如月シンタロー(18)は恋愛初心者でした01


※表現は少ないですが、一応エネとマリーが腐女子です。
※全体的にシンタローは愛されてます。
※シンタローが女々しいです。





「はぁ……」
「これで17回目ですね、ご主人」
「は?」


何のことだよ、とシンタローは、パソコン画面に存在している少女、エネに問う。
するとエネはわざとらしく驚いた声をあげて謎のカウントダウンについて説明した。


「ご主人が溜息吐いた回数ですよ!なんなら録音してるので流しましょうか?」
「おいやめろ。…つかそんな溜息吐いてたか?オレ」
「ええなんかもう見てるこっちが気持ち悪くなるくらいに」
「……」


口を手で覆うエネに、これは別にオレ悪くないよな…、と自分自身を納得させたシンタローは早々に会話を放置して、意識をこの会話の元凶であった考えへと戻すとまた無意識に溜息を吐いた。それに「18回目ですよご主人、う"っ!」と一人騒いでいたエネだったが、既に思考をぼんやりと飛ばしていたシンタローには聞こえているはずもなく、それに答える声は残念ながらなかった。

***


バンッ、と机が大きな音を立てる程大袈裟に手をついて、モモは立ち上がった。机の向かい側に座っていたキドは突然のモモの行動に驚き目をぱちくりとさせている。マリーに至ってはびくりと身体を震わせて怯えた表情をしている。
そんな二人を物ともせず、モモは声を張り上げて言った。


「お兄ちゃんの様子がおかしいんです!!」
「え?」
「うん…?」


モモは至極真面目な顔をしていて冗談を言っている風には見えず、キドもマリーも困惑した色を隠せずに互いに顔を見合わせた。


「まずは落ち着け、キサラギ。そして一から説明しろ」


とりあえずこのままでは埒があかないとキドはモモに説明を促した。そこでモモはようやく冷静に戻ったのか、我に返りソファ座り直した。


「最近お兄ちゃんの様子がおかしいんです…」
「それは聞いた」
「ずっと溜息吐いてて…」
「そういえばシンタロー、元気ない…」


マリーも思うところがあったのか、ぽつりとこぼす。モモはそれに勢いよく同意してから、さらに「それから…」と口を開いた。


「いきなり私に漫画貸してほしいとか言ってきて…ほとんど少女漫画しかないよって言ってもそれでもいいから、とか…」
「…確かにそれはおかしいな」


流石にキドもこれには違和感を感じた。
何故シンタローが急に少女漫画など読む気になったのか。そりゃあ気分なんて言われたらそれまでかもしれないが、よりによってシンタローが?少女漫画を?
暫く考えたメカクシ団の団長は二人に向き直って一言、言った。


「シンタローの様子がおかしい原因を探っていつものように戻ってもらおう、任務開始だ」
「はいっ!」
「うん!」


こうして三人は"お兄ちゃんはやまるな未来は明るいぜ作戦"(モモ命名)を開始した。


***


モモ一行はさっそく行動に移った。まずは作戦その1"エネに協力を仰ぐ"、だ。
これはモモの知恵で、やっぱりエネの協力は必須だろうということだ。


「では行ってきます!」
「自然にな」
「分かってます!」


現在如月家、シンタローの部屋前。モモは小声で二人に合図をしてから、ノックをした。部屋主の返事も聞かずにずかずかと押し入る(最近はいつも返事がないからだ)。


「お、お兄ちゃん」
「……んあ?」


数秒の間を空けてシンタローはモモを見た。しかしその目はいつも以上にどこか遠くを見据えていて、モモは思わず昔を思い出してつらくなったが、首を振って目的を果たすためにパソコンに近付いた。


「ちょっとエネちゃん借りていい?」
「……いいよ」
「妹さん?」
「ごめんね、エネちゃん」


目配せをすれば、何かあることを把握したのか「ご主人行ってきますね!」とエネはモモの携帯へと移った。
それを確認してから「じゃあね」と部屋を出た。


「上手くいったか…」
「あれあれ?団長さんにマリーさんも?なんでこんなところに?」
「エネちゃん、少し協力してもらっていいかな?」
「はて?」


モモはエネに事情を話した。それを聞いたエネは「なるほどー」と納得して、どこか寂しそうな顔をした。


「確かにご主人はここ一週間くらいずっとあんな調子です…いつもの調子なら、先程だって妹さんがいきなり入ってきたら怒り出すはずなんです…私が出掛けることになれば一人の時間が増えて喜ぶはずなんです…」
「エネちゃん…」
「私もご主人にからかい甲斐がなくて寂しいんです!」


