「お前らが今までやってたことが恋人同士でやることだよ」


「ん」
「赤司くん」


冬も近づくこの季節、大きな身体と人数のせいで教室が窮屈に感じてしまうという理由で屋上にて昼食をとっていたバスケ部一軍レギュラー、キセキたち。さすがの青峰も少しだけ震えた背中に、やはり窮屈さを我慢して昼休みも教室で過ごした方がいいかと考え直しているときだった。
このメンバーの中にいるせいで、平均身長はあっても小さく見られてしまう二人――赤司と黒子がひとこと言葉を交わして目配せすると、急に黒子が立ち上がった。


「テツ?」


隣にいた青峰が声を掛けたすぐあとに黒子はまた座った。のはいいのだが、場所が場所だったためその場にいた当人たち以外が固まった。


「…………え?」


たっぷりと時間を使って一番に我に返ったのは黄瀬だった。しかし未だに頭の整理は出来ていないようで、え?え?と黄瀬の頭上にはひたすら疑問符が浮かんでいる。
なぜこうも四人が揃って固まってしまったかといえば――黒子が赤司の前に座り、赤司が黒子を背中から抱き込んだからだった。しかも黒子も黙って赤司に抱き込まれながら、何もおかしいことはないと、自然だとでもいうように冷静に本を読み始めるではないか。
そしてこれがまだ、付き合っているというのなら百歩譲って受け入れられるものかもしれない。前提として、男同士という点を置いておくのならば。
ところがこの二人は同級生であって、友人であって、ただのチームメイトだ。少なくとも四人の知る限りでは。
ここまで思考を回転させた緑間は、おそるおそる口を開いた。


「……お前ら、付き合って、いたのか…?」


しーん、と静まり返る屋上。あの紫原でさえお菓子を食べる手を止めているので、今この場には時折吹く風の音が四人にはやけに大きく響いた。
黙って見守られる赤司と黒子。二人は顔を見合わせてぱち、ぱち、と数回瞳を瞬かせると、二人して首を傾げたのだった。まるで何を言っているのか理解できないという表情を浮かべて。


「緑間、お前なんでそんなこと」
「ていうかみなさんなんで固まってるんですか?」


このなんともいえない空気に、今頃気付いた黒子は皆の顔を見まわした。


「赤ちんと黒ちん近すぎるよ…」


珍しく真面目な顔をしている紫原が告げる。そのことでようやく周りの言いたいことが分かったのか、二人はくすくすと本当に可笑しそうに笑い出した。


「寒いからくっついてるだけじゃないか」
「これくらいで付き合ってるかなんて言いませんよ、普通」


いやいや男子中学生は友人同士でそんなことしねえよ、おかしいから脳が思考停止してんだよこっちは。
とは全員の心からのツッコミであった。ただし、それが空気を震わすことはなかったと明記しておく。


***


四人が密かに"ナチュラルホモ事件"と名付けているあの出来事から一ヶ月が経とうとしていた。
本格的にシャレにならないくらいの寒さになってきたため、妥協して食堂の一部を占拠することにした一行は昼食を手に入れるため、ぞろぞろと注文所に向かっていた。
カレーにするか、うどんにするかの究極の選択を迫られていた青峰は黄瀬に問いかけた。


「なぁ黄瀬。もしこれが最後の晩餐だったらどっち食う?」
「これ昼飯っスよ。オレはナポリタンに決めたっス」
「てめえの意見なんざ聞いてねぇ」


ぎゃあぎゃあと喚きだした黄瀬を無視して青峰は黒子に訊ねることにし、後ろを振り向いた。


「なぁテツ…」
「赤司くん、ボクはサンドイッチがいいと言っているじゃないですか」
「駄目だ、少なすぎる」


その会話は青峰にとって慣れたものだった。キャプテンの赤司が、部活でへばってしまう黒子のことを心配してもっと食べろと説得しているいつもの光景。黒子への過保護さは他のキセキたちもほとんど変わらないので赤司と同意見だった。
ここで青峰は何も気付くべきではなかったのだ。そのまま黒子に訊ねて、あとは前を向いて先頭に辿り着くまでに選択をし終えていれば、きっと今日の昼休みは平和だった。
だが青峰の持つ野生の勘とやらは聡かった。ふと感じた謎の違和感に視線を下にずらした。


「………はっ?」


青峰は見てしまった。何故か赤司と黒子が手を繋いでいるところを。
瞬間的に青峰は約一ヶ月前の、今まで忘れかけていた記憶を思い出した。
と、同時にまたか、またなのか、と畏怖した。こいつらは男子中学生の距離感を未だ学習していなかったのか。


「青峰?」
「青峰っち?」


煩いと黄瀬を叱っていた緑間と黄瀬が青峰の異変に声をかけた。
ひょい、と覗いた黄瀬はすぐに事態を把握して、そっと目を逸らした。緑間もなんとなく察知して、関わらない方がいいだろうと顔を背けた。
ただ、青峰は逃げなかった。


「お前らなんで手繋いでんだよ…!」


バカ峰ええええ!!!!!
緑間と黄瀬は青峰の肩を思い切り掴んだ。やめろ、この子たちには何も教えてやるなと。
しかし青峰は止まらなかった。


「黒子がこっそり逃げないために決まっているだろう」
「ひどいです赤司くん。ボクには定食は食べきれないと何度も言っているのに」
「そうだ黒子、俺のと分けようか」
「そ、それなら…」
「なんっで男子中学生が定食半分こすんだよ!!!」


黄瀬と緑間は頭を抱えた。ついにツッコんでしまった。さっきからツッコミどころはたくさんあったが、心の中だけにとどめておいたというのに。
しかし緑間と黄瀬の心中などつゆ知らず、青峰はさらに踏み込んだ。そこに地雷があろうとも知らずに。


「恋人じゃねぇのに手ぇ繋いだり抱き合ったりって男子中学生としておかしいんだよ!!だいたい…」


青峰はこの際に言っておこうとばかりに、不可解な点を上げていこうと言葉を続けようとした。
だがそれは赤司のひとことによって完膚無きまでに叩き潰された。


「そうだったのか…では恋人になれば何もおかしくはないだろう?」


どうしてそうなった。
青峰も黄瀬も緑間も、そして黒子までもが一斉に赤司を見た。お前の頭の中を見せてくれ、今の流れでなぜ黒子と付き合うことになったんだ。四人の思考は全く一緒だと思われたが、一人は違った。
――そう、今まで違和感を感じずに赤司といちゃこらしていた当人である。


「なるほど赤司くん…さすがです…!」


なるほどじゃねーよ納得すんな。
しかし今の空気でそのツッコミをいれる勇気など三人にはなかった。バスケ界では天才だのキセキだの言われようが人間である。面倒事には関わりたくないし、両思いの人間を邪魔しようなどと野暮なことはしない。
初めからこの二人には、余計な口出しはしなくて良かったのだ。


「今日からボクたちの関係は恋人でいいんですかね?というか恋人同士って何するんですか?」
「分からないな…そうだ、あいつ等なら、っておい!お前らどこへ行く!」


三人は、赤司と黒子のせいですっかり忘れていた昼食を頼みに向かった。その目は遠くを見つめていたという。
結局全く関係のない蕎麦を頼んだ青峰は、ぼんやりとどうでもいい情報を知ったな、と考えた。
――赤司って、恋愛事には弱ぇんだな…。


ちなみに、このやりとりを始終見てしまった食堂にいた一部の帝光中の生徒たちの言葉を代表するように、さっさと先に昼食のオムライスを平らげながら一部始終を見ていた紫原がぽつりと漏らした。


「食堂ではご飯食べようよ〜…」







いちゃつくんならまずは付き合ってくれ!
(あ、でもこれ付き合ったら余計にウザくね…?)







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付き合ってないのにいちゃいちゃしすぎてる赤黒ちゃんでした。
ちなみにサブタイトルは勇者青峰の話。


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