選択授業、初夏


▼ワンライ



 ジリジリと灼けるような日差しを受け、黒子はうんざりした顔になっていた。

 帝光中学の体育は選択制であり、テニスやサッカーなどいくつかの選択肢のなかから授業内容を選ぶようになっている。もし選択肢にバスケットがあれば即決なのだが、部員数が多いためかバスケットは採用されておらず、黒子が選んだのはプールの授業であった。
 というのも、ここ最近は早くも夏の気配が近づいてきているのを実感させられる暑さ続きで黒子はすっかり参っていたのである。そんなときにプールという文字を見てつい飛びついてしまった。
 しかし今身を持って味わっているのは、決してプールの授業が涼しいわけではないという無情な現実だった。
「暑い……」
 照りつける日差しも痛ければ地面も熱い。早くプールに浸かりたいところだが準備運動がまだであるし、この分だと水の温度も上昇していそうで期待が持てない。はあ、と幾度目かのため息を吐いたとき、そっと黒子の隣に並ぶ気配があった。
「暑いね」
「赤司君」
 影の薄い黒子に気づいて近寄ってくる存在など、きっと校内ではひとりしかいないだろう。そのため黒子はさほど驚かずに視線を向けた。
「キミもプールの授業を選んでたんですね」
 赤司とは違うクラスであるがこの時間は合同となる。授業で彼と会うのはなんだか新鮮だな、と思った。
「まあ、どれを選んでも一緒だったから」
 きっと何のスポーツをやってもそつなくこなすのだろう。だが赤司が言えばもはや嫌味にもならなかった。
「これなら普段と違った鍛え方もできるだろうし」
「なるほど。そこまでは考えが至りませんでした」
 さすがですね赤司君、と褒めれば「オレとしてはもう少し気楽な思考でいたいんだけれどね」と肩を竦められた。ストイックなところが彼の魅力だと認識しているが、本人としてはもう少し学生らしく過ごしたいのだそうだ。
「黒子は?」
 ぽそぽそと小声で会話を続けながら準備運動に取り掛かる。距離が離れているおかげで教師がこちらのお喋りに気がつく様子はなかった。
「……涼みたくて、って言ったら笑いますか?」
「……いや、いいと思うよ」
「何がですか。ちょっと、肩が震えてますよ」
 耐えきれなくなった赤司がふっ、と吹きだした。むっとしたが、まあ彼ならいいかと思い直す。もしこれが青峰辺りであれば黒子は脇腹に一撃を入れていただろう。
「赤司君はいつも涼しそうにしてますよね」
「黒子はオレを何だと思ってるの。今だって普通に暑いよ」
「そう見えないから不思議なんですよ」
 深呼吸を終えて、教師の指示が飛ぶ。ようやくプールに入れるのだ。黒子はわずかにそわついた。

「うーん、なんでだろうね……これでも恋人の裸体を見られて結構ドキドキしているんだが」
「ッは……!?」
 黒子は咄嗟に周囲を見回したが、さすがというべきか。黒子たちが列の最後尾で誰もふたりの会話を聞く者はいなかった。
 だがそれでも。授業中にそんなことを突然囁くのはいただけない。黒子は抗議するように赤司の名を呼んだ。
「キミもしっかり中学生してるんじゃないですか!」
「言われてみればそうだね」
「もう……」
 やはり浮かべる表情からは本心が読み取れない。黒子はプールへの楽しみからすっかり赤司に意識を奪われていた。

「あっつい……」
 先程よりも、ずっと。これを狙っていたのなら本当に意地悪だ。せっかく涼もうと思ったのに、これでは一向に火照る顔を冷やせそうにない。
 何の役にも立たないと理解しながらも、黒子は手の甲を額にあてて熱が引くのを待っていた。



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