恋愛パラダイム


ボクは赤司くんが好きだ。それはもちろん恋愛感情という意味で、だ。
この気持ちをどこにも消化出来ずに部活にまで影響が出てしまったので、仕方なくボクは赤司に告白させてもらった。だというのに。

「うん、俺も黒子が好きだよ」
「!!」
「弟みたいに可愛いし、息子みたいに放っておけない」
「………えっ」

あろうことか赤司くんは勘違いしてしまっていた。弟…?息子…!?友人ならまだしも意味が分からなかった。

「赤司くん…!ちがうんです!」
「はいはい。ふふ、黒子はかわいいな」

笑顔で告げる赤司くんの言葉に呆然とする。彼の勘違いを知っているだけにちっとも喜べない。
結局何度も赤司くんに違うと言っても軽くあしらわれ、その日は撃沈した。


***


「きせくんっ!黄瀬くん〜〜〜っ!」
「えっ!?どうしたの黒子っち!」

翌日の昼休み、情けないことに涙目になりながらボクは黄瀬くんに助けを求めた。
黄瀬くんは恋愛の経験値がすごく高いのでボクの一番の相談者だ。いつも申し訳ないとは思っている。

「あかしくんが…」
「何か進展あったんスか?」
「赤司くんに告白したら弟とか息子みたいって…」
「えっ………」

黄瀬くんはドン引きしたような表情を浮かべた。青峰くんがシュートするときの説明を紫原くんの言うとおりお菓子風に説明して、シュークリームに水あめを流し込むようにと発言したときと同じ表情だからたぶん合っている。そこまでひどいものだったのか。

「赤司っち…」
「やっぱりひどいんですね…ボクの気持ちは伝わらないんでしょうか…」
「いや、うん、」

黄瀬くんは遠い目をして呟いていた。伝わらないのかと問えば目を逸らされた。

「うーん…もう少し大胆にアピールしてみるしかないっスね」

しばらく考え込んだ黄瀬くんは言った。大胆、なアピール…。恥ずかしくて今までやっていなかったがよくよく考えればキセキのみんなは赤司くんを除いてボクが赤司くんを好きなのを知っているので問題ない。はず。

「なるほど…ありがとうございます黄瀬くん」
「いやいや、どういたしまして」
「ちなみに参考程度にお聞きしますが何をしたらいいでしょうか?」
「そうっスねぇ…差し入れとかどうっスかね?」
「差し入れですか…!」

それならば桃井さんにお話ししてタオルとスポドリを渡させてもらおうか。レモンのはちみつ漬けとかつくってみるのもいいかもしれない。
黄瀬くんにお礼を言うと、頑張ってね、と笑顔で返してもらった。モデルさんの笑顔の激励は高そうなので気合いを入れることにした。


***


うーん。これは想定外だった。
アップをして、基礎練を終えて、外周。ボクはこの時点ですでにふらふらになっていた。それでもバスケがしたいという気持ちと意地と負けず嫌いの根性でボールに触れる。これからミニゲームが行われるのでそれに参加するのだがここからが問題だ。
ボクはこれが終わったあとの休憩で赤司くんにタオルとスポドリと、昨夜なんとか食べれそうなレモンのはちみつ漬けを作り終え、差し入れしようと思っていたのだ。
だがこのミニゲームが終わったあとの未来は過去の出来事のおかげで手に取るように分かる。
そう、哀しい哉、倒れるのだ。清々しいほどにばったりと。そうなれば差し入れどころではない。むしろボクがいつもしてもらっているように赤司くんに差し入れをしてもらうことになる。
なんとしてでもいつものあの事態だけは避けなければ…!
とは思うが世の中難しい。うんうんと色んな案をひねり出してみるがいい案はこれっぽっちも思い浮かばない。

「黒子、出番だ」
「はっ、はい…」

がっくりと肩を落としていれば赤司くんの交代の声。いつもはもっと聞きたいと思えるものなのに今ばかりは死刑判決の声に聞こえた。
覚悟を決めたボクは、ベンチから腰を上げてひといき。あとはなるようになれ、と自身が倒れないように願ってミニゲームに参加した。


***


惨敗。やっぱり赤司くんは強い。Y(やっぱり)A(赤司)T(強い)だ。別に赤司くんが勝ちとかはないのだが。
ボクはミニゲーム終了のホイッスルが鳴り響いて、コートを出た途端にばたんといった。いや、寸前に青峰くんに支えられたからなんとか顔面衝突は免れた。
ボクはテンプレよろしく赤司くんにタオルとスポドリを貰ったのだった。これはボクがやるはずだったのに!
そうしてレモンのはちみつ漬けは虚しく自宅にてボクの胃袋に収まったのであった、完。

「緑間くんっ!!」
「うるさいのだよ黒子!!」
「すみませんでも聞いてください」
「どうせ赤司のことだろう」

図書室だから確かに場所が悪かった。さらに図星を指され、ボクは押し黙る。
黄瀬くんの作戦は失敗だったので次、とボクは緑間くんを相談者に決めた。彼なら黄瀬くんとはまた違った意見をくれるだろうと期待を持って。

「はあ、黄瀬から大方事情は聞いた」
「!じゃあ…」
「オレは知らん」
「!!?緑間くんの薄情者!!」

てっきりいつものツンデレを発動して「人事を尽くしたオレがアドバイスをやろう」とか言ってくれると思っていたのに違ったのでつい叫んでしまった。(当社比)

「なっ…!」
「ツンデレはどうしたんですか!ツンしかないじゃないですか!」
「だからツンデレではないと言っているだろう!?」

緑間くんは大きなため息をついて、ずれた眼鏡をかけ直した。この仕草は間違いない。

「……ラブレターでも書いてみたらどうだ」
「これまた古風ですね」
「黒子ォオオ!!」
「緑間くん図書室ではお静かに、ですよ」
「……っ!!」

やっぱりアドバイスをくれた。
今回はデレが遅かったので、少々おちょくってみた。面白い。
ふむ、ラブレターですか。確かに名案かもしれない。

「緑間くんありがとうございます」
「…さっさとくっけばいいのだよ」
「?何か言いましたか?」
「なんでもないのだよ」

緑間くんの呟きは聞こえなかったが、ボクはぺこりとお辞儀をして少しスキップ気味に(やはり当社比)教室へ戻った。
今日帰ったらさっそく書いてみよう。


***


翌日。睡魔に負けそうになる身体に鞭を打って書き上げたラブレターを持って、ボクは今赤司くんの靴箱の前にいた。
黄瀬くんの靴箱には毎日どっさりと入っているようだが、あれを入れている女の子はいつもこんな大事な行事をやっているのかと妙に気持ちが分かった。
どきどきする。先ほどから心臓が早鐘を打っていてうるさい。こんなに動悸が激しいのは外周から戻ってきたときぐらいだと思う。

「〜〜〜っ!」

ガチャ、バタン、ガチャ。
勇気を振り絞ってラブレターを赤司くんの靴箱に突っ込んだ。三秒しか掛からない出来事にボクは数十分も緊張していたのか。我ながらアホらしい。
とにかくこれで赤司くんにボクの気持ちが伝わるはずだ。あんなに時間を掛けて推敲までした文章だ、自信はある。あまり長いのも引かれるかと思い、便箋十枚にまでおよんだものを二枚にまで絞り込んだのは褒めてほしい。

「よし、これで………あれ?」

ふと、ボクは何かを忘れていた気がした。なんだろう、すごく大事な…。

「………あっ!!!」

名前を書き忘れていた。見直しもしっかりしていたはずなのになぜ見落としていたのか。
やばい、回収して名前を書き足しておかなければ。そろそろ赤司くんも登校してくる頃だろうしいざとなれば放課後や明日また挑戦しよう。
再び赤司くんの靴箱に手を伸ばそうとして。

「黒子?早いな、もう来ていたのか」
「っ!」

ご本人登場。なんでこのタイミング…!

「?そこは俺の靴箱だがどうかしたのか?」
「えっあっいやその」

テンパりすぎてどもってしまった。ますます怪しまれてしまうというのに。

「なんでも…ないです…」
「?そうか。ん?これは…」

ボクの心中はつゆ知らず、赤司くんは自分の靴箱をぱかりといとも簡単に開けた(自分の靴箱を開けるのに躊躇するというのはおかしいが)。
そうすれば、まあ、当然赤司くんはボクのラブレターを発見した。

「……ラブレターか。もしかしてこれを入れた生徒を見たから気まずそうにしていたのか?」
「えっ!?あっはい」

そこで「それはボクが書きました」と言えば良かったのに、ボクは咄嗟に肯定の言葉を口にしていた。
後悔は後から悔いるから後悔というのだ。

「なんかすまなかったな」
「いえ…赤司くんが謝ることではないですし…、」
「ところでこれ名前が記されていないんだが黒子、どんな子か見なかったか?」

すみません、とだけ言って、ボクはその場を離れた。今日ほど朝練がない日で良かったと思ったことはない。
ずっと見ていたから分かる。赤司くんはあのラブレターを読んで、少しだけ頬を緩めていた。嬉しいのだと分かった。
だけどそれはボクの書いたラブレターを読んで、というわけではなく、見知らぬ女子生徒が書いたであろうあのラブレターを読んで、だ。ボクだと分かっていたらあんなに嬉しそうな顔は見れなかっただろう。それがすごくすごく悲しかった。
何度もチャンスはあったのに。
ボクは屋上でひとり泣いた。


***


「テーツー…?」
「ぐず……あ゛お゛み゛ね゛ぐん゛…」
「あー…お前どんだけ泣いたんだよ…」

屋上で午前中の授業を全てサボリ、昼休みまで泣き続けてしまった。そのせいで喉はがらがらだし頭は痛いし散々だ。
でも失恋したようなものだから許してほしい。

「黄瀬と緑間から事情は聞いてたし、赤司から聞いて分かってっけど…テツ今まで脈ないのに頑張ってたじゃん。たかが名前書き忘れたぐれーだろ?」
「だっで…あ゛がじぐん゛…」
「……とりあえずこれでも飲んでしばらく落ち着け」

