chapter.3-33


「あ、ん、た、が、速すぎるって言った方がいいんじゃねェかな」

 ざりっ、と地面を踏みしめた音に振り返ると、やれやれといった具合に肩をすくめるジェイクィズが立っていた。首元から胸にかけてべったりと血糊がついている。

「ジェイクィズ!? どうしたんだよ、その血!?」

「気にしない気にしない……っていやいや、オメーこそなんでここにいるんだよゴーグルくん」

「オレはブランとノアからシェスカが危ないって聞いて……」

 それで、と続けようとした瞬間、がさがさがさ!と木の葉がこすれる。反射的に身構えたが、木陰から現れたのは、またしても見知った人物だった。

「ちょっと、あんたたち、速すぎ……疲れたわ……」

 ぜぇぜぇと肩で息をする度、彼女の長い朱茶の髪がさらさらと揺れる。いかにも剣士然とした格好。つり目気味のアッシュグレイの瞳。

 シェスカ・イーリアスが、疲れているらしくやや俯きながら歩いてきた。

「シェスカちゃんが下ろせって言わなかったらそんなに疲れなかったのに」

「あんなセクハラし放題の状態、お断りよ!」

「シェスカ!」

 思わず名前を叫んで駆け寄る。彼女はぱちくりと目を瞬かせると、まさか、と小さく口を動かした。


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