ツンデレ赤司くんと幼馴染み黒子くん01


ボクの幼馴染み、赤司征十郎くんは学年一頭が良くて、スポーツや勝負事をすれば負けなし、顔もよし、性格も(普段は猫かぶっているため)よしで周りからの信頼が厚い。
一方のボクといえば勉強は普通、体力はないのでスポーツは全くと言っていいほど駄目。唯一他の人と違うところがあるとすれば有り得ないくらいに影が薄い事だけのごくごく普通の男子中学生だ。
普通こんな完璧な幼馴染みがいればコンプレックスにくらいなるかもしれないが、彼の場合羨望すらなくなるから不思議だ。
しかしそんな幼馴染みは中学に入ってからと少し、というかかなり変わってしまった。
家は隣同士で毎日のように仲良く遊んでいたのに避けられるようになった。昔から征くん征くんと慕っていたのだが、赤司くんの呼び方がテツヤから黒子になってしまって。つられるようにボクも今は征くんではなく赤司くんと呼んでいる。
最初は戸惑ったけれど、元々彼とボクでは住む場所が違いすぎたから距離を置かれて当然だったのだ。
しかし今の赤司くんは正直言って面倒だと思う。昔の仲を疑うほどボクに冷たくなったからだ。嫌いなら嫌いと言ってとことん突き放せばいいのに一度も嫌いとは言われた事がないし、むしろ関わってくるのは赤司くんからだった。何かにつけて嫌みを言ってくる赤司くんには落ち込むし面倒臭い。
しかもボクはそんな同性の幼馴染みが好きだったらしい。likeではなく、loveの方で。避けられて気付いたのは赤司くんがボクを嫌いだということと、ボクの赤司くんへの気持ちもだった。
それを知るとボクの悩み事は更に増えてしまった。もしかすると察しのいい赤司くんはボクが自分の気持ちを知る前に先に気付いて気持ち悪くなって離れてしまったのではないかとか、それを周りに言いふらされてしまったらどうしようかとか。後者は今のところないが、前者だったら鬱だ。死にたい。それだけはないと願って毎日平然を装いながら過ごしている。
だからこういう事は本当に勘弁してほしい。

「何故こんな事に…」

母はまだボクらが仲良くやっていると思っているらしい。赤司家とは家族ぐるみの付き合いの為、どちらかが話せば筒抜けになるだろうからきっと赤司くんのお母さんもまだ知らないのだろう。
それの何が問題かというと、母が肉じゃがを作りすぎたため赤司さんにお裾分けしたいからといってボクに頼んだのだ。
普段はなるべく会わないように努力しているというのにこれでは無駄だ。
しかしこのまま赤司家の前で突っ立ってるわけにもいかず、ボクは決心を決めて大きく息を吸って、チャイムを押した。そうか、別に赤司くんが出るとは限らないのか。おばさんが出てくれれば、と淡い期待もすぐに打ち砕かれ、聞こえてきたのは機械を通したどちら様、と問う赤司くんの声だった。それにさえ少しドキッとしてしまう自分に内心呆れつつ、こんばんは、とだけ伝える。
声だけでボクだと分かったらしい赤司くんは無言で玄関の扉を開けた。

「これ、お母さんが作りすぎたからどうぞって」
「…分かった、用はそれだけ?」
「はい。では」

用件だけの短い会話をして早々に去る。これ以上話しているとまた何かを言われるからだ。
赤司家を出て、すぐ隣の自分の家に駆け込む。玄関の扉を開けて思わず重い溜め息を吐いてしまい慌ててぱちんと自分の両頬を軽く叩く。

「すごく疲れました…」


***


小学生の頃とは違い、一人で歩くのが当然になってしまった通学路を通り学校へ辿り着く。
校内に入ると女生徒たちが浮き立っている事に気が付いた。今日は何かあっただろうかと思考を巡らせるまでもなくその答えはあっさり聞こえてきた。

「今日集会だよー!」
「ほんとだ!きゃー!赤司様を拝める!」

彼女たちは本日行われる月に一度の集会を楽しみにしていたらしい。
赤司くんは一年生にして生徒会長を務めている。そのため集会のときは必ずステージ上に上がって挨拶をしている。
文武両道イケメンな赤司くんが女子にモテないはずもなく、ただでさえ人気の彼は生徒会長という肩書きのおかげで更に目立つ。
こういうところでも距離を感じて切なくなったりする。

(しかし赤司様ってすごいですね…)

幼馴染みの人気さを実感しつつ、のろのろと教室へ向かうとボクの机を挟んで騒いでいる二人の人物を見つけた。

「青峰くん、黄瀬くん、おはようございます」
「ぅおっ!?テツいつからいた!?」
「先程からですが」
「相変わらずっスね〜黒子っち。おはようっス!」
「それで何を話してたんですか?」

彼らはボクのクラスメイトの青峰大輝くんと黄瀬涼太くん。中学に入ってから出会ったけれども席が近かった事からか気付けば話したり一緒に昼食をとったり帰宅したりする仲になっていた。影が薄くクラスに認識されにくいボクにとっては数少ない友人たちだ。

「バスケのことだよ!テツも今日やるだろ?」
「もちろんです…!」
「決まりっスね!」

そこまで話したところでチャイムが鳴り、先生が来たので話は終わった。


***


元々体力はあまりない方だけれどバスケは好きで小さい頃からボールを触っていた。
中学に上がりようやく憧れのバスケ部に入り、死にそうになりながらも楽しんでいる。黄瀬くんや青峰くんと話が合ったのもバスケがあったからだ。二人は部員数が百を越えて三軍まであるこの学校のバスケ部の一軍レギュラーだ。それなのに三軍のボクにまで気にかけてくれて本当に感謝している。
ボクは体力がないだけではなくバスケセンスも皆無のようでシュートだってドリブルだって下手だった。
それでもバスケをやっているのは先程言った通り好きなのも理由なのだけれど実は赤司くんとまた仲良くなれないかと下心があるのもあったりする。我ながらどれだけ未練がましいと思うけれど小さい頃パスを教えてくれたのは赤司くんだった。だから唯一ボクはパスだけは人並みに出来る。二人はボクの出すパスが好きらしい。だからよく自主練に誘ってくれる。
そして今日も二人と自主練だ。

