chapter.3-34


「……ヴィル? どうしてここにいるのよ! あなたはパルウァエに帰るはずじゃ……」

「あ、シェスカ、肩に虫が」

「虫っ!?」

 虫にびくつくシェスカを見て確信。また誰かが彼女の姿になってるわけではなさそうだ。

「ちょっ、ねえ、虫どこ!?」

「ごめん嘘」

「…………殴ってもいいかしら?」

「へぇ、シェスカちゃん虫にが……」

「苦手じゃないから!!」

 ジェイクィズがニヤニヤしながらシェスカをからかい始め、シェスカはそれに顔を赤くしながら抗議する。
 見慣れたその様子に何故だか酷く安心して、へなへなと身体から力が抜けてしまった。

「ヴィル!? 大丈夫!?」

 助け起こそうとしてくれるシェスカの手を借りつつ、立ち上がる。

「よかったぁ……無事で……安心したら力抜けちゃったよ」

 情けなさとか気恥ずかしさをごまかすためにへへへ、と苦笑い。

「赤の他人を心配するより、自分のこと心配してよね」

「そんなこと言ったって、友達が危ないって聞かされたら心配するだろ?」

 土埃を払いながらそう言うと、シェスカはきょとんとした顔で首を傾げた。

「友達? 誰が」

「きみが。……え、違うの?」

 結構真顔だ。否定されたらそれなりにショックだったりする。

「私? えっと、そうね、と、ともだちよね?」

 シェスカは少ししどろもどろにそう答えてくれた。少し頬が赤くなっている気がするが、さっきまで走ってたわけだしまあ気のせいだろう。

「話は済んだか?」

 ひと段落ついたのを見計らっていたのか、アリスから目を離さずに、サキが口を開く。

「アシュリー、ジェイクィズ。彼らを安全な場所まで案内しろ」

「了解しました」

 ぴんと背筋を伸ばして、敬礼を返すアシュリー。それに反してジェイクィズは手のひらをひらひらとさせながら、うんざりな様子でわかったわかったと返した。

「ん? でも、アシュリーちゃんと一緒なんてひっさしぶりじゃね? わぁい、よろしく〜」

「気安く呼ぶなバートガル! そしてくっつくなどこ触ってんのよ!」

 相手が誰であろうとジェイクィズのセクハラは健在のようだ。アシュリーはそれにいちいち噛み付くから、彼もからかい甲斐があるらしい。やりすぎて鳩尾に棍の一撃を食らっているあたり、あまり学習していないとみえるが。

「さ、アレはほっといて行きましょう。案内するわ」

 そう言いながら、アシュリーはヴィルとシェスカの背中を軽く押す。その後に腹をさすりながらジェイクィズが続いた。
 好き勝手にうねっている魔物だった木をくぐろうとしたその時だった。


「――いや、待て」


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