にゃーにゃーにゃー


▼ゴーラッシュ61話を踏まえた話



「にゃんだよそれ〜……あっ」
「あっはっは! なかなか直んないねぇ、それ」
 ロアとの会話のなかでつい口から出てしまったのは、猫になっていた影響の名残である口調だった。

 あの世界でのことは、友人たちには簡単に説明してある。自身でもなかなか数奇な体験をしてきたと思っていたが、話した結果として想像の数倍は大きな反応が返ってきた。どうやらこちらが思っている以上に遊我は友人たちに愛されているみたいだと実感した出来事である。てっきり遊我の一方的なものだと思っていたので擽ったくも嬉しい気持ちになった。

 そして向こうにいる間に気がついたのは友人たちへ感じる懐かしさだけでなく、ロアに対する特別な感情も芽生えていたことだった。どうりであのときカード化されて猫になるという異常事態に陥っても不思議と落ち着いていられたわけだ、と後になって気がついたものだ。だって、あのフィールド魔法はロアが使用していたカードだった。──ちなみに、これは誰にも告げていない遊我だけの秘密だ。
 無事にみんなのもとに帰ってきて日常が戻ってきた頃、遊我はロアに告白をして、なんとお付き合いをすることになった。想いを告げたあとのことなど考えもせず口に出してしまっていたので、ロアから「付き合う?」と返されたときには驚きで声も出なかった。それだけでいっぱいいっぱいになっていたので、あの瞬間のことがあまり記憶にないのが未だに心残りになっている。

 そんな、お付き合い始めたばかりのふたりは本日お家デートと相成って、ロアの家にお邪魔して各々がやりたいことをして過ごしていたり、ダラダラと寛いだりしていたのだけれど。
 すっかりリラックスしていた遊我の口から滑り出たのは、猫だった頃の口調だった。
 というのも、気心のしれた相手と一緒にいると気が緩んでしまい、気がつけば猫のような仕草や今の口調になってしまうという癖が残ってしまったのである。どうやら遊我が思っていたよりあの空間で過ごしていた時間は長かったらしく、すっかり猫が板についたと言ってもいいのだろう。
 遊我は気まずそうにもにゅりと唇を歪める。そのすがたもまた猫っぽいのだが、あいにく本人は気がつかない。黙り込んだ遊我の頭をロアはぽんぽんと撫でる。
「オレ様の前だと油断しすぎじゃないの〜?」
 言われたとおり、恋人であるロアの前だと頻繁にそれらは出た。最初の頃はロアも目を丸くして「ほんとに猫になってたんだ」と呟いていたものの、頻度が増えるにつれてだんだん面白がってきているみたいで、最近は本物の猫に対するような扱いをされることもしばしば。不本意ではあるが満更でもないことは、きっとロアにバレてしまっているだろう。
「……これでも、みんなの前だったら減ってるんだよ」
「そっかそっか、オレ様だけなんだ?」
 そう言って口角を上げたロア。そのうち人づてにバレるよりはいっそ、と自ら明かしてしまったのは早計だったかもしれない。
「元に戻っても直らないなら、あのときあんなにのんびりしてるんじゃなかったなぁ〜〜!」
「カード化されて猫になってのんびりできる神経があるの、遊我ちゃんだけだと思うよ」
「だ、だって思いの外馴染んじゃったし……」
「元から猫みたいだからじゃない?」
 「すぐフラフラしてどっか行くしさ」と続けられた言葉にはどこか棘がある。それを言われてしまうと何も言い返せないので、遊我は誤魔化すすべとして「ごろごろ」と喉を鳴らした。もちろん、本当に鳴らしているわけではなく口頭でのものである。
「はぁ〜……ちょっと可愛いのがムカつく……」
「えぇ〜……?」
 ふと、ロアの視線が首元に向けられたので遊我は「ロア?」と問いかける。すると綺麗な細い指につつ、と首筋をなぞられた。
「っひ、」
「……いっそ猫のまま帰ってきたなら、首輪を付けられたのにね」
「っ、ロアも、そういう冗談言うんだ……?」
 まさか本気じゃあるまいと遊我が苦笑いを浮かべれば、ロアは無言で笑うだけだった。再び短い悲鳴がこぼれ出る。
「首輪は付いてた、から……」
「そう? 残念」
「……ろあ〜……」
 勘弁して、と言外に含めた声で名前を呼ぶとようやく手を離してくれた。思わず先程まで触れられていた箇所を擦る。
「まあ、遊我ちゃんには似合わないかー」
「もしかしてロアってそういうシュミあったの……?」
「はぁ? ないから」
 返ってきた即答に遊我はこっそり胸を撫で下ろしたのは、今後そういうプレイに付き合わねばならないのか不安を覚えたから。
 そんな遊我の思考などお見通しだったのか苛ついた様子のロアに右頬を抓られた。痛い。
「ちょっと確認しただけなのに……」
「妙なこと聞くからだっての」
「ぅにゃっ」
 追加で左側の頬まで摘まれて両側を引っ張られてしまった。
「……今のはいいかもね」
「ロア!!!」



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