外堀を埋められた


▼チャたら3の展示作品
未来捏造



『今回は思い切ってロアさんの恋人についてお伺いしたいんですが……!!』
『いいですよ、隠してないし。みんなして遠慮しちゃって聞かれないので、この際ぶっちゃけちゃおうかな?』
 ──と、そんなインタビューが載った雑誌が明日発売になるらしい。それを今日聞かされた遊我はというと「へえ〜」と返事をしたのちに一拍を置いて叫び声をあげた。
「聞いてない!」
「今言ったよ」

 なんとか冷静を取り戻してきた遊我にロアは肩を竦めながら口を開く。
「そもそも、オレ様は遊我ちゃんのこと隠してなかったんだぜ? もちろん名前は明かしてないけどさ。オレ様と遊我ちゃんのデュエルを見たことがあるお姫様たちなら勘付いてるコもいるかもね」
「そ、そうだったんだ……」
 遊我がロアと付き合いだしてから数年は経っているのだが今までまったく知らなかった。思えば考えたこともなかったかもしれない。
 確かに、昔と比べて今のロアロミンの知名度は格段に上がり、メディアへの露出もずいぶんと増えた。今日だって音楽番組の収録を終えてきたというロアの話を聞いていたところだったのだ。そんなとき思いだしたかのように──というか実際そうなのだろう、ロアは明日発売の雑誌に自分が載ることを教えてくれた。そこまではいつものことであったのに、インタビューで聞かれたから遊我ちゃんのこと話しちゃった、と悪びれもなく告げられたのだ。あの驚きようも許してほしいというもの。
「ちなみに何を話したの……?」
「それは教えらんないな〜」
 せめて内容を確認して安心したいのに、恋人はのらりくらりと躱して詳細を語ってくれそうにない。困り果てた遊我は恨みがましくロアを睨むしかなく。どうしても知りたければ自分の目で確かめるしかなさそうだった。

 ロアが恋人の存在を明かしているかどうかを考えたことがなくとも、彼にとって自身が胸を張って恋人だと言えるのか。そんな考えであれば、ふとした瞬間に遊我の脳裏に過ったのはこれまでに何度もあった。
 輝かしいロードを歩むロアの隣にいてもいいのか。離れるなら早い方がいいのではないか。
 それでも遊我はロアが好きで、ロアもまた同じくらいの想いを返してくれたから関係を続けてきた。
 ロアはああ言っていたけれども、もし遊我が男が恋人だと世間に知られてしまったらどうなってしまうのか。まったく想像がつかなくて少し怖い。
 遊我だけが何か言われるのであればいい。だがロアの人気に影響してしまったなら。
 ついついネガティブな思考に陥ってしまって、その日の夜はあまり眠れなかった。

 だから翌日遊我は帰宅途中にこそこそと本屋に向かったし、人目から逃れるようにそそくさと目的のものを手に入れるなり店を出た。
 そしておそるおそる中身を確認して──反応を窺うために慣れないSNSもチェックし、やがて。
「……拍子抜けした」
 インタビューの内容は身バレしない程度に遊我との日常を切り取ってあり、少々気恥ずかしくもあったが必死で止めるものでもないと思った。さすがロアというべきか、遊我が本気で嫌だと思うラインの引き際を弁えてくれていた。
 そしてSNSで見かけたロアロミンのファンたちの反応といえば、遊我が想像していたような過激なものは見受けられなかったのだ。むしろ好意的なメッセージが多かったといえた。もちろんこれがファンの総意とは言えないだろうが、もっと批判的な意見が来ると思っていたので遊我は知らず知らずのうちに肩の力を抜いてしまった。
「……『ロア様の恋人の話、もっと聞きたい』、『むしろなんで今まで語られなかったんだろう、それくらいでロア様の人気が落ちるとでも?』……す、すごい……」
 ソファーに寝転がってスマートフォンの画面を眺めていると、視界に影が差す。

「当たり前じゃん。オレ様のお姫様たちだぜ」

 わっ、と驚いた遊我は手から端末を滑らせ顔面に落としてしまった。あまりの痛みに悶絶する遊我を、背もたれ部分に肘を置いてこちらを見下ろしていたロアが指をさして笑う。
「い……ったぁあ〜〜〜……!!」
「あっはは、驚きすぎでしょ」
「〜〜っだってロアが急に声かけるから……!」
「いやただいまって言ったよ。まあ返事がなかったから気配消して近づいたんだけどね〜」
「やっぱり驚かすつもりだったんじゃん……」
 ゆるりと細められた瞳は悪戯が成功したがゆえの笑みだ。遊我はのそりと身体を起こしてスペースを空ける。そこにロアが回り込んで腰を下ろす。ふたりにとっての、いつもの定位置だった。
「……おかえり、ロア」
「うん、ただいま。……雑誌、買ってきたんだ?」
「そりゃあんな言い方されたら気になっちゃうよ」
「で、どうだったよ」
「ロアロミンもロアも、ボクが心配しなくても大丈夫だったなって、再確認したとこ」
 意味もなく視線を落として暗いままの端末の液晶に指を滑らせる。なんだかロアを信じきれていなかったみたいで少し気まずい。
「ま、すぐ落ち込んじゃう遊我ちゃんのためにオレ様頑張ってきたからね。もー健気すぎて泣けてきちゃうと思わない?」
「え……?」
 まるでこちらの考えていることなどお見通しであるかのような物言いに遊我は困惑の声をあげる。
「遊我ちゃんは自分に対する好意に疎いから、こんくらいやってあげないとねぇ」
「う……」
 要は外堀を埋めた、というわけらしい。確かに遊我が不安を覚えていたのはその一点だったためにロアにしてやられた気分だった。
「もう離れらんないね」
「……別に、元からそんな気は……でもちょっとほっとした。ありがと、ロア」
「あれま」
 珍しく素直に本音を吐露した遊我を見てロアは目を瞬かせた。
「遊我ちゃんが殊勝だとこっちの調子が狂うんだけど……」
「えー? 好きだよロア」
「……」
「っったぁ!」
 調子に乗ってみたら思いきり額を弾かれた。本当は嬉しいくせに、と睨むとロアの目の色が変わる。あ、と思った瞬間には噛みつくようなキスをされてあっという間に右も左も分からなくされたので、遊我はロアをからかうのは控えようと決めたのだった。



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