聞き取りずらかったらしい。青峰くんはパックのいちご牛乳を差し出してボクの頭をぐしゃりと一撫でした。
……いつもは嫌いなその仕草が、今は少しだけ嬉しかった。


「ありがとうございます、青峰くん…」
「おー」

バニラシェイク並みに美味しく感じたいちご牛乳をそっと横に置いて、青峰くんにお礼を言う。青峰くんはなんでもないように返事をして、読んでいた月バスから顔をあげた。

「で?どうしたんだよ?」
「赤司くん、ラブレター貰ってすごく嬉しそうでした」
「ああ、そうだな」

青峰くんの肯定にたまらず膝に顔半分を埋める。赤司くんに会って、話した青峰くんが言うのならやっぱり本当なんだろう。

「ボクじゃない女の子に貰った、と思ってるからです」
「うーん…」

くぐもった声も、青峰くんはちゃんと拾って聞いてくれる。月バスを丸めて難しそうな顔をしてから、青峰くんはこちらを向いた。

「それ赤司にちゃんと聞いたのか?」
「?だってボクは名乗ってないんですよ?」
「あの赤司だぜ?」
「???」

青峰くんの言いたいことが分からず、頭の中を疑問符が埋め尽くす。赤司くんだからなんなんだ。彼はボクの想いを勘違いして受け止めて、さらに自分はそういう目で見ていないとさらりと言い放った恋愛初心者(魔王)なんだ。

「よーし。紫原ーつれてけー」
「らじゃー」
「!?」

青峰くんのくせに難しいこと言いやがって、とか思っていたら突然、青峰くんがここにいないはずの紫原くんを呼んだ。しかし返事は聞こえてきて屋上の扉はガチャリと開いた。

「紫原号臨時、しゅっぱーつ!」
「行き先は赤司でー」

紫原くんも青峰くんもいったい何をしているんだ。こんな茶番をするようなキャラでは…!?
困惑にまみれた思考は冷静な判断を下さない。ボクは逃げることも忘れ、紫原くんに担がれたままどこかへ連れて行かれたのだった。そういえば、青峰くんは行き先を赤司くんだと言っていなかっただろうか…?まさか…。


***


そんな…!
紫原くん号(臨時)は赤司くんのいる部室に向かい、そこでようやくボクを下ろした。
すぐに「ごゆっくり〜」なんて言って出て行ってしまった紫原くん。だけどこんな状況のなか赤司くんと二人っきりでごゆっくりなんて出来るはずがない。

「………」
「…泣いたのか。目、腫れてる」
「うっ…」

黙っていてどうにかなるとは思えなくても言葉が見つからない。
そんなボクを見かねてか、赤司くんは言った。でもそれは指摘してほしくなかったものだった。

「どうしてだ、なんて聞くのは野暮だな」
「……」
「これ、黒子が書いたものなんだろう?」
「!!」

赤司くんは肩をすくめて件のラブレターを取りだした。しかも何故かボクが書いたと把握している。
どうして、と口だけは動いた。

「俺が黒子の字を認識出来ないわけないだろ?」
「えっ、だって、でも、」

意味のない言葉がボクの口から次々と漏れ出す。

「俺は知らず知らずのうちに黒子を傷つけていたんだな、すまなかった」
「いえ、その…ボクこそ好きになってすみませんでした…」
「何故謝る?」
「だって赤司くんはボクのこと弟とか息子だと思って…」
「それは…言いづらいんだが俺の勘違いだったらしい」

え!?と柄にもなく驚いてしまった。そう言った赤司くんは顔を手で覆い、少し赤くなっていたからだ。

「今まで恋というものに縁がなかったからな。あいつらに言われてようやく自覚した」
「あいつら…?」

赤司くんが困った顔をして告げた名はキセキのみんなだった。これこそボクは人生最大の衝撃を受けた。だって、ということはみんなボクと赤司くんが両想いだと知っていたことになるからだ。
………両想い?

「待ってください、赤司くん、きみはほんとうにボクのこと…」
「好きだ、愛してるよ黒子」
「っ!!」

ボッと音をたてる勢いで一気に身体中の体温が上がるのを感じた。たぶんボクの顔は真っ赤に染まっているだろう。
せめて赤司くんにボクのほんとうの気持ちが伝わればいいな、とだけ考えていただけに衝撃は大きい。やっぱりこっちの方が人生最大の驚きだ。

「黒子の口からも聞きたいな」
「〜〜っ好きです!大好きです、愛してます赤司くんっ!」

感極まってボクは赤司くんに飛びつく。赤司くんはしっかりと抱きかかえてくれて、ぎゅうぎゅうと抱き締めてくれた。







恋愛パラダイム






title:書架整頓中
----------
黒子っちのことを弟だとか息子だとかに向ける好きだと思っていた赤司くんの話。
勢いで書いたので文章が安定してなくてすみません。

キセキを巻き込む赤黒ちゃんが好きです。


×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -