ライバルタッグ!



 旅の途中に立ち寄ったポケモンセンターで、シンジは手持ちのポケモンの入れ替えをしようと兄のレイジへと電話を繋いだ。ジムに挑戦しようとしたものの、今のメンバーに相性の良いポケモンがいなかったのだ。
 転送するポケモンと、してもらうポケモンを告げ、転送機に向かう。届いたモンスターボールを確認して通信を切ろうとしたところで、レイジが思い出したように口を開いた。

『いけない、忘れるところだった。なあシンジ、久々にサトシくんとバトルしたくはないか?』
「…は?」

 しばらく耳にしていなかったライバルの名前が兄の口から出たことで、シンジはまじまじと画面を見つめた。

『昨日サトシくんから連絡があってね。今度アローラ地方で初めて開催されるリーグのセレモニーでやるエキシビションマッチを頼まれてくれないかってさ』
「何故俺が…」
『嫌なら断ってもいいんだぞ』
「……嫌とは、言ってない……」
『はは、決まりだな!』

 そんなわけで、シンジはアローラ地方へ向かうこととなった。
 今はアローラにいるのか、とか。そもそも何故サトシがエキシビションマッチをやることになっているのか、とか。疑問に思うところはあれど、シンジは自身の心が浮き立っているのを否定できなかった。





 アローラ地方に着いて最初に思ったのは、暑いのひとことだった。
 シンオウ地方出身のシンジは寒さには慣れていたが、暑さにはとても耐えられず上着を脱いで半袖のシャツと半ズボン姿になる。落ち着かないが背に腹はかえられない。
 小さく舌打ちをしながら空港内を見渡すと、服装は多少変わっているものの、あの頃と同じ赤い帽子とピカチュウを見つけた。すぐに向こうも気がつき、大きく手を振られる。

「ようこそ!アローラ、シンジ」
「随分ここに馴染んでいるんだな」

 こちら特有であろう挨拶と、サトシの日に焼けた肌を見てシンジは言った。

「へへ、観光していくなら案内は任せてくれよな」
「…考えておこう」

 シンオウ地方を経ったあとに旅をしたというイッシュ地方やカロス地方、そしてここアローラ地方に来てからの話に相槌を打ちながら、サトシに案内されポケモンセンターへ向かう。
 現在サトシが世話になっているというククイ博士の家にどうかと誘われたのだが丁重に断っていたのだ。慣れない地で慣れない歓迎を受ける気はなかった。

「今回のポケモンリーグはそのククイ博士が開催すると聞いたが」
「そうなんだよ。博士の夢だったんだってさ」
「なるほど。それでお前から話が来たんだな」
「オレがエキシビションマッチを任されることになったあと、誰を呼ぶかって聞かれて最初に思い浮かんだのがシンジだったんだ。……だから今回シンジと一緒に戦えるの、すっげー楽しみだ!」
「そうか。…………一緒に?」

 サトシの真っ直ぐな言葉に聞いていられない、と視線を遠くへ投げたシンジだったが、聞き捨てならない単語に勢いよく向き直る。

「待て。どういうことか説明しろ」
「へ?オレなんか変なこと言った?」
「一緒に、とは何の事だ」
「タッグバトルのことだけど…」
「は…?」

 話を聞けば、エキシビションマッチの形式は二人ずつが戦うタッグバトルだという。そんなことは微塵も聞いていなかったシンジはすぐに元凶が誰なのかに思い至った。
 ちょうどタイミング良くたどり着いたポケモンセンターの入り口が開くなり、シンジはずかずかと中へ踏み入り一直線に通信機の方へ歩み寄った。荒々しく操作し兄へ通信を繋ぐ。

「兄貴!タッグバトルだと聞いていなかったんだが!?」
『無事にアローラに着いたんだね。良かった良かった。あ、サトシくんこの前ぶり〜』
「レイジさん!シンジに伝言ありがとうございました」
『いえいえ』
「兄貴ッ!!」

 自分を無視して背後にいるサトシと挨拶を交わす兄に説明を促すと、嘘は言っていないよ、とレイジは言う。

『サトシくんとバトルしたくないか、って言ったからね』
「……嵌められた」
『アハハ!心外だなあ』

 何処吹く風と聞き流すレイジに、シンジはこめかみをおさえた。こういうときの兄には敵わないことなど嫌という程知っている。ため息をつくと、おずおずとサトシが口を開いた。

