俺の最高に可愛い後輩


※先輩後輩パロ
五条悟が“最強”になってるけどみんないる平和軸



『おーい! せんぱーい!』
『すっげえ!! 五条先輩かっけーね!!』

 最近、後輩がとてつもなく可愛く見える。キラキラとした目で見られると心臓が激しく暴れだすし、弾んだ声で名前を呼ばれるともっと呼んでほしいなんて考えてしまう。
 褒められるのも大好きだ。かっこいい、なんてこれまで嫌というほど聞いてきた単語でも、後輩の口から発せられたものはいっそう特別に感じて、大切に大切にとっておきたいと馬鹿げた発想すら浮かぶ。
 そんな後輩の名前は虎杖悠仁という。呪いの王両面宿儺をその身に宿し、秘匿死刑の執行猶予がついたのに絶望することもなく笑う、この界隈では滅多に見ることのない底抜けに明るい少年だった。

 見た目よし家柄よし金はある。生まれ持った六眼と無下限呪術のおかげで呪術師最強の名を思いのままにする五条悟には、純粋に慕ってくる者など皆無といってよかった。
 幼い頃から命を狙われ、女からは欲に塗れた視線ばかりを向けられ、汚い思惑に囲まれて育った子どもがどうやったら真っ当に育つのか。もしそんなヤツが存在するのならば是非その心を問いたい。
 悟は善人ではあったために世界は滅びなかった。けれども、性格は盛大に歪んだ。自他共に「性格以外は完璧」を認めるほどに、歪んだ。
 弱いヤツに気を遣うのは嫌いだからと周囲とは線引をした。悟にとって悟以外の人間はみんな弱かったから。そのおかげでかなりの人間は悟から遠ざかっていった。
 残ったのは非術師の、性格なぞ気にしない、悟をアクセサリーとして見る女ばかりだった。一時期荒れに荒れていたときはむしゃくしゃした気持ちをどうにかしたくて、女をちぎっては投げちぎっては投げとやっていたけれどそれでも収まることはなく、心のどこかで今も燻ったままだ。
 高専に入ると心置ける親友や同級生ができて悟の遊び癖は多少マシになっていった。適当に遊び歩くより適当に駄弁る方が楽しいと感じたからだった。
 そうして二年が過ぎ、今年新しく入ってきた新入生三人のうちの一人が虎杖悠仁だったのだ。

 初めて目にした印象は『コイツが宿儺の指を飲み込んだバカか。確かに頭悪そう』である。気まぐれに様子を見に一年の教室を覗き視て、混じっていた気配に舌を出した。こちらに気づいた恵と野薔薇が嫌そうに眉をひそめるなか、悠仁は「もしかして先輩? はじめまして! 虎杖悠仁です!」なんてのほほんとした挨拶をかましてくれた。悠仁の印象はすぐに『バカに加えてアホ』に更新された。
 そんなもんだったから悟は悠仁に対してちっとも尊敬できない先輩だったはずだ。よく思われようなんて考えていないから態度もひどかった。事実他の二人は悟を見れば舌打ちするなど露骨に嫌っていたくらいだ。
 なのに。悠仁はめげないのかはたまたポジティブなのか定かではないが、いくら足蹴にしようとニコニコニコニコと笑顔を絶やさないものだから。だから、悟は陥落した。
 認めてしまえば早かった。悠仁と初めて呼んでやるとパッと花が咲いたみたいに表情が和らいだし、飯を奢ってやる、と連れ回すと最初は申し訳なさそうにしつつもハムスターみたいにもぐもぐしながら食べていた。自身にもこんな感情が生まれるのかと驚くほど、可愛がりたいと思った存在だった。

 空き時間は悠仁のもとに遊びに行き、ときには先輩命令として拉致して。そうして過ごしているうちに悟は気がついてしまったのだ。日に日に悠仁が可愛くなっていないか、と。
 そうして考えた末にたどり着いた結論というのが。

