ふたりで、誓いを


▼チャたら3の展示作品
未来捏造



 いつものようにロアの家に遊びに来ていた遊我は、今日も今日とてラッシュデュエルに誘っていた。
 そんななか、その一戦の中盤。残った三枚の手札すべてを伏せたロアはデュエルとはまったく関係のないことを口にした。
「遊我ちゃんはさあ、」
「うん? あ、罠カード発動」
「チッ……じゃあヘヴィメタルでセブンスロード・マジシャンを攻撃。プロポーズするならどんなシチュエーションにする?」
「ああっセブンスロードが……! ていうかなにその質問……」
 ロアのターンは終わったものの、ライフポイントまで減らされ遊我のフィールドには下級モンスターしか残らなかった。次のドローにすべてが懸かっている。遊我はデュエルに集中しようとしているのに、ロアから振られた話題が話題だけに動揺が走る。卑怯な手を、と向かい側を睨むが質問をした本人は涼しい顔で冷静に戦況を見ているようでこちらには一瞥もくれない。おそらく作戦のつもりはないのだろう。
 ほとほと困り果て、遊我は一枚ずつゆっくりとカードを引いていく。
「……それ、今答えなきゃダメ?」
「別にあとでもいいぜ。どうせ次のオレ様のターンで決着つくだろうしね〜」
「なっ……!? そんな、こと……」
 ロアの煽る発言にカチンときて捲った五枚の手札を眼前に掲げ。
 ──途端にサッと顔色を変えた。
「……分かりやすいねぇ」
「ま、待って! まだ逆転のチャンスは……!!」
 遊我は魔法カードやモンスターの効果を駆使して手札を交換しなんとか食らいつこうとしたものの上手く切り札を引くことができず、勝敗の行方はロアの言ったとおりになってしまった。
「負けちゃった……」
「今日はオレ様の勝ちってことで」
「……デュエル中に、ロアがあんなこと言うから……」
「言い訳?」
「ヴッ……」
 そう言われてしまえば返す言葉もない。遊我はテーブルに突っ伏して、それで、と話の再開させた。
「プロポーズが、なんて?」
「遊我ちゃんならどうする? ってハナシ」
「また突然だね……」
 腕を組んでううん、と考え込む仕草をする遊我をロアは存外真剣な瞳で見つめてくるので、自然と全身が強張る。
 しばらく考え抜いた末にようやく出てきたのはありきたりな、贈り物を差し出しながらのプロポーズ。
「……フツーのプロポーズしか思いつかないかな……」
 敢えて濁して答えると、ロアは遊我の想像を察してなるほどね、とにんまり笑う。
「貴重な意見をありがとう」
「ほんとに何……」
 しかしそれ以上ロアがその話題を続けることはなく、結局有耶無耶にされたままだったのを覚えている。

 ──それを何故今ふと思い出したかなんて、分かりきっている。

「とりあえずそれ、仮ね」
「へ、」
「それと、合鍵。そろそろ一緒に住んでくれてもいいだろ」
 仮だと言って渡されたのはシンプルなシルバーのリング。恋人から指輪を贈られる意味なんてひとつしかない。頭では理解しているのに、ロアが遊我に、と思うと途端に上手く飲み込めない。
「なんつー顔してんの」
「え、だって……ロア、いつからボクのこと」
「そういう遊我ちゃんも、あのときオレ様がした話憶えてたんだ?」
「……その返しはずるくない?」
 まだ自分たちが小学生だった頃。恋なんて名前がつけられるようなものじゃないほどちいさな想いを抱き始めていた。
 当然告白なんて以ての外で。間もなく遊我は地球上では行方不明扱いで二年間留守にしていた。なので本当にずっと昔の出来事のように思える、そんなあの頃。
 交わした会話はただの戯れ。そう思っていたのに、この数年間のあいだにロアとの関係は恋人という間柄になり、そしてこうして遊我の何気ない発言を参考にしてプロポーズまでされることとなっていた。

「いいの、ボクに指輪なんてあげちゃって」
「あれ、遊我ちゃんはもっとオレ様に愛されてる自覚があると思ってたんだけど」
「それは……」
 知っている。もちろんロアに不満があるなんてこともありえない。ただ、どうしても二の足を踏んでしまう。
 ロアロミンの活動範囲はもはや動画サイトだけに留まらず、テレビや雑誌でも目にするほど広がっていた。そんななかロアは最初から恋人の存在を明かしており、そういった方面のファンはあまりいないと聞いている。
 とはいえ、だ。そんな彼の隣に自分は相応しいと言えるのか。ついそんな思考が過って遊我は素直に喜べないでいた。
「……遊我ちゃんはさ、オレ様がヘコんでたら何してくれる?」
「え。ロアがヘコむことある?」
「仮定の話だっての」
「うーん……頑張って笑顔にさせる、かな……」
「でしょ」
 ロアの質問の意図が読めない。遊我は黙って続きを待った。
「大方自信がないとかで渋ってるんだろうけど、オレ様はそういう遊我ちゃんが好きで一緒にいるの」
「……?」
「分かってない顔してんな。そのままのおまえが好きって言ってんだよ、自分のロード一直線のさ」
 そう言って向けられた眼差しは慈しむような穏やかさがあって、遊我はつい見惚れてしまった。
 同時に、言い淀んでいた返事もするりと口から滑り落ちる。
「ボクがロアを好きな理由と一緒なんだね」
「まあね」
「……引っ越し、いつにしよう」
「オレ様はいつでもいいんだぜ」
 ロアが一瞬だけ安堵した表情を浮かべたのを遊我は見逃さなかった。すぐに飄々とした顔に戻り具体的な話をされたので深く考える時間はなかったが、なんだか遊我までほっとした感覚だけが残っていた。
「ついでに世間に公表しちゃう?」
「恥ずかしいからやだ」
「問題点そこなんだ」
 ロアのファンは温かいので祝福してくれるだろうが、それがかえって居た堪れないので拒否する。
「ね、ロア。これ嵌めてくれる?」
「じゃあオレ様も」
 ふたりの間だけで行われた指輪の交換は、それでも誓い合うにはじゅうぶんなのであった。



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