無意識


!漫画版櫂アイ


用事があるから先に行ってて構わないと言われ、櫂より一足先にカードキャピタルを訪れていた三和は、ファイトを終えたアイチとカードを広げながら雑談を交わしていた。
その内容は当然のようにこの場にいない櫂のことで、三和は櫂がいないこの隙にとばかりにペラペラと学校での櫂の様子を語る。それを聞くアイチはきらきらと瞳を輝かせ、普段カードキャピタルでは見られない櫂の一面に、悪いとは思いながらもわくわくと三和の話に耳を傾けていた。

「あ!あと、櫂のやつ潔癖症なところあっかな」
「…え?本当ですか?」
「おう。オレが家に上がるときめちゃめちゃ厳しいチェック入るし」
「厳しい…チェック…」

あれ?とアイチは首を傾げた。
過去に何度かアイチが櫂の自宅に招かれたことはあった。数回程お邪魔したが、チェックなどされたことがないし、櫂からそんな話を聞いたことは一度もない。

「どうしたんだ?アイチ」
「いえ、なんでもないです。意外ですね、櫂くんが潔癖症だなんて」
「そーかねぇ」

アイチから見たらそんなもんかー、と三和が頷いたとき、カードキャピタルのドアが開いた。入ってきたのは櫂で、アイチたちを見つけると真っ直ぐこちらへ向かってきた。

「よ、アイチ」
「こんにちは、櫂くん」
「あれ、オレは?」
「三和はさっき会っただろ」
「ひでー!」

ぶつぶつと文句を言う三和の隣に腰をかけた櫂はアイチをちらりと盗み見る。ファイトを持ちかけても良いかと様子を伺おうとしたのだが。

「アイチ?どうしたんだ?」
「ふぇっ!?」

魂の抜けたようにぼーっとどこかを見つめるアイチに櫂は首を傾げて訊ねた。途端にわたわたと慌てふためきなんでもない、と取り繕う様は明らかに何かあったということで。

「三和、お前アイチに何したんだよ」
「なんでオレ確定!?」
「お前以外に誰がいるってんだ」
「ぐっ…微妙に言い返せねえ…!」
「ほら見ろ」

でもオレ櫂のことしか話してねーよ!?と大声を出して立ち上がった三和に、あ、というアイチの視線と訝しむような櫂の視線、カウンターで本を読んでいたミサキの鋭い視線が突き刺さった。

「三和…それはどういうことだ?」
「かっ櫂くん!違うの、ボクが頼んだから…」
「うるさいよ!騒ぐなら出ていきな!」

店員であるミサキに叱咤され、あっという間にカードキャピタルを追い出された三和、櫂、アイチは顔を見合わせて、まずは場所を移すことにした。
さほど遠くない場所にある、櫂たちもよく利用していた公園に着くと、そばにある自動販売機でそれぞれ飲み物を買う。
季節は秋に入る頃、とくに暑くも感じないためベンチに座ってペットボトルの蓋を開けながら櫂は三和に聞くよりはアイチに聞いた方が早いだろうと判断して口を開いた。

「で、オレのことって?」
「え、えと…」
「聞きたいことがあるならオレに直接聞けよ。別に構わないんだぜ」

ぽん、とアイチの頭に手を置いた櫂は優しい瞳をしており、それを見せつけられた三和は何かを悟ってしまった。
よく考えたら勝手に櫂のことを喋ってしまったのはアイチと話すきっかけをなくすことになってしまうし、三和とアイチは仲良くなってしまう。櫂はそこに苛立ちと嫉妬を感じてしまったのかもしれない。
ご馳走様、と心の中で呟いた三和は立ち上がった。正直甘味飲料を買ったのは間違いだった。お茶にしておけば良かったと後悔した。

「姉ちゃんにおつかい頼まれたからオレ帰るわ、じゃ!」
「あ、三和さん!さようなら」
「じゃあな」

適当に理由をつけてその場を去る際に一瞥した櫂の顔には感謝の色が混じっていたようだし、この選択で間違っていなかったらしい。これでチャラになってくんねーかな、とペットボトルを鞄に仕舞って三和は家路を辿った。

「三和さんにお礼言い損ねちゃった…」
「明日オレから伝えておくからいいだろ。それより、さっきぼーっとしてたのはなんなんだ?三和が何を言った?」

一番聞きたかったことを口にする。このせいで来店後すぐに店を追い出されたようなものだ。
三和が悪いことにはこの際目をつむることにする。

「櫂くん、潔癖なところあるって聞いたから…」
「まあ…そうだな」
「!!」

バッと勢いよく櫂の方を見たアイチの顔はどうして、と言っていた。
その表情に櫂はクエスチョンマークを浮かべた。それがアイチがあんな様子をする理由になるのが分からない。

「それがどうかしたか?」
「え…櫂くん潔癖症なのにボロボロだったボクに話しかけてくれたり、最近は気にせず家にあげてくれてたよね…」
「アイチは別にいいだろ」
「へっ?」

アイチと櫂はお互いに顔を見合わせて何を言っているのだろうかと首を捻った。
櫂は潔癖症だというのに、アイチを家に上げることに関しては何も思わなかったらしい。どういうことだろうか。
一方櫂はアイチの言葉をすぐに理解出来ていなかった。

「櫂くん…?それって…?」
「あー、あー…、無意識だった。アイチのこと好きだからだろうな」

空を仰いで口もとを手で覆った櫂は全然気にしてなかった、と言う。
しかしアイチはそれどころではない。まさかそんな答えが返ってくるとは思わず、ピシリと音を立てて固まった。まるで今日の夕飯を教えるように、櫂はさらりと好きだと告げたのだ。

「そそそそれってお友達とかそういう、」
「ちげーよ、オレはアイチを愛してる。一目惚れだった」
「!!?」

あー、だのうー、だの意味のない言葉を発しながらアイチは視線を泳がせた。突然の真っ直ぐな愛の告白に思考が追いつかない。でも嬉しいと思うのは確かだ。憧れからいつの間に恋に変わっていたのだろうか、今まで全く気付かなかった。これは両想いということなのか。

「だから別にアイチなら気にならなかったんだ。自分自身でも無意識だったようだが。で?アイチはオレのこと好きか?」

ヴァンガードファイトでいい流れになったときのように、自信に満ちた顔で櫂はアイチに問い掛ける。もしかして自分の気持ちはバレバレだったのだろうか。アイチは照れくさくなったが、こうして恋人同士になれるというのなら羞恥もなくなった。

「ボクも櫂くんのことが好きだったみたいです…!これからよろしくお願いします!」
「なんだそれ、今気付いたのかよ」

フッ、と笑った櫂に、アイチもえへへとつられるように笑った。





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「昔から潔癖症」というくんさんが果たしていつから潔癖症なのか分からないけどアイチにカード渡したとき汚いと言ったからその頃からならばアイチは特別だといいなあという話。


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