初詣



 遊我から『初詣行かない?』とメッセージが届いたのは三が日を過ぎて観たい番組も減り暇を持て余してきていた頃だった。『いつ?』と返信するとすぐにまた返事がきて『今日』だという。
「ハア!?」
 思わず立ち上がって舌打ちしつつも、すぐに出掛ける準備に取り掛かるロアは我ながら恋人に甘いなあと自嘲した。

「……なるほどね」
「何が?」
「よくこのオレ様に当日約束を取り付けようと思ったね、って言おうとしたけど、ロミンがいるから予定がないのは把握済みだったってわけね……」
「あれ、ボク言ってなかったっけ」
「初詣行こうとしか書かれてなかったよ」
 遊我から指定された場所に辿り着くと、そこには遊我の他にいつもの面子であるルーク、ロミン、学人が立っていた。その光景を見て色々と納得がいき、ロアは深々とため息を吐くしかなかった。別にふたりきりを期待していたとか、そんなことはない。決して。
「なんか、スミマセン……」
 おそらくこの中だと一番そういうことに気をつかう学人が小声でロアに声をかけた。先程の発言も誤解されていそうだが、ここで否定するのもかえって逆効果に思えて肩を竦める。
「いーよ、ガクトちゃんが謝ることじゃないし」
「よーし、全員揃ったんなら行くぞー!」
「ちょっ、待ちなさいってば〜! ルーク〜!」
 ひとりさっさと駆けていくルークを追いかけロミンも駆け出し、それに続くように三人も後を追った。

 ゴーハ市内に神社はいくつかあるが、なかでもここは一番参拝客が多いのではないかと思うくらいに境内には人が溢れかえっていた。三が日を過ぎてもこの混み合い具合とは、元日はどれだけのものだったのか想像もつかない。
 ここに来る途中にロアとロミンは変装のためのサングラスをかけたが流石にそれだけでは滲み出るオーラを隠せなかったらしく、すれ違うファンたちに手を振り返したり笑顔を向けたりして人混みのなかを少しずつ進んでいく。
「列自体は進んでるけど……まだ時間かかりそうね」
「くそう、もう少し広ければこの間にラッシュデュエルが出来るんだが……」
「ルークくん、あとでたくさん出来ますから今は我慢してください」
 とはいえこうやって雑談しているうちに退屈を感じることもなく時間は過ぎていきそうだった。相変わらず賑やかな面子だなあ、とロアは他人事のように思う。
「ほんとに人が多いね。こういうとき迷子防止ロードとかあったら便利かな」
「遊我ちゃんちっちゃいからちょっと目を離した隙にどっかいきそうだしね。手でも繋いどく?」
「ボクの話じゃないんだけど……?」
 「ていうか小さいってなに!?」ときゃんきゃん吠える仔犬をよしよしと宥める。悔しいなら夜更しはやめて寝な、と返すと途端に静かになるのだから呆れたものだ。どうやら今年もロードを作りながらの寝落ちは止めさせられそうにないようだ。

 それからさらに三十分ほど経って、ようやく五人は参拝ができた。ルークだけ手を合わせている時間が長く、列から外れた四人が苦笑をもらす。願い事が多かったんだろうな、というのは容易に想像がついた。
 ついでにおみくじが引きたいと言うロミンに連れられ、それぞれが一枚の紙を手にしたのだが。
「やった、大吉!」
「オレもだ!」
「私は吉でしたが……うん、悪いことは書かれていませんね」
「オレ様も吉〜」
「……遊我?」
「あはははは……まあボクは自分でロードを切り拓くから……」
「凶じゃない! 初めて見た……」
「本当にあるんですね……」
「もはや逆に引きが良いんじゃないの、コレ」
 全員でまじまじと内容を読む。そのすべてが凶の名のとおりあまりよろしくなく、五人の周囲だけ一気に雰囲気が暗くなってしまった。
「旅立、困難……」
「もー! 早く結んじゃいましょ! 私たちので囲めばいい感じに中和されるわよ、きっと」
「そうだな! ここ空いてるぞ遊我!」
「念の為御守りも買っていきましょう!」
「じゃあ、せっかくだしお揃いにしちゃわない?」
 遊我を元気づけようとわいわいとはしゃぐロミンたちを、ロアは一歩離れた遊我の隣に立って見ていた。
「ま、あの三人がいればどんな困難だろうがなんとかなるんじゃない?」
「うん……もちろん、ロアもね」
「オレ様も?」
「だってロアは神様なんでしょ?」
「……ははっ、確かに? 遊我ちゃんは贅沢な恋人を持ったねぇ」
「まあ、それは……ずっと思ってるよ」
 俯いていたために表情は見えなかったけれど、そう言った遊我の声には照れが混じっていた。逃げるようにみんなの元へ走り去った恋人の後ろ姿を見送り、ロアは顔を覆ってしまった。
「…………遊我ちゃん、オレ様のこと好きすぎじゃないの…………」
 きっとその呟きを誰かが拾っていたのであれば相思相愛だと言い返されていたに違いないほど、ロアの声音は甘いものだった。



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