黄黒


*恋単語 花束


今日も一日長い撮影の仕事を終えて帰路に着く。はぁ、と大袈裟に溜め息を吐くと、マネージャーからは幸せが逃げるわよ、なんて言われてしまった。
そんなときに耳に慣れた心地よいメロディが流れ、携帯が振動する。この安心感はきっと彼のみに設定されているメール着信音だからだろう。
スマホのそれをタッチ操作して、メールを開く。当然それは彼からのもので、自分を気遣う一言と今日の晩御飯のメニューが書かれている彼らしい顔文字も絵文字もない簡素なメールだった。
くすり、と笑ってからこちらも簡単に返信すると、一刻も早く彼の待つ自宅に帰宅する為にその場から駆け出した。

暫く行くと、ふと花屋が見えた。いつもなら素通りするところだが、そういえばと一つの事を思い出す。
黄瀬は花屋へと身体を向けるとその中へと足を踏み入れた。

***

「ただいまっスー!」
「おかえりなさい、黄瀬くん」


ガチャリと鍵の開く音がして、すぐに騒がしくなる。あるはずがないのに毎回どうしても黒子には黄瀬に耳と尻尾が生えていて、それを嬉しいそうにぶんぶんと振っている幻が見える。


「黄瀬くん遅かったですね…あれ?」


黒子は黄瀬が背中に隠して持っている何かに気付いた。小首を傾げて訊ねると、黄瀬はにんまりと笑ってから思いっきり黒子の前に突き出した。


「…!?」
「黒子っち、朝テーブルの上寂しいって言ってたっスよね?だから花買ってきたんスよ」
「わ、ぁ、綺麗ですね」


驚きはしたものの、それよりも黄瀬がそんな小さな呟きをちゃんと聞いていて、覚えてくれていた事に嬉しさを感じる。黒子がありがとうございます、とお礼を言ってから花瓶を取りにリビングへと足を向けようとしたとき。


「お礼はこれでいっスよ」


ちゅ、とリップ音を立ててから額へとキスを落とされる。黒子は思わずばさり、と花束を落としてしまった。


「ききき、黄瀬くん…!」
「あーあ、せっかくの花束なんスよー!落とすなんてひどいっス!」
「誰の所為だと…!」


花束を拾って抱えると黄瀬はとっととリビングへ向かってしまった。


「今日の晩御飯オニオングラタンスープにしたのが間違いでした!」


配布元:妃月





----------
同棲黄黒かわいい


×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -