異能パロ赤黒02
02
ひらりひらりと風に吹かれて揺れるように、しかししっかりと目的の場所へ向かう一羽の白い鳥。それは辺りを大きくぐるりと一周すると、またひらりひらりと己が元いた場所へと戻っていく。
しばらくしてその場から数キロ離れた所で征十郎たちは遠くに見えた白い何かを発見した。先ほどの白い鳥である。
――人工式神。
妖魔と契約して得る式神のほかにもこの人工式神というのが陰陽師たちの間で一般的に使われていた。
札に霊力を込めて術を唱えると、それが動き出して主の命を聞くのである。
そしてこの人工式神を扱うのが得意としているのが青峰だった。
彼の家の裏庭には山があり、幼い頃から自然で過ごしていた彼は、生物をイメージし、動かす人工式神が性に合っていた。
「おー、お疲れさん」
すい、と真っ直ぐに青峰の元へ降りてきた白い鳥をかたどった人工式神は淡い青色の光を発し、やがて一枚の札に戻った。
式神が見聞きした情報を主が読み取ったということだ。
「どうだ?」
静かに青峰の様子を見ていた征十郎が問う。
「あー…。なんつーか、オレの霊力じゃ全体的に気持ち悪ぃなって感覚しか分からねえ…」
「ふむ…。ありがとう大輝」
ぽりぽりと頭を掻きながら苦虫をかみつぶしたような顔で告げた青峰に、征十郎は礼を言うと顎に手をあて何かを考え出した。
「どうするのだよ、赤司。オレではあそこまで式神を飛ばせないぞ」
「分かっているよ、偵察はもう止めよう。このまま乗り込む」
「「なっ…!?」」
緑間と青峰があんぐりと口を開け、征十郎を見つめるが当の本人は涼しい顔でテツヤを呼び出している。
「今夜中には片付けたいからな」
余裕綽々の征十郎に、二人はやれやれと溜め息を吐いた。
確かに警戒を解かないまま学校で一日を過ごすのは正直なところ面倒だった。ならば無鉄砲で突っ込んだ方がマシだ。
それにこちらには征十郎とその式神のテツヤがいる。だから大丈夫だろう。
二人は早々に諦め、学校へ向かいだした征十郎とテツヤのあとを追いかけた。
*
「征十郎さま」
「どうしたテツヤ?」
学校へ向かう道のり、テツヤはくいくいと征十郎の袖を引っ張った。
「先ほどは何故ボクを偵察に行かせなかったのですか?征十郎さまの霊力ならばあれくらい楽勝なのでは」
「テツヤ」
不満を隠そうとしない顔でテツヤがそう言うと、征十郎は少し声を低くした。
それが征十郎を怒らせたのだと気付いたテツヤはびくりと身体を震わせる。
「僕はテツヤを危険に合わせたくないんだ」
「でもボクは妖魔です。傷なんてすぐに治…」
「駄目だ。すぐに傷が治ろうが痛覚はあるんだ。テツヤに痛い思いはさせたくない」
「征十郎さま…」
征十郎は、自分をそんな風に言うな、とテツヤの頭を撫でる。
「これから頑張ってもらうから。な?」
「…っはい!」
テツヤは元気に返事をして、正面から征十郎に飛び付いた。
よろけずにしっかりとテツヤを抱っこした征十郎は当然そのまま足を進めている。
「やっぱこいつら見てると今日も平和だなって思えるよな」
「同感なのだよ。これから上級妖魔のいる場所へと乗り込むというのにな」
「…ハハッ」
青峰の乾いた笑いは次第に闇に消えた。
***
ガラガラ、と重い音を辺りに響かせ、征十郎たちは学校の門をくぐった。
すでに学校の敷地内は全て結界を張ってある。これから何が起ころうが、近所に迷惑が掛かることはない。
「確かにこれは僅かだが、空気が重いな」
「あぁ。だが昨夜よりも妖力が増している。不味いな、誰かやられたのか」
征十郎が舌打ちをした。
妖魔の妖力が上昇しているということは、憎しみや苦しみ、妬みなどの人間の黒い感情を吸い取ったことになる。吸い取られた人間は重病に冒されたり、最悪死に至る。
「そんな情報は入ってねぇからまだいけるはずだ。オレは校内を探す!」
素早く青峰が反応し、答えると幾つもの札を取り出し、術を唱えだした。
人工式神で校内を探るつもりのようだ。
「そっちは任せたぞ、大輝。真太郎は術で結界を強めつつ、妖魔が姿を現したら僕の援護を頼む」
「了解なのだよ」
緑間の得意としているのは霊術。術を唱えることによりサポートや遠距離攻撃が可能なものだ。
「テツヤ、行くぞ」
「はい!」
最後に征十郎はテツヤを連れ、気配の強い学校の裏庭へと駆け出す。
これで校庭に青峰と緑間、裏庭に征十郎とテツヤの配置となった。
「テツヤ、妖魔の詳しい位置は分かるか?」
「今探っています!……建物内…?…たくさんの植物、花?があるようです…」
「温室か!こっちだ」
征十郎たちの通う学校の裏庭には温室がある。
恐らくそこだろうと検討をつけた征十郎は素早く札を取り出し術を唱え、一体の人工式神の猫をつくると、青峰たちへ情報を伝えるよう頼んだ。
「征十郎さま、校内に人の気配もします!」
「そうか、そっちは大輝たちに任せよう」
辿り着いた温室の扉を蹴破るように開けた征十郎は霊術を唱えた。
