ツンデレ赤司くんと幼馴染み黒子くん02
僕、赤司征十郎には生まれた時からずっと一緒に過ごしてきた幼馴染みがいる。名前は黒子テツヤ。何もかも平凡で異常に影が薄いけれど、普段は一歩引いて接してくる他人とは違い、いつも隣に居てくれた。小学生までは毎日のように互いの家に入り浸って遊んでいたけれど、中学に入ってからはあまり関わらないようにするようになった。
『一緒にご飯食べたい相手を頭に思い浮かべてみ?それが家族以外だったら本気で好きな奴らしいぜ?』
それは偶然通りかかった教室での男子数人の会話だった。
咄嗟にだが、なんとなく頭に浮かんだ顔は紛れもなく幼馴染みの顔だった。
まずい、と思った。ただの心理テストだ、と受け流そうとしたのに。さっきまで話していたからだろう、と。自分の中にいくつもの反論を与えてみるも全て違っていた。
そこで僕は幼馴染みに恋愛感情を抱いていたのかと知った。同時に叶わないということも。それにはもう自嘲しか出てこなかった。
だから僕はテツヤと距離をとることにした。ちょうど中学に入ったばかりだったため忙しい振りをして、そっと。
朝は早めに家を出て、帰りは生徒会を理由に一緒に登下校していたのをやめた。お昼だって他の奴と食べるといってテツヤからの誘いを断った。その他テツヤとの行動を一切やめた。
呼び方だって"テツヤ"から"黒子"に変えた。テツヤはそれに戸惑っていたけれど、テツヤも僕を"征くん"から"赤司くん"と呼ぶようになった。"赤司くん"に呼び方が変わった辺りからテツヤも余所余所しくなったから避けられていると察したのだろう。
それが分かると急に寂しくなった。自分から距離をとったというのに無性に腹が立った。自分勝手な事は分かっていたが、どうしてもその苛立ちは消え去ってくれなかった。
そして僕は、その苛立ちをあろうことかテツヤにぶつけていた。
『やあ、黒子。僕はまたテスト満点だったんだ。黒子はまた平均点?』
『相変わらず影が薄くて気味悪い。どうにかならないの、それ』
テツヤに会う度にこれだ。まあ、テツヤが一人のときを狙って会いに行っているのだが。
何か話そうと口を開くと出てくるのはテツヤに対する悪口。思っている事と正反対の事を口走ってしまうのだ。本当は「テツヤは勉強大丈夫か?」とか「そんな影が薄くてやっていけてるのか?僕が傍にいなくて大丈夫か?」とか優しい言葉を掛けたいのに。
距離をとりたいのに、離れたくない。会いたいのに、会ったらなんだか照れ臭い。矛盾した想いに自分でも呆れる。
そうしてもたもたしていたから、こんな事になってしまったのだろうか。
「どうしよう、真太郎」
「なんなのだよ。どうせまた黒子に何か言ったのだろう」
いつもテツヤのことで何かやらかしたときに相談しているのは小学校から一緒の緑間真太郎と紫原敦だ。二人はテツヤとも友人の仲だから、なんだかんだ言って僕の相談にのってくれている。ちなみに僕のテツヤへの気持ちは僕が自覚するより先に気付いていたらしい。曰わく、分かりやすいだとか。どの辺が分かり易かったのかは教えてくれなかったが。
「違うんだ…いや確かに僕は今まで散々嫌みをテツヤに言ってきたけど、今回は、」
「赤ちん顔真っ青だよ〜」
「だって…最近テツヤは意図的に一人で行動してない」
その言葉に真太郎も敦もはて?と首を傾げている。
「それどういうこと〜?」
「今までは必ず一人になるときがあったんだ。だから僕はその隙をみてテツヤの様子を見に行ってた」
「実際は嫌みを言いに行っていただけだがな」
真太郎のぼそりと言った厳しい突っ込みにも睨み付ける余裕はなかった。だって、だって。
「いつ見てもテツヤの隣には黄瀬涼太か青峰大輝がいる」
「それはそうだろう。あいつらは黒子の友人だったはずなのだよ」
「それオレも黒ちんと話したとき聞いた〜。すごい嬉しそうに話してた〜」
ずがん、と頭に雷が落ちたみたいに衝撃が走った。確かにあいつらがよくテツヤと一緒に行動していたことは知っている。しかしそんな嬉しそうに話す程テツヤがあいつらを好いているなどは知らなかった。
「そ、それは…、いや、その事はあとで詳しく聞く。そうじゃなくて、」
「どういう事なのだよ」
「今までは昼休みとか、部活時とかだけだったんだ。たまに出掛けていたがそれだけだ。なのに…今じゃ登下校、学校での時間はもちろん休みの日まで、ずっと過ごしているんだ。これじゃあテツヤに会える時間がない!」
「というか赤司、お前は何故そんなに黒子の生活風景を知っているのだよ…」
若干引いている様子の真太郎は放置して縋るように敦の方を見た。テツヤの様子をチェックするのは当然だろう?
敦は、ん〜?と考える仕草をしながらポテトチップスの袋を開けた。パリパリと咀嚼しながらぽつりと一言、爆弾を落とした。
「黒ちん、赤ちんと会いたくないから一人にならないようにしてるんじゃない?」
本日二度目の衝撃が頭を襲った。そんな、まさか。もしかして本当に嫌われてしまったのだろうか。
「テツヤに嫌われてたら僕は生きていけない鬱だ死のう」
「ま、待つのだよ赤司。まだそうとは決まったわけではない」
「でも…」
「黒ちんに直接確認しにいけば?」
ポテトチップスを食べ終わり今度はクッキーを頬張っていた敦が提案してくれたがその案は色々駄目だ。
「僕から距離とってるのにそれは変だろう…それに素直に聞けたらこんなに苦労していない」
「はぁ…お前は本当に面倒臭い奴なのだよ。じゃあもう玉砕覚悟で告白すればいいのだよ」
「!?」
こくはく?告白?あのドラマや漫画でよくあるあれを僕がテツヤに?
「無理無理無理!!」
「赤ちんがこんなことで負けるなんて…」
「負けてない!」
勝利が基礎代謝の僕に敗北の二文字はないに決まっている。いいだろう、そんなことを言うのなら。
「テツヤに告白すればいいんだろう?僕に出来ないわけがない」
「言ったな、赤司」
「わ〜赤ちん頑張れ〜」
なんだか嵌められたような気がしないでもないが、既に僕の頭の中はテツヤに告白することでいっぱいで二人を疑うところまで気が回らなかった。
そうして僕、赤司征十郎は幼馴染みへの一世一代の告白を決めた。