花束、出会いと別れ、大切なもの


▼ワンライ
▼高3赤黒



 バスケ部の後輩たちに涙ながらに送られ、黒子たち三年生は誠凛高校を卒業した。このあとどこかへ行こうか、と降旗たちと話していると校門に人だかりができているのが目に入る。だが卒業式だ。きっと他のクラスの生徒が集まっているのだろうと素通りしようとしたところで「黒子!」と呼ぶ声が重なって聞こえた。
「えっ、」
 ひとつは降旗が集団の中心を指さして呼んだ声。そしてもうひとつは、振り返らずとも分かってしまった。
「赤司くん……!?」
「よかった、間に合って」
 おそらく後輩から貰ったであろう花束を持った赤司がひらりと手を振ってこちらに歩み寄ってくる。集団は自然と道を開けた。どうやら人だかりの原因は黒子の元チームメイトの仕業だったらしい。
「いや、どうしてここに!? 洛山も今日が卒業式なのでは?」
「用事だと言って先に抜けさせてもらったよ」
 平然とした様子の赤司に呆気にとられるしかない。そもそも何が目的で自分の卒業式の余韻に浸らず東京まで足を運んだのだろうか。
 そんな黒子の疑問を分かっているのかいないのか「ここは人目が多いから移動したいんだが……」と切り出すので、黒子は降旗たちに後日改めて集まることを約束し、赤司を連れて歩き出した。

「キミならチームメイトや後輩たちが泣いてでも縋ったでしょうに」
「そうかな。誠凛がとくに仲が良いだけじゃないか?」
 暗に引き止められたのでは、と問うと赤司は「恐ろしい先輩がやっと卒業したってせいせいしてると思うけど」と肩を竦めた。あくまで黒子の見解ではあるが、慕われていたように見えていたのに気がついていないのだろうか。変なところで自身への好意に鈍い面を垣間見て思わず笑ってしまう。
「何だ、急に」
「いえ、なんでもないです。ところでわざわざ東京まで来たのはどうしてです?」
「やり直そう、と思って」
「やり直す?」
「というか、黒子にとっての卒業式の思い出を変えたい、というか……」
「??」
 赤司にしては珍しくはっきりしない言い方をする。要領を得ない、と眉を寄せた黒子に、赤司は照れたように頬をかいた。
「……ほら、お前にとっては……帝光の卒業式は、あまりいい思い出ではないだろう?」
「あ……、」
 まだ答えを出せずにいたあの頃。それでも、逃げないと誓ったあの日。黒子はそっと瞼を閉じた。赤司も口を閉ざし、沈黙が訪れた。
「そう……ですね。でも、そんなに悪い思い出でもないですよ。今となっては、ですけど」
「っ、そう、なのか……?」
 心底驚いた顔でこちらを向いた赤司に黒子は微笑みを返す。
「そうです。ボク達のバスケも見せられましたし」
「……そうだったね」
 眩しそうに目を細めゆっくりと頷いた彼を、黒子は満足そうに見つめる。
 そっと歩みを止めたのは、仲間たちとも何度か集まったストバスのコートだった。幸い使っている人はいないようなのでベンチに腰掛ける。暖かな日差しが心地よかった。

「ところで、ずっと抱えてらっしゃる立派なその花束は?」
 先程は後輩から貰ったのだと思ったが、よく考えるとそれを持って京都から移動してきたとは考えにくい。黒子は首を傾げた。
「ああこれ。黒子に渡そうと思って」
「ボクにですか!?」
「うん。卒業祝いに」
「キミも卒業生でしょう……」
 きっと拒んでも無駄だろうと悟り、有り難く受け取る。素直な黒子を見た赤司は眦をゆるめた。
「それで、どうします? 皆を呼んでバスケしませんか?」
「いいね。どれくらい集まるかな」
「先輩たちにも声掛けてみましょう。きっとたくさん集まりますよ」
 ふたりは視線を交わして、自分たちのバスケ馬鹿さに笑い合ったのだった。



×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -