ようこそアローラへ!


 コーケーッ。
 森で特訓をしていたサトシとポケモンたちは、メレメレ島の守り神の声を聞いた気がして顔を上げた。

「今カプ・コケコの声が……」
「ぴぃか〜」

 聞こえた、と頷いたピカチュウにやっぱり、とサトシは辺りを見回す。指示の止んだ場に当然ニャヒートたちも特訓を一時中断していた。

「よ〜」
「がう?」

 大人しくおすわりをしてサトシを待っていたルガルガンの横に、見たことのない緑色のポケモンがいた。そのポケモンは不安そうにルガルガンへすがりついてくる。よく見ると同じいわタイプのようだ。だからか、ルガルガンに近寄ると少しだけ安心したように息をついた。

「よーよー」
「がうっ!?」

 迷子なのかと聞けば一瞬のうちに知らないこの場所に移動していたと言う。ここはどこ、と尋ねてくるポケモンにアローラ地方のメレメレ島だと答える。サトシが口にしていた単語を覚えていたのだ。見慣れないのでおそらく違う地に住んでいるであろう相手のポケモンに伝わるかどうかは分からないが、少なくとも自分が住む地が否かは判別できるだろう。
 ルガルガンの予想通り違う地方出身だったのか、緑色のポケモンは案の定驚いて飛び上がった。
 自分が住んでいたのはジョウト地方のシロガネ山というところらしい。そういえば、ルガルガンの主人は前にジョウトを旅していたと少しだけ話してくれたことを思い出した。

「がう、がう」
「わ、ルガルガン?どうしたんだ?」

 ルガルガンがサトシの元へ駆け、シャツの裾を引っ張って連れ戻してくる。

「え?ヨーギラス?」

 どうやら緑色のポケモンはヨーギラスというらしい。やっぱりサトシはこのポケモンについて知っていた。

「これがヨーギラスロト?記録するロト〜」
「よ〜〜〜!!」

 パシャリ、とロトムが一枚写真を撮った瞬間、ヨーギラスと呼ばれたポケモンはうるうると瞳を潤ませとてとてとサトシに歩み寄った。

「え……おまえ、本当にあのヨーギラスなのか…?」

 焦ったようにしゃがんでヨーギラスを抱えたサトシは信じられないとばかりにまじまじと見つめる。

「にゃ?」
「ぴかぴか、ぴっか!ぴぃかちゅ!!」

 ニャヒートがピカチュウへ説明を求めると、ピカチュウは身振り手振りでヨーギラスについてを教えてくれた。
 なんと、彼はサトシがジョウト地方を旅していたときに、たまごの時点でポケモンハンターから連れ去られ、それから紆余曲折を経てサトシの元で孵り、少しの間だが共に旅をしてシロガネ山まで送り届けられたとのこと。
 久しぶりの再会により、サトシとヨーギラスははしゃいでくるくると回る。良かったねえ、と一同はほんわかと和んでしまった。

「よーし、久しぶりにリュックの中に入るか?」
「よーよー!」

 ピカチュウの解説によれば、ヨーギラスはよくリュックの中にいたらしい。だが既視感を覚えて、ルガルガンは首を傾けた。
 そう、ジッパーを開けて出てきたのは中ですやすやと気持ちよさそうに眠っているモクローとメルタンの姿だった。それを今思い出したらしいサトシは、あちゃあ、と手のひらで顔を覆う。

「ごめん…今はこいつらの特等席なんだった…」
「よ……」

 途端、じわりと涙を滲ませ、ヨーギラスはいやなおとを放った。それはもう、凄まじい威力だった。

「ヨオォ〜〜〜〜〜〜!!!」
「くろっ!!?」
「うわわわわわ」
「びぃがぁ〜〜」
「くぅぅん」
「にゃうう」

 耳を塞いでもまったく意味がないほどのそれに、ルガルガンたちはただ悶えるしかない。
 さすがのモクローも一発で目が覚めたようで、バサバサと慌てふためきリュックから飛び出てきた。メルタンもつられて転げ出る。