「も、もしかして聞いてなかったのか?」
「……ああ。俺はてっきりお前とバトルをするのかと、」
「あ、あー……じゃあやめるか?オレも無理には言わないからさ。……まあ、できなかったら、すこし、寂しいけど」
「〜〜〜ッ!…今更断るのはククイ博士に失礼だろう」

 眉を下げて分かりやすく落ち込んだサトシに、シンジは己の敗北を悟った。画面越しに兄が笑いを堪えているのを背中で感じたが、そんなものは今は無視だ。
 しかし素直にやるとも言えず、遠回しに承諾すれば、すぐにサトシは顔を綻ばせた。認めたくはないが、それを見てほっとする自分がいる。

「ってことは、出てくれるのか!?」
「…………ああ」
「よっしゃあ!!やったぜピカチュウ!!」
「チャア〜」

 はしゃぐサトシをあたたかい目で見守るピカチュウに、どちらが主人か分からないなと呆れる。
 エキシビションマッチとはいえライバルとの共闘に手を抜くことなど許されないと、シンジはさっそく準備に取り掛かることにする。
 満足げな兄の表情を忌々しげにひと睨みしてから電話を切り、まずは宿泊の手続きを済ませる。それからポケモンたちの調整。
 サトシもよく知るエレキブルやドダイトスを出すか、それとも今旅をしている地方で捕まえた新顔を出すか。
 そういえば、何体のポケモンで戦うか、そもそもルールも詳しく聞けていないことに気がつく。

「おい、ルールはどうなってるんだ」
「あ。そうだった!博士から預かってた手紙渡すの忘れてた!」
「そんな大事なものを忘れるんじゃない」

 何故か入り込んで寝ているポケモンがいるリュックから取り出した手紙とやらをサトシから受け取る。そこにはシンジへの礼と今日は用事があり出迎えることができない詫びから始まり、今回のアローラ・ポケモンリーグについてやエキシビションマッチの詳細が事細かに記されていた。正直、目の前の男からの説明などアテにしていいものなのか不安だったので非常に助かった。
 あらかた把握すると、手紙をしまって歩きだす。サトシはシンジのあとをついてきていた。
 ジョーイとキュワワーというポケモンからの熱い歓迎を逃げ腰になりがら受け、手続きを終える頃には数分しか経っていないというのに疲弊してしまっていた。途中、サトシが吹き出していたときは睨むことも忘れなかった。
 再び外に出ると、サトシは待ってましたとばかりにシンジの腕を掴み駆け出そうとする。

「オレの新しい仲間見たいだろ?軽くバトルしようぜ!」
「分かったから離せ」
「いーじゃんいーじゃん!ほら行こうぜ」
「ぴっかちゅ〜」
(この…っ)

 内心で悪態をつくが、言っても聞かないのならばと好きにさせることにした。
 サトシに連れてこられたのは砂浜だった。いつもここで特訓してるんだ、と海を背に両手を広げ笑った。

「よーし、じゃあさっそく…」

 投げられたモンスターボールから出てきたポケモンは二体。差し出されたリュックからは先ほどからそこで寝ていたポケモンと、その横にもう一体。

「ルガルガン、ニャヒート、モクロー、そしてメルタンっていうんだ。みんな、こいつはオレのライバルのシンジ。今回一緒にバトルするんだ」

 紹介が済んだところで、それぞれ図鑑でチェックしていこうとしたシンジだったのだが。

「ルガルガンとメルタンのデータがないぞ」
「あ、オレのルガルガンはまだ前例がないっていうたそがれのすがたなんだ。メルタンは新種のポケモンなんだって」
「!?」

 サトシはずいぶんと軽くそう宣った。
 二体も希少なポケモンを持っていて、この普通さはなんだというのだ。

「今日ロトムとも別行動なんだよなー…」
「……仕方ない、データがないのならば実際にバトルするしかないだろう」
「とか言って最初からやるつもりだったんじゃないの」
「ふん」

 知らんな、とは言いながらも自身の口角は少しだけ上がっていた。なんせライバルとバトルが出来るだろうと思ってここまで来たのだ。まあ、そのことを直接告げるなど絶対にしないのだが。

