異能パロ赤黒01


!異能?ファンタジー?なパラレル
!厨二全開(当社比)





01


古くからある由緒正しき伝統のある赤司家。
表向きはそうなっているが、実際は妖魔を使い、妖魔を祓うという危険な仕事、――俗にいう陰陽師の仕事をこなしてきた一家だった。
そして、その赤司家に生まれた四十五代目の跡取りとなる長男、征十郎は歴代の陰陽師の中でもトップクラスの霊力を持ち、周りの大人たちの期待を受けて育てられた。征十郎はその期待を幼少ながらも優れた知能でそれを受け止め、受け入れていたため彼はずいぶんと子どもらしさが欠けていた。
そんな彼の歳が九を迎えたころ、征十郎は式神と呼ばれる、自分の使い魔になる妖魔と契約することになった。本来ならば二十歳に行うこの儀式を、僅か九歳でこなしてしまうのも征十郎が優秀である所以であった。

「母さま、僕の式神はなんですか?」
「征十郎には妖狐と契約してもらおうと思っているの。あなたは霊力が強いからきっと大丈夫」

そう言って征十郎と同じ紅い目を細めると、彼女は征十郎の頭を優しく撫でた。
妖狐は妖魔のなかでも妖力が高く、扱いづらいのである。
妖魔と契約するにはまずその妖魔の妖力よりも霊力が高くないといけない。しかし征十郎はその条件をすでにクリアしていた。

「あとは妖狐に気に入られないといけないけれど征十郎ならその条件も簡単そうね」

おやすみなさい、と最後にそう告げて征十郎の母は部屋から出て行った。明日の儀式のために準備をするのだろう。

「式神、か…」

妖魔を祓うのに妖魔を使うだなんて、馬鹿げている。一歩間違えたらすぐに式神の妖魔に取り込まれてしまうのだ。

「僕の人生なんて早く終わってしまえ」

征十郎は子どもらしからぬ自嘲めいた笑みを浮かべて、ゆっくりと眠りについていった。


*


「……さま、……ろうさま」
「ん…」

誰かに呼ばれたような気がして、征十郎は目を開けた。
すると征十郎の視界に入ってきたのは真っ白な何もない空間と、空色の髪と瞳を持ち、儚さを醸し出した征十郎と同い歳くらいの妖狐の少年だった。
妖狐の少年はくりくりとした空色の瞳をぱちぱちと瞬かせ、征十郎をじっと見つめていた。

「……お前はだれだ」

少年の容姿をしているといえど、相手は高い妖力を持つ妖狐だ。油断は出来ないと、征十郎は警戒心を解かずに少年を見つめ返す。

「す、すみません。すこし征十郎さまとお話がしたくて…」
「話…?」

おどおどとした態度で話し掛けてきた少年に対し、少しだけ擁護心が湧いた征十郎だったが、何かの作戦かもしれないとすぐに気を引き締める。

「何が目的だ」
「ボク、明日きみと契約する妖狐なんですが、気になったので征十郎さまの夢に遊びにきました」
「…………は?」

聡明な征十郎にしては珍しく、たっぷり三秒間使ってようやく理解はしたが、受け入れることは出来ずに声を洩らした。
――夢に遊びにって…。

「征十郎さまは霊力がお高い方なので出来るんですよ。実際に今まで出来た例はないので」

確かに少年の言うとおり、事例はない。征十郎も初めて聞くケースだ。

「…でもお前、僕が問答無用で祓っていたらどうしたんだ?」
「大丈夫です。見てください、この力こぶ」
「ないけど」

思わずくくっ、と笑ってしまった征十郎に、少年はぷくりと頬を膨らませた。
なんとかなりました!と言い張る少年に征十郎がますます笑うと、少年は本題ですが、と拗ねたような声を出した。

「征十郎さまが噂通りの方ではなくて良かったです」
「噂?」
「はい。妖魔は全員祓う方だと聞いていたので少々怖かったです」
「…まあ、だいたい合ってるけど。僕の式神と聞いたからさすがに、ね。それより僕が怖いのに会いにきたって、相当変わってるなお前」
「ふふ、よく言われます」

そこで初めて笑みを見せた少年は、ぽう、と白い光に包まれた。

「あ、どうやら時間のようですね」
「朝か?」
「はい。さすがですね、征十郎さま」
「というか僕お前の名前聞いていないんだけど」

あれ?と首を傾げた少年は、自分がまだ名乗っていなかったことに気付いていなかったらしい。
うーん、と少しだけ悩んだ少年は何かを決めたあと征十郎に近付き、両手で征十郎の手をそっと包み込んだ。

「それは契約のときに」


*


征十郎が目を覚ますとそこは見慣れた自分の寝室だった。
敷かれた布団を畳ながら、征十郎は先ほどまでみていた夢を思い出す。あの空色の少年は本当に自分の式神だったのだろうか。だが妖狐であるという点は同じだ。

