離れない、離さない01


"キセキの世代"と呼ばれる4人が二年に進級して間もなく黄瀬涼太という新しくも強力な選手が一軍、そしてレギュラー入りし、新たな"キセキの世代"のメンバーが増えた頃、主将である赤司の耳にとある会話が耳に届いた。


「一年の新入部員に超影が薄くて、レイアップどフリーで外す程バスケ下手な奴がいるんだって」
「まじかよ!超笑える」


ここはバスケではかなりの強豪校と言われており、部員数だって100を超えている。
こんな学校でそんな奴がバスケ部に入る理由など一つしかないに決まっている。きっと内申点狙いだろう。
そう思い赤司はその話題をすぐに脳内から消去した。


***


「今日は練習試合だが油断はするなよ。オレたちに敗北は許されないからな」


一軍の練習試合が行われる事となり、キセキの面々は気合い十分だった。


「当然っスよ」
「まーオレが出りゃすぐにトリプルスコアだろうけどな」
「調子に乗るな、青峰。一番点を獲るのはオレなのだよ」
「赤ちん、これ終わったらお菓子買ってくれるー?」


それぞれがアップし終わり、いよいよ練習試合が始まった。
しかしそれはいとも簡単に幕を閉じることになった。
黄瀬のオフェンスに模倣、青峰の変幻自在なプレイに緑間の3Pシュート。紫原の圧力のかかったディフェンス、そして赤司の見事なまでのボールさばき。
敵チームは唖然とするしかなかった。それでも試合は続き、128対56と圧倒的な差をつけて帝光中は勝利を手にした。

試合をした相手校の体育館を出て、夕日が照らして橙色に染まった道をキセキのメンバーたちは歩いていた。
その途中で黄瀬は自販機を見つけた。


「オレ、ちょっと飲み物買ってくるっス」
「あー、じゃあオレも」
「そうだな。ちょうど良い。オレも買おう」
「みんなが買うならオレも行くー」
「ふん。お前たちが買うならオレも買うのだよ」


結局全員が黄瀬に同意して飲み物を買うことになり、ぞろぞろと自販機へ向かう。
さて、何にしようかと自販機の前で悩み始めたところで、ぽそりと声が聞こえた。


「あの」


他に人の気配がしなかった為空耳かと一同が顔を見合わせると更に声は続いた。


「ここです」


一斉に声の聞こえた自販機の方を見ると、そこにはいつの間に現れたのか、一人の少年が佇んでいた。
空色に白を足して薄めたような色素の薄い髪、そしてその髪と同じ色をした瞳。男の割にはほっそりとした華奢な身体つきをしていた。自分たちと同じジャージを着ていることから、帝光中だということが窺い知れた。
突然現れたような少年の存在に一同は驚きを隠せずにいた。特に反応の大きかった黄瀬と青峰は二、三歩後ろへ後退りしてしまっていた。


「驚かせてしまったようですね、すみません」
「い…いや、いいっスよ…」
「それよりおめーどっから現れた!?」
「いえ、最初から居ましたけど」
「「「「!?」」」」


何かに気付いたらしい赤司を除いた四人は更に驚愕の色を見せ、ぱちぱちと目を瞬かせている。
一方赤司は数日前に聞いた会話を記憶のごみ箱から掘り出していた。


『一年の新入部員に超影が薄くて、レイアップどフリーで外す程バスケ下手な奴がいるんだって』


目の前にいる少年がもしかすると、と考え、赤司は率直にその疑問を口にした。


「君はバスケ部員だろう?一年生だね」
「はい。そうですけど主将である貴方がよくご存知でしたね。今日は一軍の試合があるということでそれを観に来た帰りなのですが」
「はっ!?こんな小せえ身体でバスケやってんのかよ!?」
「青峰っち初対面の人にそれはないっスよ…」
「峰ちんデリカシーないねー」
「悪かったですね」


初対面でいきなりそんな事を言われれば誰だって怒るだろう。その少年も例外ではなかったらしく、ムッとした様子でそっぽを向いた。


「随分話が逸れてしまったな。すまない」
「あ、いえ」
「君の名前を聞いておきたい」
「…え?」


今度は少年の方が驚嘆の声を漏らした。それもそうだろう。バスケ部を仕切る主将から名前を聞かれるなど予想だにしなかった事実に少年は呆けている。が、普段から無表情なのか表情の変化は殆ど見られなかった。
一方、他のキセキたちは赤司の突拍子のない行動など慣れっこなのか、先程とは打って変わって事の成り行きを黙って見守っている。


「黒子テツヤ、です」
「テツヤか。覚えておくよ」
「!」


頭の整理を終えて、漸く名乗った少年、黒子は赤司の言葉に再び思考が追いつかなくなってしまった。
その事を知ってか知らずか、それだけを告げると赤司は他のキセキを引き連れて去っていった。


「…キャプテンに名前を覚えられてしまいました…」


一人ぽつんと呟いた黒子の呟きは夕焼けに溶けて消えていった。





***


「黒子…っち可愛かったっスううう」
「テツ、か…一軍に上がってきてくんねーかな」
「それは難しいだろうね。彼はバスケが下手らしい」
「む。じゃあ何故声を掛けたりしたのだよ」
「勿論、彼はオレが育てるさ」
「黒ちんまいう棒何味が好きかなー?」
「…あ、そういえば飲み物買い忘れたっスね」
「「「「あ」」」」



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