ゼロから始める祝福生活05



 あるところに、精霊騎士の青年と、その契約精霊の女の子がいました。
 青年は普通のニンゲンだったので、精霊の女の子とは生きる時間がまったく違っていました。
 女の子にとってはとても長い時間とは言えませんでしたが、それでもゆっくりと歳をとっておじいさんになってしまった青年は、最期に女の子と、それから同じく長生きの女性に、どうかできるだけ、これからも笑って生きてほしいと願いました。
 二人にとって約束はすごく大切なものだったため、つらいことがあっても笑って生きることができました。
 そうしてながいながいときが過ぎ、女の子と一緒にいた女性もおばあさんになり、やがて永遠の眠りについてしまいました。
 残された女の子は、本当にひとりぼっちになってしまったのです。
 悲しくて悲しくて、精霊騎士と交わした約束はもう守れそうにありません。
 ぽろぽろと大粒の涙をこぼす女の子でしたが、すぐに光の粒に包まれ、からだが透けていきます。どうやら、女の子にもお迎えが来てくれたようでした。
 女の子は涙を拭い、空をにらみます。精霊騎士と再会したら、最初になにを言うのか決めたのです。
 女の子をひとりにしたことを怒って、それから頭を撫でてもらうこと。
 そう、決めたのです。
 次に気がついたとき、女の子は暗闇のなかで丸くなっていました。けれど頭の中も真っ暗で、自分がなにを考えているかも分かりません。
 暗闇にいる時間がながいものだったのか、一瞬のことだったのか。
 ふと、女の子の耳に女性と男性の声が届き、眩しい外の世界へ目を向けました。
 どこかで見たことのあるような目つきの女性と黒髪の男性に、女の子はなぜだか泣きたくなってしまいました。
 けれど女の子の目からは涙がこぼれません。
男性も女性も、女の子を楽しませようと頑張ってくれましたが、女の子は笑いもせず無表情を保ったままでした。
 そんなとき、ずっとずっと会いたかった青年の姿を目にしました。
 青年は思い出よりもずいぶんと幼かったけれど、間違いなく精霊騎士の彼でした。
 女の子は、もう一度会えたら文句を言ってやろうと思っていたのに、どうにも上手くしゃべれません。その代わり、目からはおおきな雫がぽろぽろぽろぽろとこぼれ出てしまいます。
 青年は涙が止まらない女の子の頭をゆっくりと撫で始めました。
 それは、文句を言い終えたあとにやってもらうはずだったのに。
 だけど、もうどうでもよくなってしまいました。今度こそ、青年の手を離さないように。女の子はちいさな力のよわい手で、それでも懸命に彼の袖を握りしめました。
 ──こうして、女の子の世界は再びゼロから始まったのでした。



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