たねあかし


▼ワンライ
▼大学生赤黒



「この前赤司君に、キミはエスパーですかって聞いたんですよ」
「……何故」
「それがですね、彼とは昔から偶然会うことが多くて。休日だとそのまま遊びに行くこともあるんですよね」
「はぁ……」
 そう話した黒子に対し、緑間は大きなため息を吐いたのだった。
「なんです? ボクの話そんなにつまらないですか」
「そうではない。ただ……いや、これは本人から直接聞け」
「はあ? なんなんですか……」
 何かを言い淀みながらも結局は口を閉ざす友人に黒子は眉根を寄せる。しかしこれでは話が進まないから、と無視することにして続けた。
「そう、それで、エスパーなのか聞いたら『黒子がそう思うならそうなのかもね』って返ってきたんですよ。赤司君ってあんなお茶目な人でしたっけ」
「少なくともオレの知る赤司ではないな」
「ですよね」
 黒子はひと息つくようにずずっとバニラシェイクを啜った。大好きな甘さが口内に広がり幸福感をもたらしてくれる。いつ飲んでもマジバのバニラシェイクは最高なのである。
「ところで何でお前は唐突に赤司の話を始めたのだよ」
「え。今思い出したからですけど」
「……他意はなさそうだな」
「?」
 どこか疲れたようすの緑間に、さすがに黒子も違和感を抱く。
 今日は突然教授の都合で授業がなくなり暇していたところに緑間も時間が空いていることを知ったので誘ってみた次第である。なんだかんだ言いつつも誘いに乗ってくれた辺りそういうところだなぁと思う。
 マジバで軽食をとりながら世間話をしていたのだが、ふと彼は中学時代赤司とよく過ごしていたことを思い出し、その流れで先程の話題を出したのだけれど何が悪かったのだろうか。中学時代よりは接しやすくなったと思ったがやはり理解できない。黒子はやれやれと首を振った。
「おい。何か失礼なことを考えていないか」
「おや、バレましたか」
「黒子ぉ……!」
 相変わらずのやりとりをし、黒子は飲み終わったカップを置いた。緑間はこのあと授業があると言っていたのでそろそろお開きだ。なので黒子はまた予定が空いてしまう。
 そういえば、まだ購入していなかった新刊があったはず。ならば本屋に向かおうかと考えていたときだった。やあ、と聞き慣れた声が黒子の耳に届いたのは。
「赤司君!?」
「やっぱり黒子と緑間か。外から見えて、もしかしてと思ってね」
「はあ……偶然ですね」
「…………」
「緑間君? すごく眉間に皺が寄ってますけど」
「気にするな黒子。緑間はいつもこんな顔をしているだろう」
「そうですか?」
「そうだよ」
「赤司……ッ」
 そうかな、そうかも。赤司もこう言っているのだし。黒子は納得した。その間に緑間はトレーを持って席を立ち「……オレはもう行くのだよ」と言うなり早々に去ってしまった。暇つぶしに付き合ってもらった礼すら言えていない。黒子はぽかんとした顔で店の出入り口を見遣った。
 だが同じく緑間を見送ったはずの赤司はそれが当たり前だったみたいに黒子の向かい側、今まで緑間が座っていた席に腰を下ろした。肘をつき、こちらを見つめたままニコニコと笑みを浮かべている。
「ところで、オレは今日時間があるんだけど黒子もこのあとは暇かな」
「へ? まあ、本屋に行こうかなあ、とは考えてましたけどそれ以外はとくに……」
「そうか、だったらどこか遊びに行かないか?」
「構いませんよ」
 もはや恒例となったやりとり。黒子は「今日はどこに行くのかな」とぼんやりと考えていた。
 そこで、緑間と交わしていた会話を思い出しあのときの彼の表情の意味が気になった。それに、言いかけていた言葉も。そういえば「本人から直接聞け」と告げられたのだった。この間ははぐらかされてしまったが、今度は答えてくれるだろうか。黒子は「赤司君、」と呼びかける。
「うん? 行きたいところは決まった?」
「あっ全然考えていませんでした……ってそうではなくてですね」
 どうやら黒子の沈黙を行き先について考え込んでいたからだと思っていたらしい。ふるふると首を横に振り話の軌道修正をする。
「この前赤司君にエスパーかと聞いたことを緑間君に話したら、何やら難しい顔をしていて……もしかして赤司君、理由を知ってます?」
「……」
 黒子の問いに、赤司は視線をそらした。それは誤魔化そうといったふうではなく、ただどう答えるべきかを悩んでいるだけのように見えた。なので黒子は大人しく待つ。
 数十秒後、うん、とひとりごちた赤司は「……たねあかし、しようか」と言った。
「──たねあかし、ですか?」
「そう。まず、オレはエスパーではない」
「はあ。それはまあ、そうでしょうね」
 さすがに分かりきっていたことだ。いくら赤司が超人めいているとはいえ、彼が自分たちと同い年のただの人間だということはよく知っている。
「次に、今日ここにオレが来たのも、今までのこともすべて偶然ではない、ということ」
「……というと?」
「皆に協力してもらったんだ。ほら、これまでの偶然の際にはいつも誰かと一緒だっただろう?」
「……言われてみれば」
 今日は緑間。その前は黄瀬。思い返してみれば、他にも高校時代の先輩や同級生といった、赤司も面識のある面々とともにいるときばかりだった。
「黒子と会ったら連絡をしてほしいと頼んだら意外と皆あっさり承諾してくれたよ」
「……そういうことにしておきます」
 あっさり、の部分が怪しかったため曖昧に頷く。
「…………あの、そこまでしてボクに会いたかった理由って……?」
 確かに偶然の回数が多かった訳については理由がついた。だが、赤司の行動の理由についてはまだ判明していない。だから黒子はおそるおそる尋ねてみたのだけれど。
「理由なんて、オレが黒子に会いたかったからだよ」
「……それが謎なんですけど」
「うーん……そこは自力で解いてほしいんだけどな」
「えっ……えーと」
 赤司が少し困ったように笑うので、黒子は慌てて思考を巡らせる。わざわざ皆に根回しをしてまで黒子に会いたかった理由。一度ならまだしも、もう何度も同じことがあった。
 そもそも、何故偶然を装ったのか。黒子と遊びたければ普通に誘ってくれればよかったのに。予定がなければ断ることはしなかったはずだ。

