chapter.3-24


「あれっ、シェスカちゃんじゃん! やっほ〜!」

 血糊をべったりつけたまま、カツラを外してジェイクはいつものように笑顔でひらひらと手を振ってみせた。

「ちょっと…!大丈夫なのその傷…!」

 首元からは大量に血が出ているし、腹のあたりも血液でどす黒く染まっている。
−−急いで治療しなければ…!
 そう思い、彼に駆け寄る。

「あ、れ…?」

 傷が、ない…? おかしい。確かに血まみれなのに、服だって不自然に破けているのに、そこには何の傷もなく、血も完全に乾き切っている。

「あらやだ、シェスカちゃんってばそんなにオレ様のコト心配してくれたのネ…! オレ様嬉しい…!」

「どさくさに紛れて胸を触るなっ!!」

 相変わらずセクハラしてくるジェイクィズを突き飛ばす。まったく、心配して損した気分だ。

「で、裏切り者の正体、掴んだのか」

 それまで黙っていたサキが口を開く。

「あー、はいはいその事ね」

 コキコキと首を回しながらジェイクィズは身軽に立ち上がった。

「テッド・モローっつったかな。シェスカちゃんくらいのクソガキが一人。それからエヴェリーナちゃんっていう女の子が一人。こっちは声しか聞いてねえよ。アンタに成りすましたのはクソガキの方だぜ」

「情報通り、変身能力があるようだな」

「まったくあの双子はどっから情報仕入れてんだか…」

 などという会話が頭上で交わされているが、ほとんど理解できない。とりあえず、私を追ってるというのは、テッドだかクソガキだかいう奴と、エヴェリーナという女の子ということはわかった。
 彼らの会話からして、この情報を提供したのはあの双子−−ブランとノワールらしい。相変わらずどこまでも怪しい二人だ。

「で、そいつらは今どこで何してるのかしら? そいつらは私を追ってるんでしょう? だったらこの騒ぎの間に探してるはずよ」

「あんたの替え玉に引っかかって今頃そいつを連れて逃走中ってところじゃないか?」

「は? 替え玉?」

「片方が魔物を操り騒ぎを起こし、その間に俺に成りすまして逃げる。ジブリールから脱出する際はそうするつもりだったらしい。今回はそれの応用だな。
 それを逆手に取って、こちらも替え玉を用意し、相手の本拠地を特定する。それがこちら側の作戦だ」

「んで、オレ様はこいつの替え玉にさせられたってわけ」

「はぁ…えらく面倒なことしてるのね…」

 それにしても、替え玉なんていつの間に用意したのかしら。…じゃなくて!

「じゃあその替え玉?の人今危ないじゃない! もし偽物だってバレたら殺されるわよ!」

「こちらの想定外の事態になった場合は通信があるはずだ。それであんたには魔物退治を手伝ってもらいたいわけだが…」

 そう言いかけて、サキは窓の外を見る。外はどんどん増えていく樹の魔物の対応に追われているようだった。
 その時、ピピッという甲高い音が聞こえた。それはどうやら彼の耳元から発せられていたようだ。



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