「ルガルガン、メルタン。お前たちの強さ、シンジに見せつけてやろうぜ」
「ガウッ!」
「キィ〜」
「準備はいいか」
「もちろん!」





 ストーンエッジとかみなりがぶつかり、何度目かの衝撃が起こる。
 二体ずつ出して始めたバトルだったが、現在のフィールドにはエレキブルとルガルガンの二体だけが立っていた。その二体もすでに限界が近く、なんとか立っているという現状だ。

「〜〜ッやっぱ強いなあ、シンジは!」
「お前も腕は鈍っていないようで何よりだ」
「こうなったら……いくぞ、ルガルガン!」

 ルガルガンと目を合わせ、サトシが腕を掲げる。きらりと何かが光った。
 もしかして、あれは。

「サトシ!ここにいたロト?」
「おわっ、」

 シンジが警戒を強めた瞬間、バトルを中断するものが現れた。

「ロトム?」
「そろそろ夕飯の時間だから探しにきたロト!」
「やべっ、もうそんな時間?」

 シンジも時計を確認すると、確かにそろそろポケモンセンターに戻らなければならない時刻になっていた。バトルに夢中になりすぎていたようだ。
 恐らく先ほどサトシが使おうとしていたのはZクリスタルを使うと出せる大技、Zワザというものだろう。一度見てみたいところだったが、今日は諦めるしかない。

「ビビッ!初めましてロト!君がシンジロト?よロトしく!」
「……なんだこれは」

 エレキブルをモンスターボールへ戻そうとしたところで、バトルを中断した物体が話しかけてきた。

「ロトム図鑑だよ。すごいだろ?」
「えっへん!記録や解説はお任せロト!アップデートも可能ロト〜!」
「……なるほど、少々騒がしいのは難点だが便利そうだ。特にお前にはうってつけじゃないのか?」

 稀有な例に次々と遭遇しているようだしな、と言外に含ませる。

「騒がしいなんて酷いロト!失礼ロト〜!」
「こういうやつなんだよ…。シンジごめん、オレもう帰らないと…」
「構わん。本番まではまだ数日あるからな」
「それもそっか。じゃあまた明日な〜」

 アローラ地方滞在初日はこうして終わったのだった。
 それからはリーグ開催日までポケモンの調整をしたりサトシに観光と言ってあちこち連れ回されたり、その最中島の守り神とやらに出逢ったりもしたのだが、それは割愛しておく。



  ◇  ◇  ◇



 今回のポケモンリーグの開会式で行うエキシビションマッチ、それをサトシに頼みたいと思っている。
 ククイにそう言われ、サトシは二つ返事でその大仕事を引き受けた。タッグバトルというのはそのあとに聞いたのだが、どちらにせよバトルができるのならば構わなかった。
 それじゃあタッグを組む相手は、と聞かれた際に真っ先に思い浮かんだのがシンジだった。引き受けてくれるのか自信はなかったのだが、レイジが任せてくれと言ってくれたので安心してお願いした。
 そうしてあれよあれよという間にシンジがアローラ地方を訪れ、久しぶりにバトルをしたり、あちこちを歩き回ったり。懐かしかったり新鮮だったりと感じる日々が過ぎ、ついにアローラ・ポケモンリーグ開催初日を迎えた。
 エキシビションマッチのことはもちろん、そのあとのメインであるリーグ戦のための特訓も欠かしていない。準備は万全なはずだ。たとえ初戦でクラスメイトとあたることになっても手加減はしない。そうみんなと約束だってしている。

「緊張しているのか?」
「いーや、全っ然!」

 控え室。モニターで開会式でのククイの挨拶を聞きながら己のライバルと言葉を交わす。出会った頃の自分には考えられない光景だろう。

「すげーワクワクしてるよ」
「楽しむのはいいが、当然勝つ気はあるんだろうな」
「トーゼンだろ?そんなぬるい考えじゃないさ」

 懐かしい口癖を揶揄して笑い合う。本当に変わった。シンジも、サトシ自身も。
 ククイの挨拶が終わる。いよいよ二人の出番だった。

 会場はすでに盛り上がっていて、サトシたちが入場するなり声援が飛び交った。
 相手は応募から選ばれたという兄弟のコンビらしい。腕は確かだから油断するなよ、とククイから言われていた。
 今回のルールは四人が一体ずつポケモンを出して戦う。先に二体のポケモンが戦闘不能になったチームが負け、という至ってシンプルなルールだ。
 両者ともにモンスターボールを構える。審判の声がかかると一斉に四体のポケモンがフィールドに降り立った。

「いけっ!ルガルガン!」
「エレキブル、バトルスタンバイ!」
「頼むぞ、ムウマージ!」
「出てこい!キュウコン!」

 相手はゴーストタイプのムウマージと、こおり、フェアリータイプをもつアローラのすがたのキュウコンだ。

「キュウコン…、あれがリージョンフォームか」
「相性的にはオレのルガルガンが有利だな」
「そうだな。そちらは任せた」
「よっしゃ、先手必勝!ルガルガン、キュウコンにアクセルロックだ!」

 サトシの指示で、ルガルガンがキュウコンへ向かっていく。ルガルガンの素早さにキュウコンは対応しきれず、うまく攻撃が当たった。

「頑張れキュウコン!わるだくみで備えろ!」
「ムウマージはシャドーボール!」

 だがさすがに一撃とはいかず、キュウコンのトレーナーは冷静に指示を出した。続けてムウマージが攻撃を仕掛けてくる。

「わるだくみ…?」
「特殊攻撃を高める技だ。エレキブル、ひかりのかべ」

 ロトムは現在観客席にいるため、ぽつりともらした疑問をシンジが代わりに答えてくれる。その間に防御をすることも忘れないのはさすがである。

「サンキュ、シンジ!」
「いいから集中しろ」
「分かってる。ルガルガン、もう一度キュウコンに、今度はストーンエッジ!」

 エレキブルに向かって飛んできたシャドーボールはひかりのかべでダメージが弱まる。おかげでエレキブルには全く効いていないようだ。
 端からあまり心配はしていなかったものの、シンジの方は大丈夫だと確信してからサトシはルガルガンへしっかりと意識を向ける。ストーンエッジがキュウコンへ迫るが、今度は技を受けさせまいとこおりのつぶてで相殺されてしまった。
 かみなりパンチ、マジカルリーフ、かみつく、マジカルシャイン。四体の技が次々に飛び交い互いにダメージが蓄積していく。

「くっ…、ならスピード勝負!アクセルロックで翻弄するんだ!」
「そうはさせない、ふぶき!」

 強力なふぶきが繰り出され、ルガルガンの動きはもちろん、エレキブルにも攻撃は及ぶ。
 二体が足止めをくらっていると、今がチャンスとばかりにムウマージがサイコキネシスを畳み掛けてくる。
 どうすればこの場を切り抜けられるか、サトシは必死に頭を働かせた。

「…っそうだ!ルガルガン、ストーンエッジで壁を作れ!」

 直後、ルガルガンの力強い遠吠えが響き渡り、フィールドに岩の壁が立ち並ぶ。それはふぶきを止め、ルガルガンたちを隠し、姿が見えなくなり動揺したムウマージが技をやめた。

「また先ほどの攻撃をされれば厄介だ。次で一気にカタをつけるぞ!」
「ああ!」
「エレキブル、岩に構わずやれ!かみなり!」

 一歩早くエレキブルが先行する。岩の壁をものともせず、むしろ崩れた岩ごとムウマージへ向かうエレキブルのかみなり。相手は壁でこちらの様子が見えていなかったため、突然現れたエレキブルの大技に焦って指示を出した。

「ムウマージ!まもるだ!」

 間一髪、大技を防ぎ切りほっとした相手に対し、シンジはニヤリと笑った。まるで悪人のようなその顔はだいぶまずい。サトシは心の中だけで呟きながらポーズをとって、思いきり叫ぶ。

「いくぞルガルガン!これがオレたちのゼンリョクだ!ラジエルエッジストーム!!」
「ワオオーン…!!」

 空間を切り裂くような素早いルガルガンの一撃が決まった。しん、と一拍会場静まり返る。そこで我に返った審判が判定を叫ぶ。

「キュウコン、ムウマージは戦闘不能!よってこのバトル、勝者はサトシ&シンジチームです!!」

 途端に割れんばかりの歓声が会場を覆い尽くした。
 ふう、と息をついたサトシもじわじわと嬉しさがこみ上げてくる。勝ったのだ。シンジと力を合わせて。

「…っ!やったな!」
「当然だ。……俺とお前だぞ」
「シンジ…!」
「わふっ!」

 シンジの言葉に感動を覚えていると、ルガルガンが元気よく鳴きながら飛びついてきたのでしゃがんで抱きとめる。

「お疲れ!よく頑張ってくれたな〜!」

 ぐりぐりと身体を擦り付け、嬉しさを全身でアピールするルガルガンを宥めつつも褒める。
 一方、ゆっくりと主人のもとへ戻ってきたエレキブルに、賑やかなこちらとはうって変わりシンジはそっと労る。穏やかな表情に、またしても感慨深くなってしまう。