「もし本当なら、早く会って名前を聞かないとな…」

儀式は本日の夜。
自然と征十郎のくちもとはそれを楽しみにゆるんでいた。



















「テツヤ」

征十郎がその名を呼べば隣にちょこんと座っていた、きつね耳と尻尾が生えた少年がぴくりと反応し、ずずず、と啜っていたバニラシェイクのストローから口を離し、征十郎の方を向いた。

「どうなされました?征十郎さま」

澄んだ声で己の主の名を呼ぶ少年――否、妖魔こそが征十郎の式神である妖狐のテツヤだった。征十郎が五年前に出会い、契約した妖魔だ。
征十郎はテツヤと出会った当時を思い出し、変わらないな、と思う。当初から全く変わらない、人間でいう十歳くらいの少年の容姿をしたテツヤは、すでに二百年は生きているらしい。
あの頃は征十郎と同い年くらいだったのに、今では背丈に随分と差がついてしまった。
ひとり、くすりと微笑みながら征十郎はテツヤの身体を軽々と抱き上げて自分の膝の上に乗せた。

「テツヤはほんとうに変わらないね」
「む…、またその話ですか。頑張ればボクだって貴方と同じ大きさになれます…!」
「それも魅力的だけど、妖力を消耗するんだろ?」
「う゛っ…」

いくら妖魔の中で最も高いといわれている妖狐でも、生きた年数や生まれた土地、先祖などで個体差が出てしまい、妖力の高さは様々だった。
そしてテツヤはまだ子どもだった為に妖力が高くなかった。だから妖力を消費してまで姿を変えるのはあまりいただけなかった。

「……すみません、征十郎さま…」

しゅん、と立っていた耳と尻尾を垂れ下げたテツヤに征十郎は髪をそっと撫でながら訂正する。

「テツヤは謝らなくていいって何度も言ってるだろう」
「征十郎さま…」
「………なぁ、お前らいつまでイチャついてんだよ…」

恍惚としたテツヤの視線を征十郎が受け止め、見つめ返したところで、二人の間に待ったの声がかけられた。
今更だがここはマジバーガーと呼ばれるファストフード店の店内である。そして、最初からずっと征十郎とテツヤの反対側の席に座っていた、青峰大輝と緑間真太郎。彼らも征十郎と同じく陰陽師の家系で、霊力を持った征十郎の友人だった。
先程見るに耐えなくなって声をかけたのは青峰。彼らは幼い頃から征十郎を知っていたために、征十郎とテツヤのやりとりは何度も見せられ、見飽きた光景だった。もちろんそのたびに注意をしてきたため、青峰の言うことももう幾度となく繰り返されたセリフだった。

「テツヤが可愛いんだから仕方ないじゃないか」
「それも毎回聞いているのだよ」
「こっちの気持ちにもなれっつうんだよ」
「すみません、緑間くん、青峰くん……」
「あ、いやテツは悪くねえよ」

そうして口癖のようなテツヤの謝罪に全員が絆され、その場が収まるのもいつもの光景。
いつもの、平和な日常。

「…赤司。茶番はここまでにするのだよ」
「はは。さすがにお前らは勘が鋭いな」
「こんなのだって何回目だよ」
緑間の声のトーンが下がった途端に征十郎は四人を囲っていた結界を強化した。
テツヤは妖魔なため、普通の人間には見えない。だから今までは三人で話しているよう見せかけた軽い結界を、今度は他の陰陽師にも話を聞かせないよう、強い結界を張ったのだ。

「学校内にいるのか?」
「ああ、どうやら上級らしい。気配が薄い」
「赤司でもそれとか洒落になんねー」

陰陽師の仕事は妖魔を祓うことだ。
そして仕事の報酬は祓った際に落ちる妖魔の魂の塊――妖石と呼ばれる物を妖魔管理連盟と呼ばれる組織に渡したときにのみ発生する。
さらに報酬の大きさを決めるのも妖魔管理連盟なのだが、基本的には妖力の強いモノや人間界に悪影響を与えるとされるモノ、ヒトに危害を加えた妖魔などの妖石が高値で取引されている。こうした理由から妖魔は値段によって高い順から上級、中級、下級と分けられている。
そして昨夜、厄介な上級妖魔が征十郎たちの通う学校に入り込んだ気配がしたと征十郎は言う。
これを放置しておけばいずれ学校生徒全員が妖魔に取り憑かれ、大変な事態になってしまうだろう。

「応援は?」
「いらない。お前らと僕、それにテツヤがいるんだ。充分だろう?」
「そーだな」

――上級専門陰陽師を舐めてもらっては困る。
不敵に笑った征十郎は結界を解いて立ち上がった。それに続く青峰と緑間。
テツヤは征十郎の横でふよふよと浮きながら、征十郎たちの管理する区域に侵入してきた妖魔たちを少なからず哀れに思ったが所詮運の尽きだとすぐに同情心を消した。
彼らに目を付けられた妖魔たちが妖石にならなかったことなど一度もないのだから。


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