ねこ赤司くんと動物と話せる黒子っち
!赤司さんがねこになったり人間になったりします。
わんわん、にゃーにゃー、ちちち。
ボクの周りにはいつもたくさんの動物たちがいる。みんな大切なボクの友達なのだ。だから、彼らと話せることを気持ち悪がられたり、おかしなやつだと罵声を浴びせられたりしたって、人間の友達がいなくたって、全然気にしない。
「すずめさん、おはようございます」
「ちちっ」
ベランダに出て、手すりにとまっていた彼ににっこりと笑って挨拶をすれば、おはようと返してくれる。テツヤは相変わらず寝癖がひどいね、と言われたのではねた髪ごと頭を手で覆う。
「ちっ、ちちち」
「うるさいです。きみこそ彼女さんはどうしたんですか?」
ばたばたと羽を羽ばたかせる彼を見る限り、喧嘩した彼女さんとはまだ仲直りをしていないのだろう。くすくすと笑うと、彼は飛んでいってしまった。きっと仲直りするための機嫌取りにご飯を調達しにいったに違いない。彼は彼女さんにベタ惚れのようだから。
「全く、素直じゃないんですから」
「にー」
「おや、ねこさんいらしたんですか」
いつの間にか足もとにいた黒猫の彼女がてしてしと前あしを使って、スリッパを履いたボクの足をつついていた。テツヤのおばかさん!とどうやら気付かずに無視していたのがご立腹のようだ。
「すみません…するめならありますよ」
「なーう!」
彼女の大好物をちらつかせれば、しっぽをゆらゆらと揺らして、許してあげるわとの声が出た。単純だと言ったらきっと足にひっかき傷が出来てしまうのが容易に想像出来たので口をかたく閉じることにした。
基本的に動物たちはボクのことを名前で呼んでくれるがボクは動物たちのことを名前を呼ばない。
というのも、名前は誰かに飼われていることをあらわすため、ノラである動物には必要のないものだ。
ボクはこうして動物たちと会話出来るが、動物を飼ったことはなかった。いや、出来るからこそ飼わなかったのだ。ボクはみんなが大好きだから別に飼わなくてもよかったのだ。
そう思っていた。
***
その日は天気がよくてぽかぽかしていたので、お散歩日和だと思ったボクはのほほんと散歩をしていた。散歩中はたくさんの動物たちとお話し出来るのでボクの日課だ。みんないろんなことを知っているからつい聞き入ってしまう。代わりに、とボクが話すのは最近読んだ絵本の内容だ。みんなおとぎ話が好きらしい。ぽつぽつと出会うねこさんやすずめさん、からすさん、柴犬さんたちと交流を深めながら歩いていると、塀の上に珍しいきれいな真紅の毛並みを持ったねこさんを発見した。
すぐに今まで話していた柴犬さんに聞いた。
「あ、あのこは…!」
「わふわふ」
最近このあたりにやってきた子だよ、と教えてもらった。お礼を言うとまたね、と柴犬さんはいままで歩いていた道を戻っていった。放し飼いの彼はそろそろごはんの時間だったらしい。
綺麗だなと眺めていたら、距離が近くなって聞こえてきた声ははなにやらぶつぶつと愚痴を言っているようだった。
『この僕を飼い猫にしようなどと人間風情が何様のつもりだ、頭が高いぞ全く』
『僕を飼おうとする奴は親でも殺す』
物騒なことは言っているものの、好奇心には勝てないうえ、ほうっておくこともしないのでたまらず話し掛ける。
「どうしたんですか?ねこさん、何か嫌なことでもありましたか?」
『…?』
クエスチョンマークを浮かべたままの状態の赤いねこさん。ここら一帯はすでにみんな友達だからこの反応は久々だな、と懐かしさに浸っていると赤いねこさんはぴょん、と塀からおりてボクの前に座った。
『な、なんだおまえは!』
猫はプライドが高いと聞くが、このねこさんはずいぶんと高飛車なようなのでついくすっと笑ってしまった。