「……なんだ、にやにやして」
「んっふふ〜別に〜?」

 いけない。顔に出てしまっていたようで、シンジが不愉快だと顔を顰める。しかし表情を元に戻せそうになく、口もとを手で覆うことで誤魔化そうとした。

「……よく分からんが今すぐにその気味の悪い笑い方をやめろ。おい、話を聞け。……おい!」

 だが当然誤魔化せるはずもなく、これ以上ライバルの怒りを買うのも本意ではないため一足先にこの場を去ることにする。後ろから聞こえてくる声を無視することだけは許してもらいたい。





 控え室に戻ると、スクールの仲間たちが出迎えてくれた。どうやら観客席からここまで来てくれたようだ。

「みんな!来てくれたのか?」
「ぴかぴ」
「ピカチュウ!」

 今日は応援にまわっていたピカチュウが肩に飛び乗ってくる。

「まーね!サトシ、お疲れ様!」
「サンキュ、マーマネ」
「私まで熱くなっちゃったよ〜」
「同じ、私も。負けてられない」

 マーマネの労りの言葉に笑顔で答える。マオとスイレンは興奮ぎみにサトシへ詰め寄った。こうやって楽しんでもらえたのならばエキシビションマッチをやった甲斐があるというものだ。
 リーリエはきょろきょろと室内に視線をめぐらせながら疑問をこぼした。

「あら?シンジさんは…」
「すぐに来ると思うよ」

 一人戻ってきたサトシに対して当然の問いに軽く答える。数分の間に少しでも腹の虫がおさまってくれればいいのだが。
 サトシの言葉通りすぐに扉が開き、シンジが戻ってきた。予想外の人の数の多さに一瞬だけ目を瞠った。どうやら衝撃で怒りは引っ込んでくれたようだった。すぐにサトシに向かって誰だ、と問いかける視線を送ってくる。

「みんなオレのクラスメイトだよ」
「ああ、今はポケモンスクールに通っているんだったか」

 納得がいったと頷いたシンジに、みんながそれぞれ自己紹介をしていく。興味津々のみんなの勢いにシンジはたじたじになっていた。思わずピカチュウと顔を見合わせて笑ってしまう。

「カキだ。時間があれば是非バトルを申し込みたい」

 その中、カキが一歩踏み出しシンジに握手を求めた。

「強いぜ、カキは」

 ぽん、とシンジの肩を軽く叩いてサトシは挑発的な笑みを浮かべる。

「そうか。……いつでも受けて立つ」

 シンジが握手に応じた。そのとき、扉が開かれ控え室にまた一人足を踏み入れる人物がいた。

「失礼」
「ククイ博士!」
「サトシと…シンジ。とてもいいバトルだったぞ。今回はアローラまで来てくれて嬉しいよ。ところでこれからの予定は?」
「折角なので暫く滞在する予定です」
「そうか。是非アローラの良さを知っていってくれよ」
「シンジまだこっちにいるの!?じゃあオレが案内…」
「いやサトシはこれからリーグがあるだろ」

 パッと顔を輝かせて立候補したサトシだったが、ククイに突っ込まれ、クラスメイトたちには呆れ顔でため息をつかれてしまった。まだシンジと過ごせる時間がある、と思ったら、考える前に言葉を発していた。あまりの自分の浮かれ具合に顔を赤くする。そんなサトシの頬を、ピカチュウがぷにぷにと押していた。

「シンジは試練に挑戦するつもりなのか?」
「ああ。Zワザは興味がある」
「じゃあ島巡りが終わったらスクールにおいでよ!」
「いい考えですね!」
「歓迎するからさ」
「バトル大会とか、したい…!」

 ふと思いついたようなカキの質問から始まり、クラスメイトたちに囲まれあっという間に予定を決められるシンジ。サトシはそれを少し離れて輪の外から眺める。

「サンキュ、サトシ。最高の幕開けになったぜ。……いいライバルがいるんだな」

 ククイが横に並び、礼とともにぽつりと呟く。
 その言葉に、サトシは誇らしげに返したのだった。

「うん!……シンジはオレの自慢の、最大のライバルなんだから!」



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