またいちゃいちゃしてる



 遊我のロードに関連した騒動に巻き込まれるのは、ロアにとってはもう日常茶飯事といっても差し支えなかった。

 その日ロアはロード研究所を訪れていた。来る途中に一応連絡を入れたが当然反応が返ってくることはなく。きっとまたロードの開発に夢中になっているのだろうという予想は的中した。これまた声が返ってくることを期待せずに「遊我ちゃん入るよー」と呼びかけて扉を開ける。案の定、遊我はデスクに向かっていてロアの訪問に気がつく素振りもない。
 ロアは勝手知ったるというようすで中へ入り、自身のために置いているカップへコーヒーを淹れひと息ついた。
 そばにいたカイゾーはもちろんロアの存在を認めて遊我を呼んだがそれも聞こえていないようである。顔を見合わせて、ロアは肩をすくめ、カイゾーは両手を広げた。やれやれ、の意だ。
 もうしばらくすれば集中もきれてこちらに気づくだろうとロアは暇つぶしのためスマートフォンを取り出して弄りだす。
 ロアをこのようにぞんざいに扱っても許してやるのなんて、遊我くらいだ。つくづく自分は遊我に甘いなと思うが、これも惚れた弱みだと半ば諦めていた。

「わ、ロア来てたの?」
 意味もなくSNSを眺めていれば、ようやく一段落ついたらしい遊我がこちらを向いて目を瞬かせていた。まったく気配も感じていなかったようで、防犯のほうは大丈夫なのか不安になってくる。
「連絡入れたし声もかけたよ」
「えっ……ほ、ほんとだ」
 ロアに言われて端末を確認した遊我は申し訳なさそうに「ごめんね」と謝るが、こちらとしてはもう慣れたことなので「別にいいよ」と返す。

「ところで今度はなに作ってんの?」
「!」
 自分用にココアをつくった遊我が隣に座ったところで雑談を持ちかける。遊我は、よくぞ聞いてくれた、とばかりに瞳を輝かせて口を開いた。
「今回はね、決めた目標を達成するまで出られない部屋ロードだよ!」
「……使用用途は?」
「夏休みが近いでしょ? だから宿題を終わらせるまで出られない部屋があればいいかなって」
「誰が使うのそれ」
「…………誰だろうね……?」
「おい」
 遊我の周りに宿題をサボるような人物はいないことを知っているロアが純粋な質問を投げかけると、遊我は途端にこてりと首を傾げた。どうやらその辺りはまったく考えていなかったようなのだ。いつも思いつきで取り掛かるのはやめろと言っているのに。ロアはため息をつきつつも本心から呆れたとは思わなかった。
 いつもは周囲を観察して物事を冷静に見ることのできる遊我は、ロード開発に関しては“もしかして”を想定しているうちにやや突飛な方向へいってしまう。思いついた瞬時にそれを修正できる者がその場にいればいいのだけれど、そもそも遊我がアイデアを事前に口に出す機会がそう多くないせいで未だに止められたためしがない。
 というわけで、ロアをはじめとした周りの者はもう何が出来上がるのかを楽しみにしている節があるのだった。
 今回もそのとおりになってしまって、しかし一方ではまったく役に立たないことはないとも思う。ただ、遊我の友人たちにそこまで怠惰な者がいないだけで。もちろんそれはいいことなのでいないに越したことはないが、せっかく作ったロードを使えないのは勿体ない。ロアはどうしたものかと机上を見遣る。
「ちなみに、使ったらどうなんの?」
「まだ試してないけど、鍵がかかった部屋に飛ばされて、目標が達成するまでその部屋の鍵は開かないようになってるんだ」
「……もしかしてそれ、ネイルちゃんと……?」
「共同制作だよ!」
 別空間に飛ばされる、という現象に既視感を覚えてとある人物の名前を出すとあっさり肯定された。
 ──西園寺ネイル、ゴーハ社に所属しており、さらに付け加えるならばロアと遊我の三人でチームを組んで大会に出場したこともあった。
 そんな彼とは昔敵対していた過去もあり、その過程で地下空間に落とされた記憶がある。やっぱり、とロアは口を引き攣らせた。
「話してみたら、面白そうだって乗ってくれて」
「オレ様抜きで仲良くしてんなよ」
「それ、恋人としてのヤキモチ?」
「元チームメイトとしての言葉かな」
 ちぇ、と口を尖らせる遊我は最近こういったことをぽろりとこぼすものだから、ロアは内心ドキリさせられている。付き合い始めた頃はこちらの何気ないひとことに赤面していたくせに、ずいぶんと成長したものだ。
 腹いせに腰に手をまわして抱き込むがそれでもたいした反応が返ってこず、ロアはそのまま遊我の頭に顎をのせる。
「せっかくだし、それ試してみない?」
「上手くいくか分かんないけどいい?」
「失敗の確率のほうが高いくせに今更そこ聞くの」
 ロアの返しが気に入らなかったのか遊我は手に取ったスイッチを躊躇なく押した。

 一秒、二秒と待ってみるが変化はない。ロアは肩透かしを食らった気分で遊我に伸し掛かった。
「……何も起こらないじゃん」
「あれ……うーん、失敗かなぁ……?」
「またか、ざーんねん。どんな感じなのか試してみたかったのに」
「……もう少し改良してみる。次もロアには実験台になってもらうね」
「ねえ今実験台って言った? 怒ってんの?」
「大丈夫、ボクもいるし不安はないでしょ?」
「無視するなよ。てかそれ、分かってて言ってるよね。ほんとタチ悪い……」
 不安というと少し違うが、遊我と一緒なら悪くないと思える自分が憎らしい。遊我からギブアップの声があがるまで、ロアはわざと体重をかけ続けた。



×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -