如月シンタロー(18)は恋愛初心者でした02


シンタローが目を覚ますと、ベッドで横になっていた。身体を起こして辺りを確認すると自分の部屋。確かオレ机で寝落ちなかったか…?と疑問を抱いていると、ギシリとベッドが軋んでシンタローの目の前にカノが現れた。


「ぅわっ!?」


驚いた拍子に思わず後ろへ退いてしまった。ぱくぱくと金魚のように口を開閉して、シンタローはおそるおそる訊ねた。


「えーっと…カノさん、」
「そうだけど」
「何故ここにいらっしゃるのかお訊ねしても?」
「シンタローくんに会いにきたら机で寝てたから移動させた」
「そ、そうですか…。ところで怒ってます…?」
「うん」


即答するカノにシンタローは頭が真っ白になった。怒っている理由も分からなければ、自分に会いに来た理由も分からない。挙げ句の果てに現在初恋真っ最中で脳内占領中の相手にこうして近付かれれば誰だって混乱するだろう。


「えええと…オレ何かしましたっけ…?」


心中でごめんなさいごめんなさいと何に対してかもよく分からない謝罪を続けるシンタローに、カノは爽やかといえるほどの笑顔で言った。


「シンタローくんが恋したって聞いたものだからさあ、真相を確かめに来たの」
「へあ!?」


素っ頓狂な声を上げたシンタローはパニックの極致に立たされていた。


(なんでカノさんに恋心抱いたのバレてんの!?)


シンタローは顔を手で覆った。見られたくなかった。今、自分がどんな顔をしているかなんて想像するに容易いから。きっと真っ赤になってみっともない姿を晒してだろう。考えただけで泣きたくなってきた。


「そ、れで、カノさんはどう思ったんですか…?気持ち悪いって、侮蔑しますか…?」
「は?」
「オレなんかに、好かれ、たって、なんにも、」
「ちょっと待って、シンタローくん。君、」
「ごめんなさい、好きになるつもり、なんて全くなかったんです、気付いたら、」
「シンタローくん!!」


シンタローの頬をカノの両手が包んでぐいっと顔を上げさせられる。そうなればシンタローは意地でもカノの顔を見て、カノに自分の情けない顔を見せなくてはならなくて。
カノの蔑んだ瞳を見たくなかったシンタローは最後の抵抗とばかりにぎゅっと目を瞑ってカノの言葉を待った。死刑宣告を待つ囚人ってこんな感じなんだろうな、などと的外れな疑問が浮かんできた。


「まあいいや、そのままでいいからちゃんと僕の話を聞いて」
「……」
「僕の自惚れじゃなければシンタローくんは僕のことが好きなの?」


シンタローはなんで今更そんなこと聞くんだ、なんて言えずにただ黙って頷くしかなかった。
それを見たカノはにやりと口角をつり上げると、ふうん…、と呟いた。


「そっかーシンタローくんは僕のことが好きなんだねー」
「……」
「良かった、じゃあ僕たち両想いなんだね!」
「…っ!?」


衝撃の発言にシンタローは目を見開いた。


「カノ、さん?」
「あ、言っておくけど嘘じゃないからね」
「え?え?」


嘘言うな、と言おうとしたシンタローは先に釘を刺されてしまって、困惑の声をあげるしかない。きっとからかっているだけだ、だってカノさんはそういう人だろう、頭はそう警報を鳴らすのに、シンタローはわずかな期待を持って口を開く。


「カノさんも、オレが好きなん、ですか?」
「うん、好きだよ」


目を逸らして、けほんとわざとらしい咳をするカノはきっと"本物"だ。いつものような余裕かました表情はそこにはない。オレの前で素でいてくれる。そう感じ取ったシンタローはぽろりぽろりと一粒、また一粒と涙を流した。


「シンタローくん!?」
「う、嬉しくて、」


そう言ってへにゃりと笑うシンタローに、カノは口もとを緩めて、シンタローの目尻近くに唇を寄せると、ぺろりと涙を舐めとった。


「わっ…くすぐったいですよ、カノさん!」
「可愛い、シンタローくんほんと可愛い」


カノはぎゅっと抱き締めてシンタローの首もとに顔を埋めた。


「ねえ、シンタローくん」


声色が少しだけ低くなったカノにシンタローは黙って耳を傾ける。


「僕ね、シンタローくんに好きな人が出来たかもって聞いて何も考えずに飛び出して来ちゃった」
「え」


その声には"オレがカノさんのこと好きだってバレてなかったのか"というものが含まれていたが、まあ両想いになったんだしいいか、とシンタローはカノに続きを促した。


「絶対シンタローくんの好きな人を突き止めてやろうって。突き止めたら、たぶん嫉妬で殺しちゃってたかも」


物騒なことを言っているのに、シンタローはそれが嬉しくなった。それくらい、自分のことを好きでいてくれてることが分かったからだ。


「オレは、カノさんにフラれたら死んでたかもしれません」
「シンタローくん…」
「だって、カノさんのことを考えてただけで食事も喉を通らなかったので」
「だからこんな細いの」
「…悔しいけどそれは元からです」


居たたまれなくなってそっぽを向くシンタローが愛しくてカノは腕に力を込める。それを感じてシンタローもカノの身体にそっと腕を回した。







如月シンタロー(18)は恋愛初心者でした







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この一週間後くらいにはシンタローはツン9割デレ1割になっていると思います。「シンタローく」「あっうざ」「ん…」みたいな。カノ哀れ。

というか私いつも文はメールに打っているのですがこれで初めて文字数オーバーを宣言されました。カノシン恐ろしい子…!


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