離れない、離さない02


黒子が赤司に声を掛けられて3日が過ぎた。
黒子はいつも通り、三軍の体育館で練習をしていると急に室内がざわざわと騒がしくなった。何があったのかと気になった黒子がきょろきょろと辺りを見回すと、周りの者はある一点だけを見ている事に気が付いた。恐らくその中心が騒ぎの原因なのだろうと判断して視線の先を追った黒子はぴたりと動きを止めた。


「あぁ、いたいた。本当に影が薄いんだね」


そりゃあ、騒がしくもなるだろうと黒子は納得してしまった。真っ直ぐと黒子の元へ歩いてくる人物は赤司だった。
部員全員は何故バスケ部の主将が自らここへ?と疑問を持ち始めた。そんな彼らがよくよく目を凝らして赤司の呟きが投げられた場所を見ると、いつの間にか一人の少年が居た事に驚きの声が上がった。


「あんな奴いたか?」
「さぁ…?」
「あ、思い出した!アイツって確かスゲーバスケ下手な…」


更にざわめきが大きくなり、部員たちはまた疑問を持つことになった。"余計に分からない"と。

そんな三軍の部員たちの様子などお構い無しとばかりに赤司は黒子へと一歩一歩と近付く。
一方の黒子はというと、先程から微動だにせず、周りの様子は頭に入っていないようだ。
漸く黒子の前に来て立ち止まった赤司に黒子ははた、と我に返り無表情(実は驚きを隠せずにいるが、周りには表情の区別が付かない)で訊ねた。


「バスケ部の主将さんがどうしてこんなところに?」
「言っただろう。覚えておく、と」
「はあ、でもそれと何の関係が、」
「オレが必要のない人間をわざわざ覚えるとでも?」


赤司が話し出してからしん、と静まり返った室内。触らぬ神に祟りなし。そう判断した部員たちは一様に黒子たちの話に聞き入っている。
黒子は確かこの前も似たような状況だったな、などと他人事のように感じていた。


「テツヤ?」


名前を呼ばれ、先程の赤司の言葉が黒子の脳内で反復する。必要のない人間は記憶に残さない。そして赤司は黒子を覚えたと言っていた。それは、つまり。黒子は少しだけ震えた声でゆっくりと憶測だが確信であろう疑問を口にした。


「ボク、が、必要だということです、か?」
「そういうことだよ、テツヤ。オレたちの…いや、僕たちのチームへおいで」


笑顔で返す赤司に黒子は手にしていたボールを落としてしまった。バウンドしたボールは静かな室内に音を響かせてそのままころころと転がっていた。


***


赤司のスカウト(という名の強制異動)で黒子は一軍に入る事となった。キセキの面々は黒子を快く受け入れつつ、赤司の行動力と圧力の凄さに内心で冷や汗をかいた。


「というわけで、今日からテツヤも一緒に練習に加わる事になったから」
「先輩方これからよろしくお願いします」


元々キセキのメンバーについては有名だった為、簡単に自己紹介を済ませた黒子は着替える為に更衣室へと足を向けた。黄瀬が心配して一緒にどうかと誘ったが、黒子はそれを丁重にお断りした。
そもそも何故黄瀬がわざわざ誘ってくれたのか分からなかった黒子だったが、更衣室に着くと理由はすぐに把握出来た。


「なぁ聞いただろ?一軍に来た一年の噂」
「あぁ、聞いたよ。マジうぜぇよな。キセキだかなんだか知らねえけど二年が調子乗んなって話だよな」
「しかもその一年何にも出来ねえらしいぜ」
「は、んだよそれ」


―あぁ、そういう事ですか
恐らく、二年に上がって入部してすぐにレギュラーになりキセキの世代と呼ばれ始めた黄瀬も同じような事を言われたのだろうと想像するのは容易かった。
黒子は彼らに気付かれないよう中に入り、さっさと着替えて更衣室を後にした。


***


「く、黒子っちー…?」
「…」
「練習始まってまだ30分しか経っていないのだよ」
「……」
「いや…体力なさすぎだろ…」
「………」
「黒ちーん、お菓子食べるー?」
「…………」


練習が始まって30分。黒子はというと、死んでいた。
元々三軍の練習でさえまともについていけてなかった黒子だ。一軍の練習など言うまでもなく。
そんな黒子を気遣って声を掛ける黄瀬、緑間、青峰。そして紫原は黒子の身体をつんつん、とつついたりしている。そこへ赤司がやってきた。


「テツヤ、休憩に入るにはまだまだだよ?」
「……………分かってます」


赤司の厳しい言い分に、なんとか立ち上がりふらふらとした足取りで無理矢理練習に戻ろうとした黒子を赤司が制する。
言うこととやることが全く逆の赤司に困惑の色を見せる黒子に赤司はタオルを被せつつ言った。


「まぁ、初日の今日だけは見逃してあげるけど明日からいつも通りにやるからね」
「あ、りがとう、ございます」
「でも雑務はしっかりしてもらうよ」


爽やかな笑顔で言った赤司に黒子は少しだけ緩めた口許をすぐに引き締める事となった。


***


「そうだ。涼太、テツヤの教育係になってくれないか?」
「えっ!!?ほんとっスか!?オレやるっス!!」
「黄瀬じゃ無理だろ。オレがテツの教育係になってやるよ」
「オレだったら貴様らのような教育係は御免なのだよ」
「黒ちん、はい、まいう棒の新味」
「ありがとうございます」
「「「話聞いてない!?」」」
「涼太、テツヤに教えるのは必要最低限のことだけで良いからね?それと大輝と真太郎は外周10周」
「は、はいっス…」
「まっ、待て!」
「待つのだよ!」
「キャプテンの言うことはー?」
「「ゼ、ゼターイ!!」」
(キセキの世代ってやっぱりすごいですね…色々と)


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