天然にはご注意を


彼は鈍すぎると思う。それも、恋愛に関して、すごく。
ゲームの中で、戦闘のときの鋭さはすっごく頼りになるのに。現実世界にもパラメータがあったらいいのになぁ、なんて思ったりしたことなんてたくさん。
今日だって、ほら。

「アスナー!」

嬉々としてわたしの名前を呼びながらこちらに向かって走ってくる彼、キリトくんの腕の中には可愛らしいラッピングをされたプレゼントらしき物が数個。それを一瞥してからキリトくんを見ると、にこにこと可愛い笑顔をしている。

「…遅かったね、キリトくん」

わたしの横に腰を下ろしたキリトくんにじとりと、咎めるように視線を送れば彼は申し訳なさそうに眉を下げて頬をかく。それから腕の中の物をかかげて、言いにくそうに「これ…、」と口を開いた。

「調理実習で作ったらしくて。俺にはアスナがいるから受け取れないって断ろうとしたんだけど"深い意味はないので"って言われちゃって…。さすがに数人の女の子にそんなに言われたら断れなくて…」

キリトくんがつらつらと事情を述べるのを聞きながら改めてそれ、プレゼントを見る。
まず、調理実習で作ったというのは嘘だって分かる。こんな凝ったラッピングなんてするほどだし。きっとキリトくんに渡すための口実。
それにしても、深い意味はない、って言うのを真に受けちゃうキリトくんには呆れて溜め息を吐きそうになる。
キリトくんは、自分では全く気が付いてないけれど正直すごくモテる。
SAOをクリアしたというのは意外と知られているし、何より女顔と言われたことがあるらしい彼のコンプレックスであるその顔は正直可愛い部類に入る。
そして彼の剣さばきはとてもかっこいい。何度見ても見惚れちゃうくらい。ゲームのときはそういうスキルだから、って思ってたんだけど彼は実際に剣道も少しやってるらしくて、授業で剣道があったときは2年のわたしのクラスまで噂が伝わったくらいだ。
そんな彼が女子達の心を射止めるのに時間は掛からなくて。挙げ句の果てには男子まで何人かキリトくんを好きな人がいると聞いたときは目眩がしたほどだ。

「はいはい、分かったよ」
「うう…ごめんなアスナ…」

それでも、そんなお人好しなキリトくんは嫌いになれない。だってその優しいところにも惹かれたんだから。

「どうしようかな、これ…」
「食べてあげればいいんじゃないの?」
「えっ、でもなぁ」
「受け取ったのはキリトくんなんだから、ちゃんと責任取りなさい!」
「は、はい…!」

わたしの気迫に圧されたのか、びしっと敬礼付きの返事をしたキリトくんは怒られた子犬のようにしゅん、と肩を落としていた。
その姿に思わずくすっと笑いをこぼすと、キリトくんは不思議そうな顔をした。

「その、」
「でもね、今度からはちゃんと断ること!…わたしだってヤキモチ妬いちゃうよ?」

言ってると恥ずかしくなってきて、後半は顔を逸らす。
すると、横からキリトくんの手が伸びてきて私の頬を捕らえる。ゆっくりとした動作でキリトくんの方を向き直されると、こつん、とおでこ同士を合わせられた。吐息がかかりそうな距離にどきどきと胸が早まる。

「き、りと、くん…?」

ま、まさかキス…!?なんて脳内パニックになりながらぎゅっと目を瞑ると、それを裏切るようにキリトくんは笑顔で言った。

「分かったよ」

間近で見る笑顔は破壊力抜群だったとか、このシチュエーションで言うことじゃないとか、キスされると早とちりした自分が恥ずかしいとか色んな感情がごっちゃになったわたしは気付いたらキリトくんを押しのけて叫んでいた。

「き、き、キリトくんのバカー!!」
「わっ…!」

そのままバランスを崩してベンチから落ちたキリトくんはわたしがなんで怒ってるのが全く分かっていないような顔をしていて、もう一発食らわしてしまったのだった。


*


「あの、アスナさん…なんで、」
「もう!キリトくんなんて知らない!この天然タラシ!バカ!」
「えっなん、」







天然にはご注意を
(………キリトくんの、ばか)



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