chapter.3-35


 サキが短く制止した。ピリッとした緊迫感が走った。アシュリーとジェイクィズの目つきが鋭くなる。が、ヴィルもシェスカも何がどうなっているのかわからない。顔を見合わせて首を傾げるしかない。

「そこから離れろ!」

 鋭い怒号が飛んでくる。それと同時にフードを掴まれて後ろへと引っ張られた。

「なにすんだよ!」

「怒んなよ。なんか、アヤシーのがそこにいるぜ?」

 ジェイクィズが指した先から、徐々に人影が現れてくる。

「くすくす、アヤシーのって誰かしらぁ?」

「もちろんそこのゴミクズよね?」

「アヤシー臭いゴミクズ? くすくす!」

「うるっせぇぞ、クソガキ共」

 それは長身の男と、小さな三人の少女だった。
 全員病的なまでに白い肌、鋭い、猫のような瞳。それに対して髪の色は全員違い、男が黒い長髪を後頭部でひとつにまとめている。少女たちは髪型すらもバラバラで、青い髪の少女はゆるく波打った髪を左の耳の上で束ねており、金髪の少女はおかっぱ頭の後ろから、長い三つ編みが二本、尻尾のように揺れている。残る少女は白い髪で、ボリュームのあるロングヘアをそのまま流していた。
 彼らは皆、軽装の鎧を纏い、男は大鎌を、少女たちはそれぞれ、槍と杖、鉤爪を装備している。横に長く、尖った耳は、今は姿を見ないエルフのそれによく似ていた。
 彼らには見覚えはないが、男が携えている大鎌にはどこか見覚えがある。

「騒がしいと思ったら、皆さんそろい踏みで。パーティでもやってんの?」

 軽快な調子で男は口を開く。その声は、前に聞いたことがあった。それで確信する。
――あいつだ。シェスカを追っていた奴らの一人。オルエアの森で、後からやって来た大鎌の男。

「前にも会ったな。名は確か――ヴァラキア」

 サキは静かに男――ヴァラキアに銃を向ける。ヴァラキアたちは両手を上げて、戦意がないことを示した。

「正解。あーもうそんな怖ぇ顔すんなってーの。オレはあんたらと戦いに来たんでも、」

 ヴァラキアがちらりとシェスカに視線をやる。びくり、と彼女が肩を震わせた。しかしそれは一瞬で、すぐにきっと睨み返す。ヴァラキアは肩をすくめてゆるく首を振った。

「そっちの『器』を取りに来たんでもない。オレはそのゴミ共を回収しに来ただけ」

「ゴミ」を強調しながら顎で指したのは、今なお気を失っているアリスティドたちだ。どうやら彼らは知り合いらしい。あまり仲はよろしくなさそうだが。

 彼らはずかずかとヴィルたちの横をすりぬけ、アリスティドたちのところへ歩いていく。がしゃんがしゃんと、鎧が耳障りな音を立てていた。

「失敗した上にやられるなんて情けなぁい! ねぇ、エラノール?」

 歩きながら、金髪の少女があざ笑う。

「我らの恥だわ! どうして私たちが助けないといけないの! 解せないわ、ニフレディル!」

 青い髪の少女――エラノールは憤りながら叫ぶ。

「主サマのお気に入りのおもちゃですもの。片付けないとワタシたちが主サマに怒られちゃうわ。そうでしょう、メルリルン」

 白髪の少女――ニフレディルは、おどおどとしながら、ふたりの顔色を窺っている。

「ま、そういうわけだから持って帰るわ。ゴメイワクおかけしました」

 と、最後にヴァラキアが小馬鹿にするようなお辞儀とともにそう締めくくった。
 サキの眉間に深い皺が入る。銃は相変わらず構えたままだ。


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