そう言ってにこりと微笑みながら協力することにしたエネに、三人は決意を新にした。


***


一方、シンタローはここ数日間あることに頭を悩ませていた。
いくら考えても他に頷ける答えは一向に出て来ず、最近では食べることすらままならなくなっていた。


(ほんと、なんだよこれ…)


先程モモがエネを連れて行ったために一人きりになった部屋の中、シンタローは胸を押さえた。


(いつもなら一人になれた、って嬉しいはずなのに…)


脳裏に浮かぶ人物を想っては胸がずきずきと苦しくなる。これはモモから借りて読んだ漫画のヒロインが言っていたことと同じだ。
そのことが指す意味はつまり一つだけで。


「〜〜〜っ!なんでカノさんなんだよ…っ!」


これが相手は女なら少しは悩みも軽くなっていたのだろうか。今更考えたってどうしようもないことを、何度も何度もぐるぐるとシンタローの脳内を駆け巡らせた。
はああぁ、と一際大きな溜息を吐いたシンタローは机に突っ伏した。溜息を吐けば幸福は逃げるというが、その場合ここ数日溜息を吐きっぱなしのシンタローは何年分の幸福を逃しているのだろうか。

(なんだよ恋って…こんなんじゃパソコンもせっかくの一人きりの状況も全く楽しめないじゃんか…これも全部カノさんのせいだ…)


そこまで考えたシンタローは、寝不足なのが続いた所為なのか、夢の中へと意識を旅立たせていった。


***


如月家を出て、メカクシ団のアジトに帰ってきたモモたちは、新たに増えたメンバーを交えて第2回作戦会議を開いていた。


「エネはシンタローについて不可思議に思った点はあったか?」
「そうですね…基本的には妹さんの仰ってることと変わりません……あ」
「どうしたの?」
「ご主人、よく泣きそうになってますね…特に、妹さんから借りた漫画を読んでから」
「少女漫画をか!?」


益々分からない…と頭を抱えたキドとモモ。しかしマリーはそわそわと辺りを見回していた。


「おや?マリーさん如何なさいました?」
「も、もしかしてね、それって…!」


何故か頬を染めて、もじもじとし始めたマリーをじっと見つめる三人。
暫くして、意を決したマリーが発したセリフは想像を超えるものだった。


「シンタロー、恋しちゃったんだよ!」


え、と声がハモったキド、モモ、エネ。ふんふんと自信満々のマリー。


「おおおおお兄ちゃんが?まっさかー…ハハ」
「ご主人が恋とかwwwwwとか……」
「!!?」


ぴたりと固まった三人を余所に「お茶淹れてくるね」と、マリーは立ち上がってキッチンへと足を向けた。


「どう思う、マリーの言ってることは」
「うーん…」
「笑い飛ばせないのがリアルで怖いですね…」
「あっれー?みんなして何してんの?」


神妙な顔付きで話し合っている面々の空気を読まずに割り込んできたのは、面白そうだと言わんばかりの笑顔を貼り付けたカノだった。


「カノか…」
「えっ、何その残念そうな顔。地味に傷つくんだけど」
「お前じゃ役に立たないだろうな、と…」
「団長さん、ダメ元でも相談してみませんか?」
「キサラギちゃん?キサラギちゃんまでそんなこと言っちゃうの?お兄さん辛いなー」
「猫目さんでも何かの役に立つはずですよ!だって人間は誰かの役に立つために生まれてくるって誰かが言ってました!」
「あ、エネちゃんいたんだーでも今の一言はカノくんのガラスのハートにヒビがー…なんて」


来た途端に次々と罵声(本人たちに悪意はない)が浴びせられ、涙目のカノ。
そこにお茶を淹れて戻ってきたマリーに否定の言葉を求めれば「間違ってはないよ…?」と止めの言葉を貰ったのだった。


「カノさん、あのですね…あれ?カノさん?」
「放っておいて話していいぞ。ちゃんと聞いてるから」
「そうですか…」


気付けば沈んでいたカノに首を傾げながらも兄のことを話すモモに、最初は黙って話を聞いていたカノだったが、予測:マリーの"兄は恋をしているかもしれない"ということを聞いて、下を向いたまま黙って腰を上げた。


「カノ…?どうかしたのか?」
「キド…僕ちょっと出掛けてくるね」
「は?なんで、」
「いいから。あ、キサラギちゃん、シンタローくん家にいる?」
「は、はい…」


モモにそれだけを確認すると、早々にアジトを出て行ってしまったカノ。訳も分からず呆けるキドとモモを置いて、エネとマリーは二人きゃあきゃあと騒いでいた。


「マリーさん!あれはもしや…」
「だっ、だよね、間違いないよね…!」
「「カノシン!!」」



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