ぬらりひょんの恋


▼妖怪パロ



 とある屋敷を訪れる者がいた。「お邪魔するっスー!」という賑やかな挨拶とともに屋敷内に足を踏み入れ、続いて何かを探すようにきょろきょろと辺りを見回す。
「黒子っち〜! どこっスか〜?」
 一見無礼ともとれる態度だが、この家の主である赤司はどこからともなく現れて、まったく意に介さずに口を開いた。
「なんだ黄瀬、騒がしいぞ」
「あっ、赤司っち! ちょうど良かった、黒子っち知らないスか?」
「黒子ならすぐ後ろにいるだろう」
 えっ、という声をもらし、背後を振り返った黄瀬はその大きな尾をぴんと立てて叫んでしまった。
「どぉうわっ!? えっいつからいたんスか!?」
「ずっといました。黄瀬君が大きい声で呼ぶからボクの声がかき消されていたんです」
「だから騒がしいと言ったのに」
「あ、そういうこと!? ていうかふたりしてうるさいって言わないで!」
 吠える黄瀬を宥めることなく、黒子はところで、と話を切り替える。
「用件はなんだったんですか? ないのであれば消えますけど」
「消えますけど!? じゃなくて、ちょっと頼みたいことがあったんスよ〜!」
「だったら早く言ってください」
 どうやら話は纏まったらしい。黒子たちが顔を突き合わせて相談し始めたので、赤司は踵を返してその場を後にする。今日は少し遠方まで足を運び、その周囲の妖怪たちが好き勝手していないかどうかをチェックする必要があった。今のところ大きな問題が起こった事例はないが、これを止めてしまうと必要以上に人間に接触しようとする輩が湧くので、赤司は統括する立場として度々監視のために飛び回っているのだ。

 黄瀬が騒々しく訪ねてきたため注意がてら顔を出したのだが、相変わらず元気そうで良かったと思った。彼は妖狐のあやかしで、赤司の知り合いのなかでも友人と呼べるくらいには交流があり、先程のやりとりは親しいからこそと言えるだろう。
 そして黄瀬の尋ね妖怪だったのは座敷わらしの黒子だ。彼は人間界でひとの家に棲み着く妖怪であるのだが如何せん驚くほどに影が薄く、せっかく家にいてもその姿を見つけられる者が皆無に近い。次第に諦め始めた黒子はついに人間界を飛び出して妖怪の世界に帰ってきてしまった。そして、唯一姿を見失わずに済む赤司の家に厄介になっているのである。
 ──というのは黒子の言い分で、正確には黒子を家に来るよう招いたのは赤司の方であったりする。なんとか口説き落としてどうにか一緒に住む段階まで漕ぎ着けた。赤司の粘り勝ちだった。
 そんな涙ぐましい努力を思い出しながら戸口に手をかけたときだった。
「赤司君」
「黒子?」
 黄瀬と話していたはずの黒子がこちらへ来ていて赤司に向かってひらりと片手を振る。
「いってらっしゃい、を言えてなかったので」
 それだけです、と言い残すと黒子は足早に黄瀬のもとへ戻っていった。その後ろ姿を数秒ほど見つめていた赤司は、表情ひとつ変えずに戸を開けて外へ出る。だがその周囲に何者の気配もしないことを瞬時に感じ取るなり、その場に蹲って頭を抱えてしまった。
(……こんな些細なことでも、嬉しいものなんだな……)
 真紅の髪の隙間から覗く耳は、同様に赤く染まっていたのだった。

 ──あやかしのなかで頂点に立つぬらりひょんは、座敷わらしに恋をしている。



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