ゼロから始める祝福生活03


「スバル!大変なのよ!」
「くぎょぷ!?」

 惰眠を貪る日曜日の朝。昴は突然妹により叩き起された。なんだなんだと慌てて起き上がると、ベアトリスはどこか喜々たる表情を隠せないまま昴の布団をぺしぺしと叩いていた。

「どうしたんだ?可愛い顔でそんなに慌てて」
「ベティーの可愛さは今は置いておくかしら!それより、魔法…っ!」
「魔法?」

 魔法。前世では途中から異世界で過ごしたことによりスバルも慣れ親しんだ力。だが今はこうして地球に生きているため、最近はめっきり聞かなくなった単語だ。

「ベア子、この世界に魔法はないんだぞ」
「今…!あったのよ!」
「ええ…?」

 やけに強気なベアトリスに昴は押されてしまう。おそらくベアトリスにとって見慣れない何かのことを言っているのだとは思うが、ふんす、と息をまく妹が可愛いのでここでのこれ以上の反論はやめておく。

「あれはきっと変身魔法の一種かしら!」
「変身……今日は日曜日……あっ、」

 昴はハッとして手を打った。ベアトリスが何を言っているのか分かってしまったのだ。
 日曜日の朝といえば、ちびっこから大きなお友達までおなじみの変身ヒーローモノの番組が放送されている時間帯である。昴が時計を見ると時刻は九時を過ぎた頃。時間的に女児をメインターゲットにしている少女戦士のアニメを見たのだろうとあたりをつけ、昴は静かにベアトリスの頭を撫でた。そういえば、ベアトリスはまだアニメをよく見たことがなかったかもしれない。

「何か知ってるのよ?」
「あのな、あれはアニメといって絵が動いてるんだ」
「な…!」
「所謂フィクションだな。本のように物語の表現のひとつだ」
「!!………やべぇかしら………!!」

 ずがん、と背後に稲妻が見えるような衝撃を受けたベアトリス。しかしすぐにその瞳はきらきらと輝いていく。これは完全に落ちたな、と昴は思った。

「よーし、来週は兄ちゃんと一緒に見ような〜」
「…!スバルも興味があるのよ…!?」
「おー、あるある」

 本当はベアトリスがアニメを見てどんな反応をするのかを観察したい気持ちが勝っている昴だったが、もちろんそのことを正直に口には出さない。

「そうだ、お前変身アイテムが欲しいなら容赦なくおねだりしていけ」
「かしら?」

 そうした昴の一言に、ベアトリスは丸い瞳をぱっちりと開き、瞬かせた。





 後日某大型玩具販売店にて、おねだりの結果無事目的のおもちゃを手に入れたベアトリスは、周囲にぽやぽやと花が飛んでいる幻覚が見える程にご機嫌だった。
 昴に変身アイテムのおもちゃがあると聞いたベアトリスは、本以外の物で初めて物欲を見せたのだ。それは両親から見ても、そして昴から見ても珍しい姿だった。思わずほろりと涙がこみ上げてしまったのも仕方がないことだろう。

「スバル、スバル!本当に本物そっくりなのよ!」
「そうだな…技術の進化を感じるな…」

 変身アイテムの他にも魔法を使う為のアイテムも買ってもらったベアトリスがそれを持ったままくるくると回り、昴の眼前にビシリと突き出した。

「ミーニャ!」
「こら!お兄ちゃんに向かって魔法を放つんじゃありません!」

 しかし、困ったことにそんなやりとりが何回も行われるようになるなど、そのときの昴には予想できないことだった。



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