理不尽だと言われてもいい


!社会人パロ





僕はテツヤが好きだ。しかしそれはあくまで友情やチームメイトの範囲内だ。それ以上でもそれ以下でもない。確かに中学時代はテツヤの食事を気にかけたり、練習のメニューを減らしたりなど必要以上に過保護気味というか贔屓気味だったかもしれない。でもそれはテツヤを弟のように思って可愛がっていたからだった。
――……だから、今の状況はものすごく、その、困る。

「あかしくん…すきです…」
「あ、あぁ…」

とりあえず、頭の中を整理するために最初から振り返ってみる。
今日は、高校を卒業して道を違えながらも友人の関係を続けているキセキの世代と呼ばれていた五人と幻の六人目と囁かれた人物である黒子テツヤ全員の予定が揃った日だった。ひとりひとりが連絡を取るのはよくあるが、みんなで集まれるのは実に一年振りだった。それぞれが多忙な日々を送っているため、なかなか時間がとれなかったからだ。
涼太の呼び掛けで集まった僕らは、防音がいいだろうと僕の部屋で宅飲みとなった。近所を気にすることなく騒がしく近況を報告したり話の種は尽きない。その勢いで次々に酒を消費していくものだから気がつけばすでに僕とテツヤ以外は完全に潰れていた。真太郎はセーブしていると思っていたがどうやら大輝や敦に飲まされていたようだ。
意外に酒に強いテツヤとちびちび飲みながら、こいつらどうしようか、などと笑い話をしていた。
そこまでは普通だった、はずだ。

「赤司くんは好きな人とか…むしろ婚約者さんや付き合っている方はいないんですか?」

突然テツヤが色恋沙汰の話題を振ってきたのだ。
僕もテツヤもその辺りの話題はあまりする方ではなかったから一瞬目を瞠るも、酒の勢いだからだろうと笑って、いないよ、と答えた。
確かに学生時代から告白を受けた経験はあったし、最近も父からそういう話を貰ったりしたが全て断っていた。今も昔も恋愛にうつつを抜かしているひまはないと思っているからだ。自分の話題だけではなんだか忍びないのでテツヤにも同じく問う。

「テツヤこそどうなんだ?」

テツヤは高校卒業後バスケを趣味に留め、保育士を目指すため専門学校に行った。以前よりは保育士を目指す男性が増えたとはいえまだ女性の割合の方が高いだろう。その分出会いの場があるであろうテツヤこそと思ったのだが。

「ボク、は、」

テツヤは言葉に詰まり目線を僕から酒のたっぷり入った瓶へと移すとそれをガシリと掴んで一気に飲み干した。テツヤの突飛な行動に呆気にとられているうちにテツヤは新しい酒をグラスに注いでいた。
溢れそうになるまで注がれたそれをまたぐびぐびと豪快に飲み終えるとテツヤの顔が赤くなり、瞳が潤み始めた。

「ボク、中学のころからずっと片思いしてる人がいるんです」
「そ、うなのか…」

何かのスイッチが入ったみたいにテツヤは語り出した。

「でもその人はボクのことを友人としか見ていないんです」
「告白したのか?」
「いいえ。告白はしていませんがいまわかりました」
「え?」

だんだん呂律が回らなくなり始めているテツヤは僕の目をじっと見つめながら言った。
とろんと酔いがまわっているのがよく分かる目で。

「あかしくん、ボクはキミがすきです」
「…は、」

しかしテツヤのその瞳は雄弁に語っていた。昔からそうだ。テツヤはいくら表情を消しても、スカイブルーの瞳はしっかりと意志を伝えてくるのだ。

「…テツヤ…」

あまりに真摯なテツヤに思わず視線を逸らす。
だって僕はテツヤの気持ちには答えることは出来ない。

「テツヤ…申し訳ないが僕は…」
「わかっています」
「……」
「赤司くんにはわるいとおもっています。こんな…、恩を仇で返すような感情」
「そんな…、」
「何度もかんがえなおして、なやんだんです…!でも、やっぱりすきなんです、キミが」

