chapter.3-9


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 コンコン、と軽く扉がノックされた。



 ここはジブリール本部、第一棟の三階。第一分隊の隊長であるオレの執務室だ。オレ以外の人間などいない。それも当然。

 今は深夜で、先程例の少女を捕縛して連れ帰ったばかり。他の隊員は現地で解散して休ませているし、研究熱心な第四分隊の連中はこの棟にはいない。少女もこことは違う棟であいつが見張ってる。クソ上司から押し付けられた残業をしているオレくらいしか、ここに残っていないというわけだ。
 なのに、扉からノック音。不自然なそれに、対応するべくオレは声を上げた。

「誰だ?」

「第一分隊、テッド・モローです。至急隊長にご報告が」

 扉の向こうからきびきびとした声が返ってくる。テッド・モロー、聞き覚えがない名だ。最近入隊したばかりの奴か。そう思いながら扉を開けた。

「お疲れ様です、隊長」

 薄暗い廊下でひとり、テッド・モローは敬礼をした。変な形の黒い革製の額当てをつけているが、きっちりと軍服のボタンを全て留め、磨かれたブーツには曇り一つない。いかにも真面目そうな男だ。歳はまだ若い。少年と言っても差し支えないだろう。浅黒い色の肌が暗さでさらに黒く見え、ぎらぎらと光る瞳が、その格好とはかなり不釣り合いだった。

「なにかあったのか?」

「ええ、まあ」

 えらく歯切れの悪い返事だ。それを疑問に思ったその時、視界がぐにゃりと歪んだ。

「これから起こるんですけどね」

 テッド・モローの冷ややかな声が背後から聞こえた。
 いつの間に。そう感じる暇もなく、腹に感じる異物感。続いてやってくる焼けそうな熱と、痛み。この感覚をオレは知っている。
 腹を見下ろせば、そこから赤く染まった手が突き出ていた。

「…て、め…!」

「じゃあな隊長。いい夢見ろよ?」

 テッド・モローは愉快そうに笑いながら、オレの腹から手を引っこ抜く。途端に鮮血が部屋中にまき散らされた。
 ああ、もう、つくづく情報屋どもの情報は正確だな、ジブリールもオレをなんだと思ってるんだ。あとで追加料金払わせるからなあのクソガキ。
 そんなことを心の中で悪態吐きながら、オレは意識を手放した。







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