櫂アイ


*恋単語 指輪


「…あ、」


アイチは今日部屋の掃除をしていた。別にこれといって部屋が汚いわけではないように見えるのだがエミに、そんな事言ってあとから後悔しても知らないわよ、と言われてしまってはなんだかやらなきゃいけないように感じてしまって掃除を始めた。
そしてアイチが声をあげたのは絨毯に掃除機をかけ終わって机の整理をしていたときの事だった。


「指輪…」


鍵付きの引き出しを開けて、必要なものともう必要ないだろうというものを分けていたとき引き出しの奥底に眠っていた小さな木箱を見つけた。その中にはきらきらとした淡い水色のビーズが使われた手作りらしい綺麗な指輪が入っていた。
しかしアイチはその指輪に覚えがなかった。
鍵付きの引き出しにアイチは大事にしている物を入れる事にしていた。だから、ブラスターブレードだって小さい頃はここにしまって、毎日ここを開けては取り出して眺めていた。それ以外にも昔母のシズカと一緒に見つけた四つ葉のクローバー、海に行ったときにエミと拾った貝殻。一つ一つの物の思い出は全て覚えている。が、この指輪だけは何も分からないのだ。必死に思い出そうとしても何一つ思い出せない。


「おかしいな…、なんだっけ、これ…」


***


「わぁ、綺麗ね。アイチこれどうしたの?」
「机の引き出しの中に入ってたんだけど…。それが覚えがないんだ、その指輪。エミ知らない…よね…」
「うん、知らないよ」


アイチはもしかしたらエミのが間違って紛れ込んでいたのかもしれないと試しに聞いてみたのだけれど、どうやらその見当ははずれだったようで何も分からなかった。
別に指輪一つにこんなに必死にならなくてもいいはずなのだがアイチはどうしても知りたくなった。


***


「…それは?」


アイチが公園へ向かうと、偶然ベンチに座ってデッキを確認している櫂に会った。許可を得てから隣に座る。そこで櫂はアイチが手に何か持っているのを見つけた。問い掛けをそのまま口にする。するとアイチは少し思案する様子を見せたあと、櫂の問い掛けの答えと、返すように疑問を口にした。


「部屋を片付けてたときに見つけた指輪なんだけど…、全然覚えがないんだよね…どこで手に入れたのかなぁ、って。…もしかして櫂くん知ってたりしない?」
「…いや、」
「だよね…」


期待していた答えが返ってこず、がっくりとうなだれるアイチ。しかし櫂はそうじゃない、と前置きし、先程の言葉を続けた。


「多分、それは俺がお前に渡したものだ」
「へぇ……、ええぇえ!!?櫂くんが!?」
「あぁ、見覚えがある」
「そ、そんな…僕、何も覚えてないなんて…」


アイチは今度は落ち込みによってうなだれる事になった。
うんうんと唸りながら一生懸命思い出そうとしている様子を見て櫂はくすりと微笑んだ。


「祭りの夜店で買ったものをあげたんだ」
「えっ、えぇと…」


櫂が助け舟を出すも、余計に思い出せない、と降参の意を見せ始めるアイチ。


「まぁ、覚えてなくてもいい」
「え?」
「貸してみろ」


そい言うと櫂は呆然としているアイチの手から指輪を奪うと、アイチの方を向いた。
頭からクエスチョンマークを出し続けるアイチに櫂は先程奪った指輪をアイチの薬指へと嵌めた。


「今はこれで我慢しろ。そのうちダイヤをプレゼントしてやるから待ってろ」
「え、えええええ!!!?」


公園内にアイチの声が響き渡った。ぼんっ、と音が出そうな勢いで赤面したアイチの額に櫂は軽く口付けた。その事にアイチはふらりと倒れてしまった。
その後アイチが櫂の家に泊まる事になったのはまた別の話。


配布元:妃月





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櫂アイ結婚式はよ


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