櫂アイ


*恋単語 特効薬


「はぁ…」


アイチは大きな溜め息を零した。
現在はカードキャピタルにていつものメンバーでファイトをしていたのだが、どうもアイチの調子が良くない。トリガーは全くといっていい程出ないし、プレイミスの連続でこれはどう見てもファイトに集中出来ていない事が見え見えだ。
そのためアイチは皆から少し距離を置いたところに座り、遠目にファイトを見学していた。


「はぁ…」


もう一度、今度は先程よりも大きな溜め息を零した。何故今日はこんなにも調子が悪いのだろうか、いくら考えても答えは出て来ず、今日は見学するしかないのかと結論を出しかけていた時、輪の中から一人出て、こちらへ歩いてきた。


「…三和くん」
「よう、今日はどうしたんだ?アイチらしくねーじゃん」
「あはは…」


自分でも分からないものは人に説明しようがない。乾いた笑いを浮かべてそのまま自分の意志を伝えると、三和も苦笑した。


「まぁたまにはこんな日もあんだろ!元気出せって!」
「うん…ありがとう三和くん…」


三和は励ましながらアイチの背中をぽんぽんと優しく叩いた。そんな三和に礼を言うと、また明日ファイトしようぜ、と言われてしまった。そのまままた輪の中に戻っていく三和を見つめてアイチは今日はもう帰ろうと決めて立ち上がった。
そういえば課題をまだ終わらせてなかったな、とぼんやり頭の中で考えながらレジにいるミサキに挨拶をする。ミサキからも心配されたが、苦笑して誤魔化して店を出る。
外は絶賛夏とあってか太陽がじりじりとアイチの肌を焼いた。店から出てきた事もあり、余計に感じる暑さを無理矢理振り切り、家への道のりを歩き出そうとする。


「アイチ」
「へ?」


そのとき、後ろから聞こえてきた声にぴたりと動きを止める。声の聞こえた背後を振り向くとそこに居たのはアイチに声を掛けた張本人、櫂トシキだった。
様子を見るに今からカードキャピタルに行くつもりだったのだろうか。そうだったら残念だなぁとアイチが考えていると再び櫂が声を掛けた。


「…今帰るとこなのか?」
「う、うん……、」


そこでアイチは言葉を止めてしまった。調子が悪い、なんて言ったらまた呆れられるのではないか。咄嗟に浮かんだ考えを振り切る事が出来ず、たらりと頬を伝う汗が滴り落ちた。


「…?」
「や、暑いし、早く帰ってアイスでも食べようかなって、」


訝しむ櫂に歯切れ悪くもなんとか尤もらしい理由をつけてその場を去ろうとするけれども櫂はそれを許さなかった。


「待て。何かあったのだろう、話を聞く」
「えっ、いや、いいよ…!っじゃなくて!何もないよ!」


口走ってしまった事を慌てて訂正するも櫂は既に聞いてしまった為、墓穴を掘ってしまった事にアイチは気付かない。
そんなアイチを見て櫂はその手を掴んで早足で歩き出した。


「か、櫂くん!」
「うちに来い。何が何でも口を割らせてやる」


***


しん、と静まり返った室内でアイチはどうしたものかと気まずい思いをしていた。強引に櫂の自宅へ連れてこられたものの、先程から櫂は一言も喋っていない。アイチは小さく息を吐き出した。


「…言う気はないのか?それとも言えないのか?」


丁度そんなタイミングでようやく沈黙を破ったのは櫂だった。


「うーん…言ったら櫂くんにまた呆れられちゃうかな…って…」
「?どういうことだ」


ええい、どうにでもなれ!と半ばやけくそにアイチは理由を話した。


「今日、皆といつものようにファイトしてたんだけど、プレイミスとか多くて…す、スランプ?って言うのかな…」


恐る恐る櫂の顔を覗いてみると、眉間に皺を寄せて不機嫌そうな櫂の顔があった。やはり呆れられたのだろうか、そう思って謝ろうと口を開けたが櫂に先を越された。


「そんな事か。何故それで俺が呆れるんだ」
「え…だって…」
「誰にだってそんな日くらいあるだろう。わざわざ落ち込むまでもない」


その言葉には櫂なりの励ましが含まれており、アイチの目からはじわりと涙が溢れた。


「あ、ありがとう…櫂くん…」
「ようやくいつもの調子に戻ったな……じゃあファイトするか」
「うん………、え…?」
「返事をしたな?」
「櫂くん話聞いてたよね!?僕今日調子良くないって…」
「いいからデッキを出せ」
「わっ、ちょっと待っ…!」
「スタンドアップ!THE!ヴァンガード!」
「す、スタンドアップ!」


そのファイトはいつも通り出来たとかなんとか。


配布元:妃月





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櫂くんの言葉はアイチきゅんの特効薬ですよって


あ もう公式か…


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