永遠ではないけれど


!小学生赤司×猫黒子





「……あ、」

道端に野良猫二匹がじゃれついているのを見つけた。
兄弟なのか似た模様の二匹は相手を追い掛けてくるくると回ったり、それに疲れて休憩したり。
にあ、とひとこえ鳴いて身体を伸ばした一匹がくるりとこちらを向いた。
そして。

「……俺はなにもしないよ」

こちらを向いた一匹は威嚇をし、もう一匹は怯えたように逃げ出していった。

「にぃ」

いつものことながら寂しいものだとため息を吐くと、足もとに寄ってきた一匹の猫。猫にしては珍しい、スカイブルーの毛並みをしたその猫は俺に怯えることも威嚇することもせず、俺の膝下あたりにすりすりと頬を寄せている。
俺はなぜか動物に嫌われる節があった。人を従えさせるような教育はちいさな頃から受けていたがまさかそれが影響されているのだろうか。
しかし唯一俺に近づいてくれる子が出来た。それが今足もとにいるテツヤだった。
テツヤは野良だったらしく、ある日俺の家に迷い込んできた。庭にいたのを見つけて、とてて、と近寄ってきたときは正直嬉しく思ったのをよく覚えている。
それからテツヤと名付けて、俺の友だちとしてこうして側にいてくれている。

『征十郎くん、また逃げられちゃいましたね』
「うるさいよ」

不思議なことに、俺はテツヤの言っていることが分かる。最初は驚いたがすぐにどうでもよくなりそういうものなのかと深く考えないようにした。分からないものはいくら考えても無駄だ。

「それよりお腹空いただろう?はやく帰ろう」
『そうですね…言われてみれば』
「相変わらずテツヤは小食だな」

ひそひそ、にゃあにゃあ、ひとりと一匹で話しながら帰路につく。
ランドセルのなかに入っている筆箱が微かに音を立てる。その音でそういえば宿題は漢字の書き取りだったなと思い出す。ひたすら漢字を書くだけの作業は正直面倒だ。
努力は惜しまないほうだが無駄な努力はきらいだ。すでに覚えてしまっている漢字を書いたって何になるというのか。

「そうだ。テツヤにお願いがあるんだけど」


 * 


『これでいいですか?』

テーブルの前に座り、テキストとノートを準備。
自分の膝をぽんぽんと軽く叩いて声を掛けるとテツヤは俺の膝上にぴょんと乗っかってきた。そして見上げてそう言ってきた。

「いいよ」
『そうですか。それは良かったです』

テツヤの喉元を撫でながら答えると、テツヤはごろごろと気持ち良さそうにするので俺はそのまま宿題を始める。こうやってテツヤと触れ合いながらやれば、宿題という名の作業は早々に終わったのだった。


***


すこし昔、テツヤと出会う前。
俺を子どもとして扱ってくれる人間は誰ひとりいないのだということに、俺は気付いてしまった。周りは皆が俺を赤司家の跡取りという目でしか見ていない。
それは当時の俺にとって何よりショックだった。
――ただの赤司征十郎として俺を見てほしい。
無意識のうちにそう願っていた俺は動物に興味を持った。
動物が出てくる本やテレビを見ては、飼い主と戯れる様を見て羨ましいと思った。動物なら俺を俺として見てくれるはず。
しかし現実は違った。
動物たちさえ、俺に怯え、俺を拒絶する。
俺の居場所はもうどこにもないのだろうかと虚ろになっていたときだった。テツヤと出会えたのは。
その日、俺はだだっ広い屋敷の縁側にぽつんとひとり座っていた。そこは唯一屋敷から外の景色が見える場所で、落ち着ける俺のお気に入りの場所だった。
遠くの塀の上でじゃれあう猫たちを見ているときだった。どこからか入ってきたのだろう。一匹の子猫がとてとてと俺に近寄ってきた。
それがテツヤだった。
今までも好奇心の強い犬や猫が近くに来ては、すぐに離れていくなんてよくあったものだから、きっとこの子猫もすぐにどこかへ行ってしまうのだろうとその子猫の行動を見守っていたらあろうことかその子猫は俺の真横に来ると、まるでいい寝床を見つけたとでも言うように、にゃあ、とひとこえ鳴いて丸くなった。
これには目を瞠ってしまった。
おそるおそる手を伸ばし、そっと空色の毛並みを撫でると、子猫はゆるりと尻尾を揺らした。そのまま撫で続けていると、子猫はすうすうと寝息を立てて寝てしまった。
俺は胸が満たされたような、ぽかぽかと暖かい気持ちになって、知らず知らずのうちに笑っていた。
こんな気持ちになるのは初めてだった。
それから子猫が起きるまで、俺はずっと体温の高いその身体の傍に居続けたのだった。


***


『征十郎くん?』

テツヤが征十郎の膝の上でうたた寝してしまい、起きたころには征十郎はベッドに寄りかかってすやすやと眠ってしまっていた。
何か幸せな夢でも見ているのか、口もとが緩んだ姿は、普段は大人びた表情をしているその子どもとは違い、寝顔も相まってとても幼く見えた。

『ふふ…』

テツヤはちいさくわらって、征十郎に寄り添う。
征十郎のことは、出会うまえから知っていた。
近所の猫たちのうわさ話で聞いていたのだ。だが話によれば、何故だかよくないうわさばかり。こわいだとか、あのニンゲンにだけは近づきたくないだとか曖昧なもの。
おそらくほかの動物たちとはいっそ必然的に相容れない存在なのだろう。
だがテツヤだけは違った。
征十郎の姿を見た途端、このひとのそばにいたいと感じたのだ。自分は征十郎に会うために生まれてきたのだろうと運命を信じてしまいそうなほど、明確に。
不思議にも征十郎にだけ、しっかりと意思疎通が出来るのだ。やはり運命なんじゃないかとテツヤは思っている。

『征十郎くん…好きです…』

つぶやいて、テツヤはもう一度眠ろうとしずかに目を閉じた。征十郎の体温はあたたかくて、さきほど起きたばかりなのにふたたび眠気を誘ってくる。

(征十郎くん、ボクはこの命が尽きるまでキミのそばにいたい)

まどろみのなかで、そんなことを願いながら。







永遠ではないけれど







----------
猫赤司さんを書いたので猫テツヤさんも、と。
人間に生まれなかったことを思わないでもないけれど、猫に生まれたからこそ赤司さんの隣にいられるんだろうな、って考えてるテツヤさん。


×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -