黒子くん家!
※キセキ義兄弟パラレルで赤黒が双子。キセキ黒とか言いつつ赤黒贔屓になってます。シリアスっぽい。
「…え?今、なんて、」
「この子たちを育ててほしいの」
伯母から告げられた言葉にボクは眩暈がした。
この子たち、と伯母の足元に居るのは4人の子供たち。髪の色は黄色、青色、緑色、紫色とカラフルだ、というのが第一印象だった。
ボクには無理です。即座にそう断ろうとしたのに、隣に居た絶対君主、魔王などという異名を持つ兄はにっこりと擬音のつくような偽物の笑顔でさらりと言うのでボクは口を挟むことができなかった。
「いいですよ、僕たちが責任を持って育てます」
***
ボクは黒子テツヤ。そしてボクには双子の兄がいる。黒子征十郎くん。兄弟なのにくん付けはおかしいと思うけれど、ボクは友人のようなこの呼び方が好きだった。彼も特に何も言ってこないからこのままで良いと思っている。
そんなボクらは中二の頃に両親に捨てられた。
『お金は用意してあるから』
たった一言書かれたメモ用紙と通帳だけが残されていて、あぁ、捨てられたんですねってあっさりとその事実を受け入れた。
元々ボクらにあまり興味のない両親だったからこんなことがいつか訪れるのではないかと頭のどこかで考えていたのかもしれない。
けれど、中二という年齢で暮らしていくのは難しい。どうしようかと思案していると双子の兄、征十郎くんがホットミルクの入ったボクの分のカップとコーヒーの入った彼の分のカップを2つを持って隣に腰を下ろすとメモを覗いてきた。
「ふーん。あいつら僕らを置いてったのか」
「…征十郎くんも結構平気なんですね」
「まぁね。僕にはテツヤが居れば十分だと思ってるよ。寧ろテツヤしか家族だと思ってないし」
コーヒーを啜りながら淡々と答える征十郎くんの顔には悲しみの色など全く現れていない。ボクと両親の間に"家族"なんてものはなかったのか。ボクも征十郎くんに作ってもらったホットミルクを嚥下してほっと一息吐いた。
「これからどうするんですか?」
「あいつらの金を使うのは不本意だがこれを使わなければ生活出来ないし、暫くはこの金で生活していくよ」
「…そうですね」
通帳の残高を眺めて不愉快そうに顔を歪める兄に同意してカップの中を見つめる。ゆらゆらと揺れながらボクを映すホットミルクはなんだかボクの心情を表している気がした。
「不安かい?」
「…不安がないと言えば嘘になりますね。でもこれは現実ですし、自分たちで解決しなければならない問題です」
やはりボクの兄だ。なんでもお見通しだと思う。だからこそ、信用できる唯一の相手なのだ。そんな兄に正直な自分の気持ちを話すと彼はフッ、と笑ってみせた。
「僕が居るから大丈夫だよ。テツヤは何も心配しなくていい」
***
そうして二人で過ごしてきて5年後、ボクら高校3年生になった。
両親の貯金もとうに底をつき、2年前から二人ともバイトを始めて本当にボクらだけの力だけで生きている。今の生活には一つも不満がなかった。昨日までは。
「征十郎くん、どうするんですか。なんであんな返事しちゃったんですか。お金はどうするんですか」
「少し落ち着きなよテツヤ」
誰の所為だと思っているんだ。そんな事を言ったら最後、鋏を突き付けられてとても言葉では表せないような恐ろしい笑顔で文句ある?と言われるのは目に見えているから言えなかったけど。
ボクら二人分の生活費だからバイトで十分だった。だけど。4人もの子供を引き取るなど無理だ。金銭面は勿論、育児なんて。しかもそれを承諾したのが兄だというのが最大の謎である。普通は絶対に嫌がりそうなのに。
「理由なんて、一つだよ。テツヤ」
「え…?」
「たくさんの方が、賑やかで楽しいだろう?」
敵わないな、と思った。きっと、一生勝てない。彼には。
彼は分かっていたのだ。僕が、本当は心のどこかで寂しい思いをしていたのを。
勿論征十郎くん世界でたった一人の本当の家族だから、大事な人。だけど、だけど。
「テツヤは何も心配しなくていいんだ」
あのときと同じように笑った兄の顔はとても綺麗だと思った。
***
次の日、我が家に4人の子供がやってきた。義兄弟になる子だ。ボクは知らず知らずのうちに口元を緩めていた。
彼らは興味津々といった様子で家の中をきょろきょろと見回している。この中でも一番年上らしい黄色い髪をした子はきらきらと瞳を輝かせて。二番目の子は緑の髪をして、黒縁のメガネをくい、とかけ直しながらそわそわとしている。三番目の子は青色の髪をしていて、肌が黒い。ドタバタと家中を駆け回っている。一番下の子は紫色の髪だ。お菓子が好きらしい彼はさくさくとお気に入りのお菓子を頬張りながらじっくりと家の中を観察している。
純粋に可愛いと思った。きっと問題はたくさんあるだろうけれど、ボクはこの子たちを育てていくと決心した。
「みなさんの名前を教えてくれますか?」
よく顔の変化が分からない、と言われるほど無表情らしいボクは征十郎くん以外には表情の判別が出来ない。だけどなるべく笑顔を作って子供たちに尋ねる。
「おれはきせりょうたっス!」
「みどりましんたろうなのだよ」
「あおみねだいきだぜ!」
「むらさきばらあつしだよ〜」
全員あまり人見知りをしないのか、きちんと名乗ってくれた。名前を聞いていると、髪の色と名字が合っていて思わずくすりと微笑んだ。これならすぐに名前を覚えられそうだ。
「ボクは黒子テツヤです。よろしくお願いします。そしてあちらにいるのはボクの兄、黒子征十郎くんです」
椅子に座って何かをやっていた征十郎くんも一緒に紹介すると彼はこちらを一瞥するとまた自分の作業に戻っていった。
「おぼえたっス!てつやっちっスね!」
涼太くん、はきゃっきゃと嬉しそうにボクの手を握って前に流行った某育成ゲームのような渾名をつけてくれた。
「てつやか。ふん、これからよろしくなのだよ」
真太郎くん、は照れた様子で相変わらずそわそわしている。ツンデレ、というやつですか。
「てつ!よろしくな!」
大輝くん、は太陽のような眩しい笑顔で挨拶してくれた。しかしこの歳でどうしてそこまで黒いのか。
「てつちんよろしくね〜」
敦くん、は未だにさくさくと今度はまいう棒をかじっている。それは今日発売の新味と告知してましたね。でも確かたこやきわさび味でしたよね…。
一人ひとり話してみると、個性豊かだ。きっと居場所がなくて親戚をたらい回しにされてきて、ボクらに押しつけられたであろう彼らを精一杯愛してあげたいと思った。最初はあんなに嫌だと思っていたのに。
―そうしてボクらの共同生活が始まった。