キスするなら言って!



『オレ様の歌声に抱かれる覚悟はいいかー!?』
「……昔は意味が分かってなかったけど」
「ん?」
「さらっとすごいこと言ってたんだね……」
 過去のロアロミンのライブ映像を見ていた遊我は、画面越しの発言を受けて少し照れながら呟いた。

「なになに。妬けちゃうなって?」
 雑誌を読んでいたロアが遊我を見て口角を上げた。その顔は「いいこと聞いた」とでも言いたげで、きっとこの問いに頷けばからかわれるんだろうなあと思うものだった。まあ、嫉妬もゼロではないが今の呟きの真意は別にあったのでこの場は否定しておく。
「んー……そういうわけではないんだけど……」
「ないのかよ」
 遊我はマグカップに口をつけたまま映像の続きを見る。否定したことですっかりこちらへの興味は削がれたようで、ロアはもうテレビの方へは見向きもせず手元のページに視線を落としていた。
 画面の中ではマイクを掲げ上げたロアが喉を震わせ曲を披露している。それは遊我も何度も聴いたことのあるもので、偶に口ずさんでしまうほどだった。
 霧島ロアは何をしてもかっこいいけれど、やはりというべきか、ロアロミンのボーカルとしてステージに立っているときが一番輝いているのではないかと遊我は思う。だからこそ気の進まなさそうな本人を説得し、映像を見せてもらっているのだが。
「飽きないよねぇ、遊我ちゃんも」
「だって、歌ってるときのロアが好きだからね」
 おっと、口が滑った。遊我自身も失言を自覚しつつちらりと横目で隣を見上げると、ロアはページをめくる手を不自然な位置で止めたまま遊我を凝視していた。
「は……」
「えへへ……今のはうっかりだから忘れてほしいな〜なんて……」
「いや忘れるわけないでしょ。……ふーん、そうなんだ。遊我ちゃんはオレ様の歌ってる姿が好きなんだ」
「あああ〜〜ほら! そう言うだろうと思ったから黙ってたのに……!!」
 ううう、と呻く遊我をニヤニヤと意地の悪い笑みを浮かべたロアがそれはもう楽しそうに追い詰める。
「オレ様初耳だけど一体いつからなの?」
「……さあ? どうだったかな……」
 話題をそらしつつの意趣返しのつもりだった。
「そういうロアはさ、」
「あ、逃げた」
「ボクのこと好きって言ってくれないよね」
「…………」
 どうやら効果覿面だったらしい。途端に口をつぐんだロアに、今度は遊我が追撃をかける。
「ファンの子たちにはあんな発言しちゃうのになぁ」
「……やっぱり妬いてるんじゃん」
「違うよ。ちょっとだけ羨ましいなーって思っただけ」
「……へえ。どうしたの、珍しく素直なんじゃない?」
 雑誌をテーブルの上に放り捨て腕を組み、挑発的な笑みを浮かべて煽るさまは既にいつもの自信に満ち溢れた彼だった。
「まあオレ様言葉にするの苦手だからさ」
「開き直るんだ」
「これで許してくれない?」
 なに、と遊我が疑問を口にする前にふっ、と視界に影が落ちる。気がついたときには唇に柔らかい感触があり、しかしその正体を正しく認識する前に離れていった。
「え、」
「ふ、間抜け面」
 眦を下げて表情をやわらげたロアは満足そうに再び雑誌を手に取っていた。その上機嫌の理由が、目を白黒させ耳まで赤くなるほどに顔を茹だらせている遊我であることは実に明白なのだった。



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