「俺って男もイケたんだなー……」
 これである。悟は部屋で独り言ちた。女となら何人も寝てきたが、その中に男はいなかった。それも当然のこと。悟の好みがおっぱいが大きい女だからである。
 それなのに、おっぱいが存在しない男でもイケるようになっていたなんて。我ながら驚愕の事実だ。
 しかしピンとこない。男相手に勃っている自分が想像できないし、なんならこんなヤツがいいという理想すらも浮かばない。
 ──いや。
「……、悠仁は、後輩だし……」
 後輩に恋愛感情が湧くはずもない。悟は一瞬だけ脳内に現れた姿を消すように頭を振り、パカリと携帯電話を開いた。現在午後六時。明日は早朝から出なければならないような任務はない。つまり、時間はある。
「…………いくか」
 ゴクリと唾を飲み込んだ音がやけに響いた気がした。

「ってことで適当に男引っ掛けてみたんだけど、ホテル前に来た時点で帰りてえ〜ってなって、部屋に入った瞬間吐き気がしたから帰ったわ」
「うわクズ」
「クズだな」
「うるせぇ」
 悟が男相手にも自分の顔の良さが通用するんだなと新たな発見をしてひとり頷いていると級友二人が揃ってクズだと罵る。自分で理解しているのと他人に言われるのとはまた違うので普通にムカついた。二人が悟にとって無関係の人物であったらとっくにぶっ飛ばしていたところだった。
「別にまだヤってなかったんだからいいだろ!?」
「部屋まで行っといてそれはない」
「同意。つか発想がぶっ飛びすぎだろ」
「ホントだよ……友人の精神が小学生以下だったという事実を前に私はどうしたらいいんだい……」
「っふ、ふふ……ドンマイ」
「は? 何の話だよ。俺の話題で俺を除け者にしてんじゃねえ。話題料取るぞ」
「拗ねるなよ」
 口をへの字に曲げた悟はタンタンとつま先を床に叩きつけて苛立ちをあらわにする。悟の何が小学生以下というのだ。
「いやあ、私たちから伝えられることはないよ。それで? なんで悠仁が可愛いイコール男もイケるなんて思った?」
「ンなの、……」
 だって、そういうことじゃないのか。悟のストライクゾーンが広がった以外に何がある。悠仁が可愛くて、それで。
 ──あのときは、街へ出かける前までは本気で男を抱いてみるつもりだった。なのにいざ知らないヤツと、となると途端に嫌悪感が湧いてきて駄目だった。女相手ならこんな思いはしなかったのに。
「……わかんねー……」
「はは、硝子見なよ。滑稽だと思わないか?」
「かなり愉快だよねー」
 悩む悟は真剣なのに茶化してくる二人は何か確信がある様子なのが面白くなくて。喧嘩を売ってやろうかと立ち上がった瞬間に夜蛾が現れたので、悟は溜まったイライラをどこにもぶつけられないまま机に突っ伏するしかなかったのだった。





 放課後。幸い任務も入らなかったので、悟は一年の教室へ向かっていた。その足取りは軽い。
 今や悟のストレスを解消してくれる存在など悠仁しかいないと思った。彼と過ごせば胸の蟠りも消え失せるだろうし、もしかすると相談にも乗ってくれるかもしれない。傑たちなんかよりももっと真面目に、だ。
「悠仁ー、遊びに行こうぜー!」
「んあっ!? 先輩!?」
 遠慮なく扉を開け放つと、何故か焦ったような様子の悠仁がこちらを振り向く。ガタタッと音を立てて椅子から立ち上がる姿は明らかに何かを隠していますと言わんばかりだ。
「な、なに?」
「……遊びに行こうって言ったじゃん」
「そうだった……?」
 聞こえていなかったはずがないのに悠仁は首を傾げていた。悟は少しだけむっとしたが、すぐさま切り替えるように肩を組む。
「なんでもいいからさっさと行くぞオラ」
「先輩、俺が用事あるかもしれんってのは考えねーの?」
「あんのかよ」
「ないけど」
 しょうがないなあとでも言いたげな悠仁がふわりと微笑む。その顔を見て動きを速めた心臓を不思議に思いつつ、どうしても先程のことが気になった悟は「さっき何してた?」と問いかけた。
「や、別に。先輩が気にするモンはないよ?」
「は〜? なんでオマエが俺の興味のアリなし決めてんの?」
「ええ? どういうキレ方?」
 悠仁は口を割る気はないようではぐらかそうとしてくる。気に食わないが無理に聞き出して喧嘩しても嫌なので、悟は渋々引き下がることにした。
 教室には恵と野薔薇もいた。悟が悠仁を迎えにくるのは慣れたもので特に口を挟む真似はしなかったが、相変わらず生意気な顔をしていた。そんな二人と話していたのは間違いないだろうが、肝心なのはその内容だ。悟は悠仁に悩みの相談をしていいくらいには気安い関係になったと感じていたのに、悠仁はそうじゃなかったのか。なんだかそれが一番ショックだった。
「〜〜っあークソ! こうなったらとことん連れ回してやっからな!?」
「いやだからどういうキレ方なん?」
「うっせー!」
 半ば引きずるようにずんずんと進んでいく悟に悠仁は困惑を隠せない声をあげ、それでも足を止めることはなかった。それがまた悟を調子に乗らせるというのに。さっきまで沈んでいた気持ちが簡単に引き上げられてしまった。
 呪術師最強の男を振り回せるのはお前だけだぞなんて、悟は心の中だけで悪態をつくなどした。

 まずは今週公開されたばかりの期待の新作映画を観に行った。事前に流れていた予告が面白そうで、前々から悠仁と話していたのだ。
 ところがどっこい。予告がピークかとツッコみたくなるようなクソ映画で、二人は劇場を出た瞬間大爆笑をかましてしまった。ノリの合う悟たちはたとえどんなB級映画だろうがクソ映画だろうが気まずくならずにココがダメだった、ココは良かったと言い合える質だった。
 もし悠仁が恋人だったら楽だろうな、なんて考えが頭を過ぎる。あくまで『もしも』の話なのだが。
(いや、いやいやいや、もしもだかんな!?)
「着いたよ先輩。入らねーの?」
 見出してしまったひとつの可能性を必死に振り払おうとしていた悟のことなど知る由もない悠仁が、ファミレスの入口できょとんとこちらを見上げている。それに気がついた悟は咳払いをし、率先して中に入っていく。こういうとき、悟の後ろをついてくる悠仁が可愛くてついいつもドアを開けているのは秘密だ。
 店員に案内されて席につく。余談だが、何名様ですかと店員に聞かれた悠仁が元気よくピースをかかげながら「二人です!」と答える姿も愛おしかった。もはや悠仁ならなんでも可愛く思えてしまうのではないか。悟は軽く恐怖を覚えてしまった。ゲシュタルト崩壊を起こしそうな勢いで可愛さを振り撒く悠仁の存在に。
「なんにしよっかな〜今日は洋食の気分なんだよね」
「俺パフェな」
「それデザートじゃん!」
 軽口を叩きつつメニュー表を広げ、悩んだ末に悠仁はチーズインハンバーグとご飯大盛りに決めていた。別にもう一つの候補だったステーキも頼んでよかったのに。むしろあれもこれもとサイドメニューを追加してやろうかとすら考えていたのに。
 悠仁の食べっぷりは見ていて気持ちがよく、悟にとっての癒やしだった。いくらでも奢ってあげたくなる魅力がある。それは別に悟に限ったことではないらしく、傑もジュースを買い与えていたり、硝子からは飴を貰ったりもしていたのを目にしたことがある。ちなみにその出来事のあとに、自販機の飲み物全種買ってみたかったからとか適当な理由で大量のジュースを一年の教室に差し入れし、ついでに悟のお気に入りの飴をつけておいた。閑話休題。

 先程の映画の感想も言い足りずにいたのでそれも含めてダラダラとお喋りに興じる。悠仁の話す話題は日常の何気ない一コマや任務でのことまで様々だ。前者はいい、平和なので。問題は後者だ。本人はけろりとした顔で任務先でミスをして軽く怪我をした、と言ってからしまったという顔をするので悟は気が気でない。いつも悠仁の任務についていけるわけがないし、帰ってきてさっさと硝子から治療してもらえば悟が知ることはできないからだ。つまり怪我をしていたなんて初耳で、そして悟が異様に心配するからますます悠仁が口を閉ざしてしまうという負のループに陥ってしまっていた。
「俺、まだまだ弱くてさ……ゴメン、先輩」
「なんで謝んだ。そうじゃなくて、大丈夫だったのか」
「そりゃもうこのとーり! ね? だから心配いらねーってば。それよか家入先輩もやっぱすげーね!」
「……俺も、自分以外に反転術式が使えれば、」
「ちょっとちょっと、さらに遠くに行かんでよ。五条先輩は俺の目標なんだからさ」
 しかし、どんなに遠くに行こうが悠仁が必ず悟を追ってきてくれることは知っている。悠仁のそういうところが、悟はすごく好きだった。
(…………は?)
「先輩?」
「ッおまえ、よくそんなこと言えんなあっ!?」
「ええーなに先輩照れてんの? 恥ずかしくなってくるからやめてよ」
「こっちのセリフだわボケ!」
 好き。いま悠仁に対して好きって思わなかったか。悟は心の中で自問自答していた。そんな大荒れ模様のなかで『好き』という単語から連想して思い出す。そういえば悟は、迎えに行く前に悠仁にあのことを相談しようと考えていたのだった。悠仁と過ごす時間が楽しくてすっかり頭から抜けていた。
 未だ悠仁の言葉にドギマギする己の感情に戸惑いを覚えながら、悟は「あー」と意味のない音を発してから、意を決して切り出した。
 思えば、悠仁にデリケートな話題を振るのは初めてだった。
「……あのさ、話は変わるんだけど」
「うん? なになに?」
「悠仁に相談が、……ある」
「ほんとに変わるね?」
 悟の雰囲気が変わったことを察したのだろう。悠仁も真摯な態度で悟と向き合う。それを見て危惧した結果にはならないと踏み安堵した悟は、悠仁を可愛いと思ったことは伏せて、それ以外はあらかた打ち明けた。
 最初は相づちを打っていた悠仁が途中から無言になっていたことにはまったく気がつけていなかった。
「……先輩、男も好きなん……?」
 悟が話を終えてからおそらく一分程度。黙っていた悠仁がようやく口を開いたと思ったら第一声がそれだった。 
「んー……そうかなって思ったんだけど勘違いだったみてーだわ」
「……ふーん。あっそ」
(……なんか、冷たくね?)
 あからさまに機嫌が悪くなった悠仁に悟は焦燥に駆られた。どうしよう。尊敬する先輩かつ最強の相談ごとが思いのほか情けなくてがっかりしたのか、それとも傑たちの言うとおり悟の行いがクズすぎて引いたのか。あらゆる可能性が浮かんでは消えていく。やっぱりやめておけばよかった。後悔で死にそうになっている悟へ追討ちをかけるように悠仁は続ける。
「そんで? 俺は何をアドバイスしたらいいの? 男も恋愛対象に入りそうだと思ったけどダメだった、で自己解決してるよね」
「……、」
 目から鱗が落ちた。悠仁に指摘されてから「確かにそうだ」と思ってしまった。いつもならそれでハイ終わり、なはずだった。

