コイントスじゃ決められない02




 シンジへの気持ちを自覚したのはいつだっただろうか。
 最初はポケモンへの付き合い方が気に入らなくて、シンオウ地方を旅する間に何度も衝突した。けれどシンジとサトシの目指す先は同じで、シンジの強くなりたいという思いは本物だった。エイチ湖でのフルバトルで負けた悔しさは今でも思い出せる。
 シンオウリーグの準々決勝でシンジにリベンジを果たし、そこで彼と別れた。またバトルしよう、と約束を交わして。
 それからはしばらく会う機会はなかったものの、各地のリーグ戦をチェックをしては彼の姿を探した。たまにテレビで見掛ける度に、元気にしていると分かってサトシもより一層気合いが入った。
 ひたすらにポケモンマスターになるという夢を叶える為に走り続けて、一年前にようやくその夢を手にすることが出来たのだった。
 今まで自由に過ごしていたが、ポケモンマスターになったことで一気に忙しくなった。挨拶回りや雑誌、テレビのインタビューなどでサトシはあちこちを駆け回る羽目になり、サトシはシンジにすぐに報告に行けなかった。
 ようやく会いに行ける暇が出来たのは、ポケモンマスターになって二ヶ月が過ぎた頃だった。
 だがいざ行こうと思っても、シンジが今どこにいるのか分からない。頼みの綱はレイジだった。
 彼はサトシが訪ねると、おめでとうと祝い快く招き入れてくれた。残念ながら本人はいなかったものの、現在シンジが旅をしている地方を教えてくれ、懐かしい彼のポケモンたちにも会えた。
 そうして度々レイジにシンジの居場所を聞いては会いに行き、バトルをして、サトシが一方的にとりとめのないことを喋った。シンジは何も言わずにサトシの話を聞いてくれていたので、彼の態度は本当に軟化したのだと実感した。
 レイジには居場所を聞いていることを黙っていてほしいと頼んでいる為、恐らくサトシがシンジの前に現れるのは偶然だと思っているだろう。
 多分、この辺りだ。いくらなんでも会いに行きすぎではないだろうかと、ふと思ったのは。
 相棒に視線を向けると、やっと自覚したのかという目を向けられ苦笑する。とっくに気が付いていたらしい。
 しかし結局は気付いたって無意味だった。それからもサトシのとる行動変わらなかった。
 これからも会いに行くのはやめない。だけど関係を変える気もなかった。ようやく普通のライバルになれたのだ。サトシにはこれで充分だと思えた。

 そんなときに起こったトラブル。起こした本人はとても落ち込んでしまったが、サトシ自身はたいして気にしていなかった。
 しかしあれよあれよという間にシトロンがマサラタウンまでサトシを送り届け、シゲルがよくもまあそんなにトラブルを引き寄せるものだと笑い、解決策が見つかると希望のバトル相手を聞かれ、シンジを指名すれば何故かヒカリが呼ばれ、そこからレイジに連絡を取りシンジがマサラタウンの地へ。
 ヒカリからシンジを呼んだと聞かされたときは半信半疑だったがまさか本当に来てくれるとは思わず、少しだけ締まりがない顔をしてしまいピカチュウに頬を押された。
 とにかく思いっきりポケモンバトルをすれば涙は止まると説明されたので詳しくは分からないままシンジとのバトルを大いに楽しんだ。初めてシンジと戦ったリザードンも満足そうでこちらも嬉しくなる。

 バトルで昂った感情が収まらないのが一つ、涙が出続けたのが二つ、そして最近になって少し悩んでいること、三つ。これらが重なり眠れそうにないと判断して、パジャマに上着を羽織ると散歩に出ることにした。その際ピカチュウも連れて行くか迷ったが、すでに気持ち良さそうにすやすやと寝ていた為起こすのは忍びないと思いやめた。
 しかしピカチュウを置いて出ると話し相手もおらず、やることもない。あてもなく歩いていると、真正面からシンジが来るのを見つけた。
 途端に自身の気分が良くなるのが分かった。シンジに駆け寄り声を掛けると、サトシと同じく眠れないらしい。
 シンジとゆっくり話せそうだと思ったのもつかの間、シンジはサトシが悩んでいることを見抜いてしまった。こんなときに鋭さを発揮しなくても、と思わずにいられなかった。
 だが結果的に悩みを打ち明けたことですっきりしたし、ぶっきらぼうながらも背中を押してもらえた。シンジがそんなことをするなんて驚いたけれど。
 おまけにそのあとにシンジは無自覚なのか、とても穏やかな表情をしていて、サトシはつい好きだと口を滑らせそうで危なかった。
 誤魔化すように口をついて出たのはカントーチャンピオンになるという目標。でもそれはすとんと胸に落ちた。
 まだまだ強くなれる、本当にその通りだ。こんな簡単なことに気が付かなかったなんてどうかしていたのかもしれない。情けない姿は見せたけれど、シンジに失望されなくて良かったと安堵する。
 いつか、シンオウのチャンピオンになったシンジと大きな舞台でバトルをしたい。再び見つけた夢の為、サトシは決意を新たにしたのだった。





「それでお前は何年も女々しくウジウジしていたと?」
「いや自覚すんのめちゃくちゃ遅かったくせに自覚した途端数日で行動に移すっておかしいだろ…!!なあピカチュウ!?」
「ピ、ピカ…」

 いつの日か、シンジとサトシの間でこんなやりとりが繰り広げられることがあったりなかったり、する。



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