chapter.3-17


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 なんとか駅まで辿り着いたヴィルは途方に暮れていた。三区から避難してくる人々、何があったのか確認しに行こうとする人々、それから野次馬根性丸出しで覗きに来ている人々。それらで駅はごった返していたのだ。
 これでは第三区になど着けるはずがない。
 ヴィルはどうにかして行く道はないのかと辺りを見回した。
 すると、急に駅の外が騒がしくなっていた。急いで外を見ると、人々は皆恐怖や好奇心を浮かべながら、空を指差している。

「魔物だ!!」

「ドラゴンがジブリールを襲ってる!!」

 彼らが口々にそんな声を上げる。
 ヴィルも釣られてそこを見ると、土煙の中から翼のある大きなトカゲのような生き物が現れ、ジブリール本部らしき場所をぐるぐると旋回していた。

「なんだよ、あれ…」

 あれもシェスカを追ってるあいつらの仲間なのか…?
 しばらく呆然としていると、騒ぎを聞きつけた人々が更に増えていき、駅はどんどん大パニックになっていった。
 もうここの駅は使えないだろう。きっと他の駅だって同じ状況だ。

「…やっぱ、普通に登るしかないのか」

 アメリは全ての階層がきちんと繋がっており、大きな螺旋状にぐるぐると回っている道がある。とは言うものの、この第四区から第三区までの道のりはかなり長い。そのため、この国では移動は基本的に列車や空中滑車が使われているのだ。
 ここからあの土煙が上がっているジブリール本部までは結構な距離があるが、仕方ない。
 ヴィルは腹を括って第三区へ続く大通りを走ることにした。たまに馬車が横を通りすぎるが、ヴィルと同じように走って第三区に行こうとする人は見かけなかった。

「…?」

 走りながらなんとなくジブリール本部の方を見上げてみた。例のドラゴンはまだ旋回を続けている。街を襲うこともなく、またジブリールに向かって攻撃することもなく。
 なにかがおかしい。ヴィルは一度立ち止まると、目を凝らしてそれをじっと睨みつけた。

「…あいつ、なんかブレてないか?」

 時々ピントが合わなくなるように、ドラゴンが霞む。ますますわけがわからなくなったが、とにかく今は急ぐしかない。
 再び走りだそうとすると、目の前を横切る誰かとぶつかった。かなりの勢いで走っていたらしく、二人して尻餅をついてしまう。

「あっ、すいません!」

 咄嗟に謝るが、その人物はこちらに目もくれず、真っ直ぐにジブリール本部の方を見つめていた。
 シェスカと同じくらいか、やや年下くらいだろうか。そのくらいの可愛らしい少女だった。蜜のような金髪に、青とも緑ともつかない色をした大きなまん丸い瞳。大きな黒いレースをあしらったヘッドドレスに、黒に白のラインとフリルのふんだんについた服を着ており、胸元にはピンクの大きなリボンが存在感を主張していた。

「あの、大丈夫?」

 少女に手を差し伸べると、不機嫌そうにきっと睨まれた。彼女は何も言わずに立ち上がる。するとそのまま、大通りを横切ってごちゃごちゃした路地へと向かって走っていった。

「…あの子、ずっとジブリールの方見てたよな…あっちが近道なのかな」

 今から追いかければ彼女に追いつくだろうか。このまま大通りを走り続けてもたどり着けない気がしてきていたヴィルは、その少女を追いかけてみることにした。もし近道でなくても、大通りを行くより早く行く道を知ってるかもしれない。そんな微かな希望を抱きながら。






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