「その、もしかすると断られるかもしれない、というのが怖かったと言ったら?」
「……え?」
「ふふ、顔に出ていたよ」
 赤司の鋭い推測に呆気にとられるが、それどころではない。今赤司の口から聞き慣れない単語が飛び出た気がする。
「怖い……? 赤司君が?」
「そう。オレも自分で驚いた」
「……そんな、まるで初めてデートに誘おうとする彼氏さんみたいな、」
「……! さすが黒子、的確な例えを出すね」
「……? はい?」
 黒子は状況を整理するのに数分かかってしまった。そして現状を把握するなり、目を白黒させて自身を指差す。
「え、赤司君が、ボクを、ってこと、ですか……!?」
「うん」
「ちなみに、彼氏、という例えも正解でした?」
「うん」
「……ご返答いただき、ありがとうございました」
 動揺していつもより丁寧な敬語が出てしまう。黒子は再び思考の海に沈むことになり、浮上するまで時間を要してしまう。
「…………とりあえず、分かりました。しばらく考えさせてもらっても?」
「もちろん。返事は急がないから」
「そうですか……」
 ほっとして胸を撫で下ろす。とはいえしばらくは衝撃で返事を考えるどころではなさそうだが。
「じゃあ、今日のお誘いはなしということで……」
「それはひどいな。今日だけでも付き合ってもらうよ」
「えっ」
「ほら、行こう」
「ちょっ、赤司君っ……!」
 ぐいぐいと引っ張る力は強く、悔しいが敵いそうにない。こんなにも強引な赤司は珍しい。訝しげに思い窺うと、なんと彼の耳が赤くなっている。もしやこれは照れ隠しなのではないか。黒子のなかにひとつの可能性が過ぎった。
 そうすると途端に彼が可愛く見えてきた。断られるのが怖くて面倒な方法をとったのも、見方によっては可愛いかもしれない。
 黒子はすでに自身の気持ちが変化しているのを感じ取っていた。単純だと言われるかもしれない。だがそれもいいかなと絆されるほどには、すでに彼のことが好きだった。



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