空のグラスを弄びながら言葉を続けるテツヤの表情はすでに思考がぼやけているようで少し朦朧としている。

「ごめんなさい、あかしくん…」

最後にぽそりとそう告げると、テツヤの瞼はゆっくりとおりてしまった。

「…テツヤ」

僕以外が寝てしまい、ひとりになってしまったようにしんとする部屋。
頭を冷やそうとふらふらとキッチンに向かいコップに水を注ぐ。
冷えた水が全身に染みるようだ。少しだけ頭がすっきりする。
キッチンにコップを置き、またリビングに戻ってくる。テーブル周りに雑魚寝する四人と、テーブルに突っ伏したまますやすやと寝息をたてて眠るテツヤ。
座っていた場所に座り直して寝転がった。僕もそろそろ眠い。何も考えたくない。
目を閉じるとすぐに意識は暗闇に落ちていった。


***


かたかたという小さな物音に目が覚めた。
寝ぼけた頭でぼんやりとテツヤが起きているのが分かった。どうやら僕たちを起こさないよう静かに動いていたようだった。

「赤司くん?起きちゃいました?」
「……あぁ」
「コップお借りしました」
「……うん」

寝ぼけてますよね、と僕の顔をのぞき込みながら水を飲むテツヤにだんだん昨夜の記憶が戻ってくる。
確か僕はテツヤから告白されたんじゃなかったか。

「どうしました?赤司くん」
「いや…」

これはもしかしなくてもテツヤには昨夜の記憶がない、のか?

「テツヤ…その、昨夜のことだけど…」
「…え?」

ああしまった。テツヤが忘れているなら掘り返さない方が良かったよな、僕としたことが迂闊だった。テツヤが目に見えて動揺し始めてしまった。

「……赤司くん」
「……なに?」
「……ボク、昨夜の記憶がないんですがもしかして何かやらかしました?」
「……うん、まあ」

お互い視線を合わさずに会話が進む。気まずいがテツヤの方がよっぽどかわいそうなくらいに震えている。

「そ、うですか…ちなみにどんなことを…?」

テツヤ男前すぎる。
しかしこれは言っていいものか。
気持ちに答えるつもりがないのに告白されたことを言って、テツヤを二度も傷つけることになるじゃないか。

「………キミにそんな顔させる、ってことはボク酔った勢いで告白でもしちゃいましたか」

そんな顔ってどんなだ、と顔を上げるとテツヤは自嘲めいた笑みを浮かべていた。

「当たり、ですね。はは、そうですか…」

まさかテツヤ本人が当ててくるとは思わなくてつい動揺してしまったのをテツヤに見抜かれる。どうも今日は上手くいかないらしい。

「…僕どんな顔してた」
「自分を責めているようでした。ボクの想像してた通りでまさか、と。情けないですね、酔った勢いとはいえ赤司くんに告白なんて…」
「テツ、ヤ…」

泣きそうな顔をするテツヤに何も出来なくて目を背ける。

「誰か別のひとと幸せに暮らして、墓場まで持っていく予定の隠しごとだったんですけど…」

手の甲で赤くなった顔を隠すテツヤ。
その姿に心の奥が得体の知れないモノでざわつくのに気付かないフリをしてテツヤの聞き捨てならない発言を拾い上げる。

「待て、なんだそれ。テツヤには付き合ってるヤツはいないんじゃなかったのか」
「え?」
「僕の知らないヤツとテツヤが幸せになるなんて許さない」
「え、」

テーブルの上に置かれたテツヤの手を掴む。

「なぁ、テツヤ」
「は、はい」
「僕はテツヤのこと、そういう意味で好きじゃない」
「…はい」
「…はずなんだ。だけどテツヤがどこかに行ってしまうのはもう二度とごめんだ」

ひと息吐く。らしくなく僕は緊張しているようだ。

「だから、僕の側にいて、待ってくれないか。お前を、テツヤを好きになるまで」
「な、ん、ですか、それ…」

テツヤが息をのむ。
自分でもずいぶん理不尽なことを言っていると思う。
だけど僕は、テツヤと今すぐ恋人関係になれるかと聞かれれば答えられないが、テツヤと離れられるかと聞かれれば否と即答できる。

「馬鹿ですね、赤司くん…」
「…テツヤ?」
「いいですよ、それくらい。こちとら何年この気持ち隠し続けたと思ってるんですか」

ぽろぽろと涙を流しながら笑うテツヤにほっとして僕も笑った。


 * 


(なんで赤司っちと黒子っち付き合わないんスか?)
(お前が聞いてこいよ黄瀬)
(無理っスよ!なんかいい雰囲気っぽくなってるじゃないっスか!)
(二人とも幸せそうだからいいんじゃないの〜?)
(確かに幸せは人それぞれだとは思うが…)


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