「黒子っちー!パス!」
「はい、青峰くんっ!」
「っしゃ!ナイスパス、テツ!」

こつん、と拳を合わせるとボクも青峰くんも笑う。そこに、ずるいっス!と混じってくる黄瀬くんとハイタッチをする。
また、こんな風に赤司くんともバスケがしたい、なんてぼんやりと考えていたらどうしたんスか?と黄瀬くんが心配する声が聞こえてはた、と我に返った。なんでもないです、と苦笑するもモデルをやっているからか人の感情に鋭い黄瀬くんには通用しなかったらしく、青峰くんに休憩を持ち掛けた。これまた野生の勘なるもので鋭い青峰くんも何かを察したらしく、ボクは二人に連れられ近くのベンチに向かった。

*

「…で、何があったんスか」

スポーツドリンクをぐい、と喉に流し込むと静かに身体に染みていった。それを感じながら黄瀬くんの方を向いてじっと顔を見つめる。
黄瀬くんの表情はいつになく真剣で、本気で心配してくれていることが伺い知れた。
こんな事で心配掛けて申し訳ないと思いつつも今まで相談相手のなかった悩み事はあっさりと口からこぼれた。

「……、ボクの幼馴染みの事なんです、けど、…」
「テツお前幼馴染みいたのか?」
「はい。君みたいに美人で可愛い女性ではありませんが…」

青峰くんの的外れな質問に嫌みを交えて返すも彼には一切通じず「さつきは美人でも可愛くもねーだろ…」と失礼なことをぼやいている。
そんな青峰くんの独り言をスルーしてボクは続けることにした。

「中学に入ってから急に避けられるようになった上、冷たくなったんですよ…それがなんだか寂しくて…」
「へー、急にって何なんスかね。ちなみに黒子っちの幼馴染みってどんな人か聞いていいっスか?」
「はあ、まあ。驚かれるというか信じてもらえるか微妙ですけど我が校の生徒会長サマ赤司征十郎くんですよ」
「「………は?」」
「彼がボクの悩みの種の幼馴染みくんなんです」

案の定彼等は口をあんぐりと開け、信じられないものを見る目でボクを見ている。聞こえているかは分からないが、念の為もう一度言うとあまり働かせない脳をフル回転させて言葉の意味をゆっくりと噛み締めて、時間差のリアクションを見せてくれた。

「あ、あ、あの生徒会長っスか!!?」
「ううう嘘だろ!?は!?」
「そこまで驚きますか」

そんなに驚かなくてもと首を傾げると二人は怪談話を語るように震えながら言った。

「オレ…生徒会長は神と魔王に育てられて友人は皆その遣いって聞いてたっスから…」
「オレも…よく赤司の隣にいる紫原って奴は妖精で、緑間って奴は妖怪って聞いたぞ…」
「赤司くんも紫原くんも緑間くんも立派な人間です。…というか君たちの間での彼等の噂はどうなってるんですか…」

幼馴染みの新たな噂を耳にして思わず遠い目をしてしまった。なんなんだそれは。神?魔王?しかも小学校から一緒だった緑間くんや紫原くんまで妖精だの妖怪だの言われていたんですか。とばっちりじゃないですか。
とりあえず緑間くんと紫原くんだけでも誤解はしっかりと解いておこうと口を開く。

「緑間くんも紫原くんも人間なので本人たちに失礼のないようお願いしますよ。彼等はボクの友人でもありますから」
「あ!?そうなのか!?」
「く、黒子っちの意外すぎる人脈がどんどん出てくるっス…」

まあ確かに彼等とは赤司くんとの関係がギクシャクしだしてから時々しか話さなくなった。ボクと赤司くんに何があったか薄々察しているらしく、話す度に励まされたりお菓子をくれたりするから彼等はまだ友人という関係でいいのだろう。

「まあ避けられたりするだけならいいんですけど、赤司くんはわざわざボクに嫌みを言いに来るんですよ」
「はァ?」
「ボクが一人のときを狙ってはテストで全教科満点をとったとか相変わらず影が薄すぎて気味悪いとか」
「うわあ…あの人かなり嫌な奴だったんスね…」
「まあそういうわけでどうにかならないかと思っていたわけです」

理由を話すと二人はうーんと考え込む仕草をする。ボクは本当にいい友人を持ったなあと感動していると青峰くんが静かに手を挙げた。

「じゃあさ…一人にならないようにすれば赤司の奴も関わってこないんじゃないか?」
「あぁ、なるほど!相手は黒子っちが一人のときに来るってことだからそうすれば大丈夫っスよね!」
「…!なるほど」

青峰くんもたまにはいいことを言うんだな、と感動してしまった。だがそれには問題がある。

「でもそうなると君たちのどちらかに必ずいてもらうことになりますが…」

悲しいかなボクには彼らしか頼れる人がいなかった。しかし二人は笑顔でボクの背中を叩きながら言う。

「黒子っちのためなら一肌脱ぐっスよ!」
「おお、だから頼れよ」
「黄瀬くん…青峰くん…ありがとうございます」

何度思ったか分からないがやっぱりいい友人だ。
しかしこれで赤司くんに言われた事で惨めになることもないとほっとしつつ、少しだけまた距離が離れてしまったことに落胆した。


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