1 時々思うんです。 死後の世界はどんな所だろう、と。 レプリカの僕は死んだら消えてしまう。 それでも、死後の世界は僕を受け入れてくれるのだろうか、と。 【手を伸ばして】 イオンは部屋の中をぼんやり見渡す。 自分の私物など全くないこの導師の部屋も、既に見慣れて。 こんな物すら見れなくなる世界とは、どんな所なのか。 それは真っ白な世界? 闇の世界? イオンは不意に椅子から立ち上がり、部屋の電気を消した。 窓のないこの部屋は、電気が消えれば一切の光を持たない。 真っ暗になった部屋に佇み、イオンは思った。 闇は、こんな感じだろうか。 何も見えない。 自分が体を動かしている事すら確認出来ない。 自分の存在が不安になり、思わず声を出そうとする。 しかし、闇の世界に音なんてあるのだろうか。 声を出すのを止めて、じっと身動きせずに息を潜める。 何の音もしない空間。 実際、ただの部屋でしかないこの場所。 それなのに、世界に自分独りだけが存在している気がする。 いや、寧ろ自分だけが別の世界に居るような感覚。 誰もいない 何も聞こえない 何も見えない そこには、『無』すらも存在していなかった。 「…僕は……」 小さく声を出せば、当然の如く自分に聞こえる。 此処は本物の闇ではないから。 自分が瞬きしているのかも分からない空間で、イオンは真っ直ぐ前に手を伸ばした。 _ → back |