ヴァンバーガーショップ!02


「いらっしゃいませー!」


そんな明るい声が響く夕暮れのファストフード店に、先導アイチは今日も順調に仕事をこなしていた。
しかしそれを妨害するように後ろから飛びついてくる姿があった。


「アイチくーん!」
「630円になり…うわあっ!」


突然の抱擁に代金を受け取ろうとしたアイチは思わず前のめりになってしまい、客へぶつかるぎりぎりのところでなんとか持ちこたえた。
あ、危なかった、とほっとしたのも束の間、抱き付いた犯人、雀ヶ森レンはそのまま手を離さない。


「す、すみません!えっと…」
「はい、630円きっちりありますよ」


客はたまたま常連だったおかげでいつもの風景にくすりと微笑んで代金を払い、商品を受け取って去っていった。
アイチはもう一度謝ると、ありがとうございました、と頭を下げてから、レンへと身体を向けた。


「レンさん!仕事中にはやめてくださいと何度言ったら分かるんですか!」
「えーだってアイチくん可愛いですしー」
「答えになってません!」
「そうだよ!」


アイチに同意して大声を上げて二人の間に入ってきたのはこの店紅一点かつレンの指導係である戸倉ミサキだ。レンの仕事に対する態度を叱っているうちにいつの間にか指導係にされており、不満を持っていたミサキだが、アイチを見ていたら自分がやるしかないと決心した。
そんなミサキの一喝に、これ以上キレさせたら厄介だ、と渋々アイチから手を離したレンはぶー、と口を尖らせた。


「ミサQはケチですね」
「ケチじゃないしその変なあだ名やめろ」
「ミサッキーのおたんこなすー」
「アイチ、ちょっと離れて、今からこいつ蹴るから」
「うわわわミサキさんもレンさんも喧嘩しないでくださいいい!!」


ミサキが手、いや足を上げようとしたのでアイチは慌てて止めに入った。そうこうしているうちにレンは奥の従業員用の休憩所へと引っ込んでしまったのでミサキは大きな溜め息を吐いた。


「あいつ、クビになんないかな」


ぼそりと呟かれた言葉を聞かなかったことにして、アイチはくるりとレジの方へ向き直った。
すると、ちょうど自動ドアが開き、新しい客が入ってきたところだった。いらっしゃいませ、と声を掛ける前に、姿を見て小さくあ、と声を漏らした。


「櫂くん!」
「アイチ」


今入ってきたのはついこの間、レン経由で知り合った櫂トシキだった。
最近はちょくちょくこの店に訪れていて、人見知りなアイチもようやく普通に話せるようになっていた。


「櫂くん今日は…」
「おー!君が噂のアイチくん?」


突然名前を呼ばれてびくりと身体を震わせたアイチはそこで初めて櫂の隣に人がいたことを認識した。その男は櫂と同じくらいの背で、髪は向日葵のような金髪、ブルーの瞳は面白そうにアイチを見ていた。


「えっ…えっと…?」
「おい三和、アイチが固まっているだろ」
「あははー!わりいわりい…、だから睨むなって!」


アイチがおろおろとして困惑した声をあげると、それを見越した櫂が隣の三和と呼ばれた青年を咎めた。三和は櫂に睨まれ、ばつが悪そうに櫂から一歩距離をとった。
そんな様子を見たアイチは三和は櫂の友達なのだろうかと訊ねた。


「櫂くんのお友達さんですか?」
「そうです!三和タイシって言います、よろし…」
「友人でもなんでもない」


三和が自己紹介をする返答に横槍した櫂の返答は三和と違うもので、アイチは首を傾げた。


「オイ!なんかオレ恥ずかしいだろ!」
「知らん」
「ひでーヤツ!アイチくんもそう思わねぇ?」


二人の話にやっぱり友達なのだろうとくすくすと笑っていたアイチは急に話を振られてえ、えっと、戸惑いつつ苦笑するしかなく、ちらりと櫂の顔を窺うと櫂は特に気にした様子を見せておらず、それより、と口を開いた。


「あっ!この前と一緒でいいの?」
「ああ」
「オレダブルチーズバーガーひとつ!あとアイチって呼んでいいか?」
「かしこまりましたっ!へっ…い、いいですよ、三和さん!」


そのことが気に食わなかったらしい櫂はアイチには気付かれないよう再びじろりと三和を睨んだが、今度は怯まずにむしろにやにやと目を細めて櫂の方を見ている。


「お待たせしましたっ!フィッシュバーガーとダブルチーズバーガーになります!」
「おっサンキュー!ほら、櫂はやく行かないと混むだろ」


受け流すために言われたかと思ったことは事実で、他のレジは次々と流れていくのに対してこのレジは一向に進まず、櫂たちで止まっていた。それに気付いた櫂は納得しない表情を浮かべて席に着くことにした。


「ありがとうございましたっ!」


しかし、櫂にお礼を言うアイチの笑顔は他の客に向ける営業スマイルとは違う、友人だけに見せる笑顔だったことに気付いて少しだけ口元を緩めた櫂だった。


***


「あー!櫂がまた来たんですか!」
「れ、レンさん?」


櫂たちが去って数分後、休憩所から何事もなかったように涼しい顔をして出てきたレンは、アイチの様子を見るなりすぐに感づいた。
むむむ、と不機嫌になるレンを見て困惑するアイチにレンは再び抱きつきながら言った。


「アイチくんは櫂に騙されちゃ駄目ですよ!」
「えっ?えっ?」
「あっびわもいます!もう文句言ってきましょう!」


二人を見つけたレンがずんずんと櫂たちのもとへ歩いていくのを見て、レンたちがする会話の内容を知るはずのないアイチは羨ましげにぽつりと呟いた。


「みんな仲良くていいなあ…」


***


「櫂!アイチくんは渡さないと言ったでしょう!?」
「知らんな。俺の勝手だ」
「どうでもいいけどレンは仕事戻らねーとあのねーちゃんすっげ睨んでっぞ…」







常連客と、店員と






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前回名前しか登場しなかったので三和くん登場編。
あくまで三和くんは保護者です。


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