ボン、ボン、と軽い爆発音が温室内で響き渡る。
「反応はない…。テツヤ、いけるか?」
「いつでも!」
テツヤは両手を征十郎にかざして術を唱える。
そこから発された空色の光は征十郎を包み込んだ。
テツヤの能力は主に、力を与えるサポート術だった。
「ありがとう、テツヤ」
まばたきをした瞬間、征十郎の左目は緋色から橙色に変化していた。
「さて、かくれんぼは終わりだよ」
*
地鳴りのような鈍い音が温室内に響く。
妖魔だ。
征十郎の唱える術によって妖魔が引きずり出されていく。
「…へぇ、随分大物じゃないか」
「征十郎さま…!」
蠢く真っ黒な影。闇に紛れるように静かに、静かに揺れている。
征十郎はすぐに攻撃体制に入る。
「テツヤ、奴を囲めるか?」
「任せてください!」
テツヤが素早く九字をきる。すると妖魔の周りを囲むような大きな結界が出来た。
妖魔が結界を破る前にすかさず征十郎が結界内に大きな爆発を起こした。さらに巨大なハサミを繰り出し一刺しの追加攻撃。
ウウウ、と唸る妖魔。征十郎の連続攻撃に少しずつダメージが増しているようだ。結界はヒビが入っているが未だ破られる様子はない。
「!」
征十郎が攻撃を畳み掛けようとしたところで妖魔が鈍器で殴られたようにへこんだ。
緑間の遠距離攻撃だった。
「助かる、真太郎」
ここにはいない友人に礼を告げた征十郎はその間に長い術を唱えた。
征十郎の唱えた霊術で、結界ごと妖魔は霧ように消え去り、辺りに強い風が吹いた。
ごとり。
そこに残されたのは黄金色に輝く妖石のみだった。
「はあ…いつ見ても綺麗ですねぇ…」
そろそろと近付いて手に取ったテツヤは感嘆を漏らした。
征十郎は大きく息を吐き出して安心した表情をテツヤに向けた。
「…そうだな」
「征十郎さま?」
征十郎はゆっくりとした足でテツヤ近付き、テツヤにぎゅっと抱き付いた。
目をぱちくりと瞬かせて、テツヤはとりあえず征十郎の背中に精一杯手を伸ばしてぽんぽんと撫でてみる。
「ねぇ、テツヤ」
「はい」
「僕はね、いつも怖いんだ」
「今日だって楽勝だったじゃないですか」
「ちがう」
「え?」
「テツヤに怪我をさせたくないから」
「…征十郎さま、流石にボクも怒りますよ。ボクは貴方の式神なんです。貴方を守るためにいるんです。貴方の妨げになるのならば貴方のお側にはいられなくなってしまいます」
「…うん」
「…ボクも強くなりますから」
ようやくテツヤを離すと、征十郎はテツヤの額に口付けた。
「ごめんね、テツヤ」
***
「赤司ー」
征十郎たちが校庭に戻ると、ぐったりとした金髪の人物を緑間と青峰が支えていた。
「そいつは確か…黄瀬涼太、だったかな」
「どうやらこいつがうじうじしてたのが元凶だったようだ。全く迷惑なやつなのだよ」
「う、うぅ…」
黄瀬と呼ばれた人物は頭を抑えながら目を覚ました。
きょろきょろと三人とテツヤを見渡し、やがて徐々に情報を頭に入れていったようで、顔を真っ青にして口をパクパクとさせた。
「え、なにこれ、え、」
「黄瀬クンに話があるから、ちょっとオレらについてきてもらうぜ」
「すまないね」
悪人顔の青峰と、全くすまなさそうではない笑顔の征十郎に黄瀬は死んだと思ったらしいのは余談であろうか。
「終わりましたね、緑間くん」
「あぁ、そうだな」
「よく分かんないっスけど、オレが悪かったのは分かったっス…だから許してください!!」
翌日の放課後。赤司邸にて黄瀬は征十郎、青峰、緑間と机を挟んで対面に正座させられていた。
昨夜から散々訳の分からない説明と説教を受けた黄瀬は、授業の疲れも重なってへとへとになっていた。
昨夜、校内にいたのが黄瀬涼太のみということと、微かに妖力が感じられることから、妖魔から感情を吸い取られた完全な被害者だけというわけでもなく、自らの黒い感情から、知らず知らずのうちに持っていた霊力で上級妖魔を呼び寄せたらしいのだ。
「征十郎さまも青峰くんもその辺にしてあげてください。彼も悪気があったわけではないんですから」
ことんと征十郎、黄瀬、青峰、緑間とそれぞれの前にお茶を置いたテツヤは征十郎の隣にちょこんと座った。
「テツヤが言うなら仕方な…」
「ううう子ぎつねクンありがとうっス〜〜!!」
「黄瀬…」
自分を庇ってくれたテツヤに感極まって抱き付こうとした黄瀬に、せっかく許そうとした征十郎が黒い笑顔を浮かべ、黄瀬を廊下へ引きずり出していた。
「……テツはオレとバスケでもすっか」
「!バスケ!」
「……」
そんな光景を遠い目で見た緑間は静かに呟いた。
「今日も平和なのだよ」
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境.界の.彼.方と東.京レイ.ヴ.ンズが面白くて異能?ファンタジー?みたいなパロが書きたくなったのはいいけど知識が全く足りませんでした。
私ひとりだけが楽しかったです。