櫂アイ


*恋単語 温もり


「あったかいね」


アイチは突然そんな事を言った。
此処は俺の部屋で、エアコンが入っていて室内は丁度良い涼しさが保たれている。今頃外はじりじりと太陽がコンクリートを焼き尽くしているだろう。


「暑いなら温度下げるか?」


アイチの言いたい事が分からず、とりあえずそう言ってから机の上に置いてあるエアコンのリモコンへと手を伸ばす。するとアイチは慌ててぶんぶんと頭を横に振ってから俺の腕を掴んでリモコンを取ろうとするのを阻止した。


「ち、違うの。暑いんじゃなくてね、」
「?じゃあ何なんだ」


自然と眉間に皺が寄る。俺の問いにアイチはあー、だのうー、だの言葉にならない言葉を発している。少しだけ俺たちの間には沈黙が流れ、エアコンが風を送る音と時計の秒針が進む音がやけに大きく響いた。


「…心が、あったかいね…って」
「…は」


思わず間抜けな声を出してしまったと思う。


「えとね、櫂くんと居るだけでいつも胸がぽかぽかするんだ……ってなんか僕変な事言っちゃった…?ご、ごめん忘れて…!」


一人ぽつぽつ話し出したかと思うと、無言を貫く俺に今度はひとりでに焦り出すアイチ。なんだこの可愛い恋人は。あぁ、俺の恋人か。


「お前はという奴は…」
「櫂くん…?」
「俺だって、お前と居るときは暑いくらいにどきどきしてる」
「え…嘘…」
「嘘じゃない、ほら」


アイチの手を掴み自分の胸へと当てさせる。
そこはとくとく、と規則正しい音よりも少しだけ早く動いていた。
それを確認したアイチは俺の胸からぱっと手を離すと、座り直して反対側を向いてしまった。


「…あついね」
「温度、下げるか」
「うん…お願い」


今度こそは阻止されずにリモコンを手に取る。
アイチの耳は火照ったように赤くなっているのがちらりと視線の端に映る。顔は見えないがきっと耳と同じように赤くなっているのだろう。アイチは暑い、と言ったがそれはきっと夏の暑さのせいじゃない。気付けば知らないうちに口角が上がっていた。


配布元:妃月


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