離れない、離さない04


ホームルームの終わりを告げるチャイムが鳴り、挨拶を終える。授業が終わった放課後、生徒達は伸びをしたり、さっさと帰宅準備をして帰り始めたり、部活についてあれこれ話し出す者だったり。わいわいと騒がしい教室を早足で出てきた黒子もその中の一部であり、早くバスケをしたいとうずうずするのを抑えながら体育館へと向かう。
体育館へと繋がる渡り廊下へ差し掛かろうとしたところで体育館の入り口に黒子はバスケ部の先輩と思しき人達が数人佇んでいるのを見つけた。どこかで見たことある顔だ、と記憶の糸を手繰り寄せていると、彼らが此方を見たのに気が付いた。影の薄い黒子を見つけ出すにはよく探さないと気付かれない。ということはつまり彼らは自分を探していたのだろうか、黒子は首を傾げた。もしかすると自分じゃなくて他の人を見たのだろうか、思い違いだったのだろうかと後方を見てみるがそこには誰もおらず、此処に居るのは黒子だけでやはり彼らは黒子に視線を寄こしたのだと察する。


「おい」


彼らは声をあげながら黒子の方へと近付いてくる。その声を聞いて黒子はあぁ、と目の前に居る彼らのことを思い出した。


(確か、ボクやキセキの皆さんの陰口を言っていた方々ですね…3年生の先輩だったような気がしますが…)


と、すると今の雰囲気や彼らの顔を見る限り今から自分の身に何が起こるのかを黒子は瞬時に察知した。


(殴られたり、するんでしょうか…。でもボクの体力じゃあ逃げ切れないですし…キャプテンに教えて頂いたミスディレクションだってまだ使えません…。困りましたね…どうしたものか)


どうにかこの場から離れようと黒子は冷静に頭を働かすがいい案が浮かばない。そんな黒子を余所に3年生たちははずかずかと黒子に歩み寄ってくる。とにかく動かなければ、と思って黒子が足を動かしたときには既に遅く、彼らはがしりと黒子の腕を掴んだ。そのままぐい、と引っ張られて顔を見合わせる形になると腕を掴んだ―仮にAと名付ける―先輩Aは目を細めて睨みながら言った。


「お前がこの間一軍に入ったヤツだろ?影薄すぎて探すのに苦労したぜ。それにしてもお前こんなんでよくバスケ部に入ったな」
「…」


沈黙を貫く黒子をハッ、と嘲笑いながら彼らは黒子から手を離す。すると身長差の為に少し浮く形になっていた黒子はそのままバランスを崩してどさりと落とされて尻もちをついてしまった。黒子が無言のまま先輩を睨み返すと他の、先輩Bが目線を合わせるために屈んできた。


「なんだ、その顔。文句あんのか」
「……いえ、こんな事をして何になるのかと」


突然挑発的な事を言われ、腹が立ったのか彼らは噛みつく様に続けた。


「っ!うるせえ!お前なんか!」
「確かに、ボクは体格にも恵まれていませんし、能力だって特技だってありません!でも、それでも!バスケが好きで、頑張ってきて、そしてキャプテンはこんなボクが必要だと言ってくれました!この結果は努力が実ったと自惚れちゃいけないんですか!」


今まで無言で我慢していたものを吐き出すように叫んだ黒子に少し圧倒された彼らだったが、すぐに体勢を立て直した。


「黙れ!お前だけじゃねえんだよ!あの2年もそうだ!キセキの世代?笑わせんな、オレらの方がずっと頑張ってんだよ!」


そう言うと余計に苛々が募ったのか、黒子へと殴りかかってきた。咄嗟に避けようとするも間に合わず、黒子は降りかかる拳に覚悟を決めてぎゅっと目を瞑った。しかし。


「へぇ、君たちが努力をしていた…と。あれが努力と言えるならそうだよねぇ」


代わりに降ってきたのは拳ではなく、言葉。それも聞きなれた声に黒子はすぐに誰かのものか分かった。
驚いたのは黒子だけではなく、先輩らもそのようだった。予想外の来客にごくりと唾を呑む音が黒子の耳に届いた。


「なん、で、お前らが此処に…」


ようやく目を開けた黒子の視界に現れたのは既に黒子の方を見らずに後ろを向いている3年生と、その後方に居る赤司を始めとしたキセキの世代の面々だった。


「勿論、"掃除"だよ。なんだか体育館周りが汚れているって聞いてね。来てみたら本当だったよ」
「赤ちん、こいつ等捻り潰していーい?」


掃除、と言う赤司にのんびりとした様子で問う紫原。その様子とは打って変わる内容にひ、と声を漏らすのは対峙している3年生。


「文句あるならオレらに直接言えばいいじゃないスか」
「胸糞悪ぃんだよ、こんな汚ねぇ真似はよ」


いつも明るく人懐こい笑みとは違う影を含んだ笑みを浮かべる黄瀬。青峰はポキポキと骨の音を鳴らしながら怒りを露わにしている。


「黒子、何をしているのだよ。早くこっちに来い」
「はっ…はい…」


緑間に呼ばれ、黒子は慌てて立ち上がると、3年生の横を通り過ぎようとする。しかしそれは叶わず、黒子は再び腕を掴まれた。


「い…たっ…!」
「おい、お前ら…!」


そのまま両腕を掴まれ背後で抑えられる。一瞬だけ襲った痛みに耐えられず黒子は顔を歪めて小さく呻いた。それに気付いた赤司は思わず一歩踏み出すが3年生は形勢逆転とばかりにニヤリと口角を釣り上げる。


「少しでも動いてみろよ、動けばコイツの腕へし折ってやるけどな!」
「…!」


赤司はち、と小さく舌を打った。ちらりと仲間の方を見ると誰もが悔しそうに顔を歪めていた。どうする、と考えて視線を相手へ戻して目を細めて様子を窺う。下手に動いて黒子に何かあってはいけない。顎に手をあてて考え込んでいたときだった。


「…そうだ、」


赤司が何かに気付いた顔をしたあと、涼しいような笑顔を浮かべて、淡々とその事実を口にした。


「確か、お前ら一月前くらいに万引きしたよね?」
「…!!」
「あんな場面覚えていても仕方ないと思ってすっかり忘れてたんだけどまさかこんなところで役に立つなんてね。…ねぇ、僕が言いたいこと分かるよね?警察にばらされたくなきゃ今すぐ…僕達の前から失せろ」


鋭い眼光を浴びせられ、今度こそ完全にひるんだ3年生を嘲笑う赤司。慌てて逃げ出す様子を見届けると解放された黒子へと近付く。黒子はようやく自由になった身にふぅ、と溜息を吐く。


「キャプテンありがとうございました。それに、皆さんも」
「いや、礼を言われる程じゃないよ。あいつらは少し前からどうにか掃除しなきゃいけないと思ってたから」


遠くを見据える赤司の言葉に黒子以外の全員はあいつら死んだな、と確信するのだった。


***


「それにしても見事に出番なしだったのだよ」
「流石赤ちん〜」
「黒子っち大丈夫だったっスか!?」
「テツ怪我してねぇか!?」
「あ、はい。大丈夫です。ご心配をお掛けしました」
「良かったっス〜!」
「黄瀬うざいのだよ」
「真太郎の言う通りだよ、涼太ちょっと黙れ。それにしてもこれじゃあ今度の修学旅行不安だな…テツヤを一人にさせるなんて」
「えっ」
「「「「あっ、そういえば」」」」


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