 悠仁はハンバーグの最後のひとくちを放り込むと、残っていた水も一気に飲み干して立ち上がる。
「ゴメンね、今日はもう気分じゃないや。お詫びに奢らせて……つっても、いつも先輩が出してくれるからカッコつかねえや」
 呆然としている悟を置いて悠仁は瞬く間にファミレスを出て行った。会計はともかく、店を出たあとの去り方は見事だった。悠仁の身体能力は目を見張るものがある。呪力と六眼がなければ悟ともいい勝負をするほどだ。
 ──つまり、全速力で逃げられた。
「……っアイツ!!」
 追いかけなければ、と思う前には身体が動いていた。顔を背ける寸前の悠仁が泣いていたように見えたからだ。
 ドアを潜り抜けた瞬間がむしゃらに走った。サングラスすらも外して懸命に悠仁を探す。チラチラと集まる女どもからの視線は鬱陶しいし、新鮮な脳がお届けされているとはいえ眼を使っているせいでかすかにだが疲労が溜まっていく。だがそれでも、絶対にいま悠仁を捕まえねばならないと本能が告げていた。でなければ一生後悔することになろうことも。
 これほど己の生まれ持った才能に感謝した日はない。遠くに見覚えしかない、混じり合ったモノを見つけた。最強様ナメんなよ、と呟いたときには赤いパーカーのフードを掴んでいた。眼だけでなく最近使えるようになってきた術式すらも使用してまで、それを掴んだ。
「ッハ、……やっ、と捕まえたぞ、コラ……!」
「せん、ぱい?」
 こちらは息を切らせているのに、悠仁は汗ひとつかかずにぽかんとした顔で振り返る。しかし眦に水滴が浮かんでいるのを目にし、今度は悟の方が目を瞠ることとなった。
「なん……っ、やっ、……俺か!?」
 ロクに言葉も発せない。唯一言えたのは俺のせいか、ということのみ。泣いていたように見えていたとはいえ、いざ悠仁の涙を前にすると動揺してどう声をかけたらいいのか分からなくなってしまった。
「先輩。先に帰るってことはしばらく一緒にいたくないって意味だったんだけど、伝わんなかった?」
「だって……オマエが、泣いてるから」
「〜〜〜っだからなの! 放っといてよ!」
「放っとけるかっつーんだよ!」
「なんで……ッ、俺のこと、ただの後輩だと思ってんなら、これ以上期待させるようなことせんでよ……」
 落とされた呟きは弱々しかった。けれども悟の心にはドスンと殴られたような衝撃が訪れた。
「あーあ。先輩にだけはバレないようにって頑張ってたのになぁ」
「……ゆうじって、俺が好きなの……?」
「それ、うんって言ったら付き合ってくれんの?」
 そう言った悠仁の目は諦観の色をしていた。ここで下手を打てばこれから先悠仁は悟に話しかけてくれなくなるだろうとか、自分に向けられる笑顔がなくなるだとか、考えうる未来を想定し絶望して、実際の時間にして一秒もかからないうちに悟は答えを導き出していた。
「付き合う」
「……ねえ、俺だって怒るよ。それともからかってんの?」
「ちがっ……聞け!」
 こうなったら見栄もないと悟はそもそものきっかけを白状した。
「最近! オマエが可愛くて仕方ねーんだよ!」
「……なんて?」
「だから男もイケんのかと思った。けどちげーし、かといって悠仁は今日も可愛いままだし! ほんっと意味わかんねー……」
「……せ、んぱい、それって……」
 悠仁の声が震える。まさか今しがたの発言にも泣かせるようなものがあったのかと悠仁を見ると、なんと彼は泣くのではなく笑いを堪えていた。
「っふは、もう無理……っ! 先輩俺のことめっちゃ好きじゃん!」
「へ?」
「うわあ夢みたい、やべー顔にやける」
「え、いや、悠仁?」
「なに? もしかしてドッキリとか言わないよね」
「それはない」
「だよね良かった〜」
 こちらを疑うような問いに即答しながら悟は脳内で悠仁の言葉を反芻していた。五条悟は虎杖悠仁のことがめっちゃ好き。なるほど。そうか、そうだな、そうかもな。
「うわ……全ッ然、これっぽっちも考えもしなかったわ……」
「ええ〜それはひどくない?」
「や、うん……でも自覚したら思い至ることしかねえ」
「ははっ、なにそれ」
 今頃、級友たちが悟を笑っていた意味を理解した。そりゃあ面白くて堪らないだろう。最強が初恋を初恋と認識できずに的外れな行動をしているんだから。ほんの少しだけ許す気にはなれた気がした。
(いやていうか分かってたんなら言えや。やっぱムカつくわ)
 その件については後々文句をつけるとして。
「なに。まだ照れてんの?」
「うー……しょうがねーじゃん。好きな人と両想いなんて初めてなの!」
「へえ〜? ほぉ〜?」
 耳まで真っ赤に染まる悠仁はひときわ可愛かった。反応からして悟は悠仁の初めての恋人みたいで口元がにやけるのを止められない。どうやら自分も相当浮かれている。
「ゆうじー」
「なに?」
「すき」
「んー? ふふ、俺も好きだよ、五条先輩」

 その日からこんな調子だったから付き合い始めたことはすぐに周囲にバレたし、悟の変わりように級友からはさらなる爆笑をかっ攫ったのだが、悠仁にくっついてさえいれば満足だったために「いくらでも笑えよ」のひとことで済ませた悟だった。




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