ボクの態度が気にくわなかった赤いねこさんはぺしぺしとしっぽを道路にたたきつけて催促している。
『答えろ人間!』
彼に動物と話せることを説明すると、目をぱちぱちと瞬かせて信じられないものを見るようにこちらを見つめていた彼はやがて一匹うなずいて。
『て…天使!』
「へ?」
足もとにすり寄る赤いねこさんにぽかんと呆けていると、彼はなぁご、と鳴いた。
『名前はなんだ』
「黒子テツヤです」
『テツヤか。僕は征十郎だ』
名前持ちということは飼い猫なんですかね、立派な名前ですね、なんて感心していれば彼、征十郎くんはふん、と鼻を鳴らして言った。
『決めた、今日からテツヤの家に世話になる』
「……えっ」
得意げに見上げてくる征十郎くんにボクはほとほと困り果てた。
動物は、飼わないようにしているのに。
「あ、あの…征十郎くん…」
『どうした』
「ボク、動物は……」
断ろうとおずおずと切り出した瞬間(そういえば名前持ちなのに飼い猫じゃなかったのか)、ぼんっと突然なにかちいさな爆発音がして、けむりがボクの視界を覆った。
やがてもくもくとあがっていたけむりが消えて、視界がクリアになったボクの目の前にいたのは赤髪の綺麗な美青年だった。
「!?、?、!!?」
なにが起こったのか、わけがわからず目をこすっても現実が変わることなく青年は消えなかった。
唖然とするしかないボクの眼前に迫った青年は妖艶に微笑み、まるで決定事項を告げるように言った。
「僕から離れるなんて真似はさせないから」
「…っ!」
間近で見た美青年の笑みに思わず顔を赤くして、征十郎くんはどこにいったんだろうとか、男の人なのにとか忙しなくぐるぐる回るボクの脳は、やがて考えることを放棄した。
ボクの意識はそこでブラックアウトしたのだ。
***
(あれ…?ここはボクの部屋…ですね…?ということは征十郎くんやイケメンさんは夢……)
少々がっかりとした気持ちで自身の部屋のベッドから起き上がる。どこから見ても見慣れた部屋と家具、風景だ。
不思議な夢だったなあ、とベッドから降りようとしたとき、がちゃりとドアが開いた。
そしてそこにいたのは先ほど夢で見かけた赤髪の青年だった。
「あぁ、テツヤ起きたんだね、おはよう。悪いとは思ったんだけど色々漁らせてもらったよ。まあすぐに僕の家にもなるから問題ないよね」
(夢じゃ、なかった…!?)
爽やかな笑顔を浮かべながら告げた青年の言葉は全く理解出来なかった。
問題が転がりすぎてどこから拾っていけばいいのか分からなかったのだ。
「あの、きみはいったい…?」
「まだ分からない?」
ほら、と言った青年は、ちいさな爆発音とけむりとともに急に現れたように、今度は消えてみせた。そしてそこにいたのは。
「征十郎くん…?」
「にゃー」
そうだよ、とあっけらかんと答えた征十郎くんに今度はボクが目を瞬かせる番だった。ボクのように変わった人間がいるように、ねこさんにも変わったねこさんがいたものだ。
「すごい、ですね…」
『反応薄いな。さっき人間になったときの方が驚いてた』
「いやこれでも驚いているんですが、まあ…、あんな美形さんに迫られるよりはねこさんの姿の方が落ち着いていられるというか…」
『ふーん』
征十郎くんは妖しげに目を細めると、再び人間に変身した。
「えっ」
「いいこと聞いたな。テツヤはこの姿の方が好きなんだね」
「いえ、あっ、あの…っ!」
あたふたし始めたボクをたのしそうに見つめる征十郎くんに、そういえばと、ここで暮らすと言っていた彼の言葉を思い出して、これからどうなるんだろうと一抹の不安を覚えたボクだった。
----------
動物と黒子っちって最強の組み合わせなんじゃないかと(可愛さ的な意味で)