一番大好きな時間


ジャックのバディスキルですいすいと空を駆け抜ける。パトロールと称した空中散歩でもあるこの時間は僕が一番好きな時間かもしれない。

「あ、牙王くん」

ふと、地上に牙王くんがいるのに気が付いた。バディであるドラムバンカー・ドラゴンも一緒で、何やら揉めている。いつもの喧嘩だろうか。

「ジャック、ちょっと寄り道、」
「分かっている」

僕の考えていることが分かっていたかのように言い終える前にすう、とカードに戻りデッキに収まるジャック。これもバディだからなのだろうか。

「牙王くん!」
「だから…って、タスク先輩?」
「今だ!いただき!」
「あー!!オレのタコ焼き!!」

とん、と地上に降り立ち牙王くんに声を掛ければすぐに気が付いて笑顔を見せてくれた、のは良かったがどうやらタイミングが悪かったようだ。僕に気を取られた牙王くんの隙をついて、彼のバディが最後の一個だったタコ焼きを食べてしまった。幸せそうに食べる彼を見ていたら僕もなんだかお腹が空いてきてしまった。

「ごめんね、牙王くん…」
「いや、先輩は悪くねえ…」
「そうだ、お詫びに奢らせてくれないかい?」
「そ、それは駄目だ!」
「うーん…じゃあ僕もお腹が空いたから、半分こ、なんてどう?」
「う、それなら…」

タコ焼きの誘惑に勝てなかったらしい。ぐるる、と静かになったお腹を押さえて牙王くんは恥ずかしそうに俯いた。

*

「はい、どうぞ」

買ってきたタコ焼きを牙王くんへ差し出す。出来たてのそれは湯気をたて、かつお節がタコ焼きの上で踊っていて美味しそうだ。しかし彼はぶんぶんと顔を横に振って駄目です!と言った。

「先輩から食べてください!」
「遠慮しなくていいよ。食べないなら僕が食べさせてあげようか?」
「そ、れは結構です!じゃあ、いただきます…」

そう、残念、なんて呟けばゴホゴホと噎せる牙王くん。からかわないでください、と頬を膨らませる仕草が可愛くてもっとからかいたくなってしまう。

「オイラももう一個だけくれ!」
「はあ!?ドラムはもういいだろ!」
「僕の分で良かったらあげるよ?」
「先輩〜!甘やかさないでくださいよ〜!」
「ふふふ」

僕とジャックの関係は家族だけれど、彼らの関係はなんだか仲の良い友人のようだ。色々なバディがいるんだなあ、と暖かい気持ちになる。
最近は牙王くんといると、心が穏やかになって、寂しさも全て吹き飛んで、ずっとこの時間が続けばいいのに、なんてことまで考えてしまう。幸せが続かないことはとっくに学んでいるというのに。
僕は、彼を守れるようになるためにも早く大人にならなければいけない。牙王くんの笑顔だけは決して失いたくない。
それでも、今だけは。

「牙王くん」
「?ひぇんぱい?」
「僕は君といるこの時間が一番大好きだよ」
「…っえ、」

言葉に詰まって、顔を赤くして、視線をさまよわせる、牙王くん。彼が愛おしい。
そうか、僕は牙王くんのことが好きだったのか。
馬鹿な僕は、ジャック以外にも失いたくない人を作ってしまったらしい。あのときにジャックだけ、と決めていたのに。

(それでも、好きだなあ)

空を飛ぶ時間というより、彼に会いたくて飛んでいる時間が好きだったようだ。


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