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時々思うんです。


死後の世界はどんな所だろう、と。


レプリカの僕は死んだら消えてしまう。


それでも、死後の世界は僕を受け入れてくれるのだろうか、と。





【手を伸ばして】





イオンは部屋の中をぼんやり見渡す。


自分の私物など全くないこの導師の部屋も、既に見慣れて。


こんな物すら見れなくなる世界とは、どんな所なのか。


それは真っ白な世界?


闇の世界?



イオンは不意に椅子から立ち上がり、部屋の電気を消した。


窓のないこの部屋は、電気が消えれば一切の光を持たない。


真っ暗になった部屋に佇み、イオンは思った。


闇は、こんな感じだろうか。


何も見えない。


自分が体を動かしている事すら確認出来ない。


自分の存在が不安になり、思わず声を出そうとする。


しかし、闇の世界に音なんてあるのだろうか。


声を出すのを止めて、じっと身動きせずに息を潜める。


何の音もしない空間。


実際、ただの部屋でしかないこの場所。


それなのに、世界に自分独りだけが存在している気がする。


いや、寧ろ自分だけが別の世界に居るような感覚。


誰もいない

何も聞こえない

何も見えない


そこには、『無』すらも存在していなかった。



「…僕は……」



小さく声を出せば、当然の如く自分に聞こえる。


此処は本物の闇ではないから。


自分が瞬きしているのかも分からない空間で、イオンは真っ直ぐ前に手を伸ばした。





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