「あ、あ〜!ほら!入っていいぞ!ヨーギラス!」
「…………よ?」

 ようやく止んだ泣き声攻撃に、未だぐわんぐわんと頭痛のする頭を振ってヨーギラスを見る。当人はあっという間にご機嫌になり、いそいそとリュックの中へ入り込んでいた。なんとまあマイペースなポケモンである。

「ぴかぴかちゅ」
「くろ?くろろ〜」
「きぃ」

 ピカチュウが簡潔に経緯を説明すると、モクローとメルタンは喜んで承諾した。久しぶりにサトシと会ったのならば、それはもう存分に堪能するといい。サトシのリュックの中の心地良さは二人もよく知るところなのだろう、心なしかどこか自慢げに見える。

「よ〜」

 リュックの中にすっぽりと潜り込むと、ヨーギラスは満足そうに鳴いた。めでたしめでたしと一同が安心したところで、そういえばと問題を思い出す。ジョウト地方にいたはずのヨーギラスが何故こんな遠く離れたアローラの地まで来てしまったのか。エスパータイプやひこうタイプのポケモンなら可能性はなくはないかもしれないが、いわタイプのヨーギラスがひとりで海に囲まれたこの地にたどり着くのは到底無理だと言えるだろう。
 うんうんと唸る一同だったが、ピカチュウがふと、いや、と声を出す。

「ぴかちゅ、ぴか、ぴかぴかっちゅ」
──さっきさあ、カプ・コケコの声聞こえたよね。ってことはもう原因は決まってるんじゃない?
「にゃあ〜…」

 ニャヒートが確かに、とため息をついた。一度カプ・コケコの不思議な力で違う世界に飛ばされたらしいピカチュウが言うのだから説得力がある。きっと、そういうことなのだ。島の守り神はなんでもありだな、とルガルガンが思った瞬間、モクローがなんでもありだねえ、と同じようなことを口に出した。

「ぴかぴ?」
──サトシ、どうするの?

 そう言って振り向いたピカチュウだったが、当の本人はそもそもそんなことに思い至ってもいないとばかりに、メルタンとともにヨーギラスと戯れていた。

「ヨーギラス〜、ママは元気?楽しく暮らせてるか?」
「よぎ〜!」
「そっかー!良かったな〜」

 横ではロトムが写真を撮るのに夢中だ。うーんさすがサトシ、相変わらず頭を使うのが苦手だなあとピカチュウは苦笑する。

「ぴーかちゅ〜!」
「ピカチュウ?」
「ぴーか!ぴ!」

 ピカチュウがカプ・コケコの顔真似をすると、サトシはハッとした。

「カプ・コケコ?」
「ぴ!ぴっぴか!」
「ヨーギラス?………ああ!これってカプ・コケコの仕業ってこと?」

 身振り手振りでなんとかサトシに意思疎通をはかるピカチュウ。やはりずっと一緒にいるだけあって、ほとんど正確にピカチュウの言いたいことを読み取ってくれたサトシに、ルガルガンたちは拍手を送った。

「でも、こうしてまたヨーギラスと会えたのは嬉しいよ!ヨーギラスのママには悪いけど、帰れるまで一緒にいような」
「よ〜よ〜」
「……ぴぃか」

 そのときのピカチュウの目はまるで母親のようで、ルガルガンたちは顔を合わせてつい笑ってしまった。自身のせいだとはまったく思っていないピカチュウは、突然笑いだした自分たちを見てしきりに首を傾げていたが、ヨーギラスの呼ぶ声にすぐにそちらへ意識を向けた。それから数秒後、サトシとピカチュウがにこにことルガルガンたちの名前を呼んでくれたので、飛びかかる勢いで主人のもとへと駆けだしたのだった。





「というわけで、この子のママにも無事説明できたし、しばらくオレの仲間にヨーギラスが加わります!」
「……かわいい!」
「ボク初めて見たよー」
「うむ、強くなりそうな目をしている…!」
「あれ、固まっちゃった。人見知りは直ってなかったのか?」
「なんだか前のリーリエみたい…」
「仲良くなれますでしょうか…」



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