮かべるのは、焼き尽くす焔。
シェスカは深く、深く息を吸い込むと、カッと瞳を見開いた。
『我が元に集いし、猛き獣よ。我らに仇なす邪の者を喰らい尽くせ』
ボウ、とシェスカの周囲に、足元に、幾重にも赤い魔方陣が浮かび上がる。それらは彼女の声に呼応し、強い光を放ち、熱く燃える炎が彼女を包む。
『あなたが焼き払うは、蠢く黒き禍、裁きの焔よ』
そこでシェスカは一度詠唱を区切ると、もう一度深く息を吸い込む。これだけじゃまだ足りない。彼女は剣を高く、天へと突き上げる。そして現れる、今度は緑に淡く光る魔方陣。
『立ち昇れ、天高く!! 逆巻け吹き抜けたる大いなる風! 彼の者どもを包み、荒れ狂え!!』
竜巻のように渦巻く風が、シェスカを包んでいた炎を巻き込み、より大きく、その勢いを増していく。
これで仕上げだ。と言わんばかりに、シェスカは詠唱と打って変わって静かに、言葉を紡ぐ。一筋の汗が、彼女の頬を伝った。
『――“クレマティオ”』
その瞬間、炎を纏った嵐は一気に膨れ上がり、ジブリールは一瞬にして炎に包まれた。
bkm