痛い程に握った腕をぐいぐいと引っ張り、私に振り返ろうともせずに前を歩く佐助先輩。


やっぱり、怒っているんだ。
そりゃそうだよね。いきなり別れると只メールを送り付けて、その後は連絡すら取らせないようにして。仮にも一月とちょっとお付き合いしていた仲だというのに、あんまりだ。それは私にも分かっている。




だから、しっかりと別れを告げよう。




そんな思いを決心した時、ぐいぐいと私の腕を引っ張っていた佐助先輩がピタリと止まった。


考え事をしているうちに佐助先輩は学校の近くの公園にまで私を引っ張って来ていたようだ。
少し遠くで学校のチャイムが朝のSHRが始まったことを示した。



「…………」

「…………」


お互い無言のまま、そして手は握られたままで止まったその姿勢のまま少しの時間が過ぎた。




ふ、と小さく深呼吸をする。言おう。今、佐助先輩に、別れて下さい、と。

「、」

意を決して口を開いた時、


ぐいっ、と

握られていた手が引かれ、気付けば私は佐助先輩の胸に飛び込むようにして、そしてその腕に抱き締められた。



「え……」


意を決して開いた筈の口からは間抜けな声が漏れ、予想にもしていなかったことに私の頭はぐるぐると情報処理に終われていた。




「嫌だ!!!」

「え…?」


耳元で、顔を私の肩口に埋めた佐助先輩が突然発した言葉は、本当に端的なもので、思わず聞き返してしまった。


「俺様は…俺は!別れたく無い!!」


その言葉を聞いた私は、嬉しい、という感情と、嗚呼、代わりだから、という思いが胸の中で交錯して、何故か分からないけれど鼻の奥がツンと痛くなった。


「私は、…別れたい、です」

佐助先輩の香りと温もりに包まれて、私が放った言葉は佐助先輩にNOを告げる言葉だった。
瞬間、佐助先輩が息を飲むのが分かった。



「なん、で…」




泣いたら駄目だ。
話そうと呼吸をするけれど、佐助先輩の聞いたことの無い弱々しい声に私が泣きたくなってしまう。

ぐ、と必死に体に力を入れて口を開く。


「佐助先輩のことが好きだからです」


「へ……?」



意を決して佐助先輩の目を見る。彼の表情は驚いているようだけれど、真剣に私の言葉を一言も聞き逃さないようにしているようだった。



「大好きで、大好きで、堪らないからです…!」



一度声を出してしまえば、それは怒濤のように次から次へと流れ出る。



「私はかすが先輩の代わりだとしても、佐助先輩と付き合えて良かったと思ってます!
けど、けど、やっぱり佐助先輩のことが好きだから、私のことを一番に見て欲しかった!かすが先輩の変わりじゃなくて、名前として、お互い一番に好きで付き合いたかった…!
でも、佐助先輩がかすが先輩を見る目を見て思ったんです…。私がかすが先輩の代わりとしてでも、彼女という位置に居座ってしまったら、佐助先輩はどうやってもかすが先輩と幸せになることが出来ないじゃないですか…!
私は、大好きな佐助先輩には幸せになって欲しいんです……」





はぁ、はぁ、と一気に多くの言葉を話したせいで、少し荒くなった呼吸を整えるように息をする。



佐助先輩は、いつか"一目惚れだったんだ"と言った時のような、幸せそうな、申し訳なさそうな表情をしていた。ただあの時と違うのは、微笑っていないことと、少し顔が赤くなっていたこと。


「名前ちゃん…!」


いきなり名前を呼ばれたかと思えば抱き締められていた体を更にきつく抱き締められ、佐助先輩はまた私の肩口に顔を埋めた。


「確かに、最初は、名前ちゃんはかすがの代わりだった」


静かに語り始めた佐助先輩の言葉に、分かっていても胸がギリギリと締め付けられる。


「けど、名前ちゃんは名前ちゃんだ。どうやったってかすがの代わりになんてなれないし、ならない。
でも…俺はかすがと違う名前ちゃんが好きなんだ!確かにかすがの事をまだ未練の残る目で見てたかもしれない。けど、今、一番好きで、傍に居て欲しいのは名前ちゃんなんだ!
幸せになるなら名前ちゃんとが良い」



佐助先輩がそう言い終わった時、我慢していた涙が、一粒ぽろりと零れ落ちた。それが合図だったかのように次から次へと流れ落ちる涙。


「ご…ごめん、なさい…私…」


「俺様も、ほんとにごめん。傷付けちゃったね」



嗚呼、私は何て馬鹿なんだろうか。
最初は確かにかすが先輩の代わりだったとしても、今はこんなに私の事を想ってくれていたのに。
被害妄想で悲劇のヒロインぶって、佐助先輩と正面から向き合わずに逃げようとして。


「名前ちゃん、俺様は別れたくないよ」


抱き締められたまま囁かれた声音は優しかった。


「私も…、別れたくないです…!」



未だ止まらぬ涙は先輩の制服を濡らすけれど、それでも離れたくなかった。

互いにやっと唯一無二の存在と心を通わせ、自然に零れる笑顔は幸福そのものだった。











「世界で一番、名前ちゃんが好きだよ」


「私も世界で一番、佐助先輩が好きです!」










代わりの彼女、
変わる彼







-----アトガキ-----

最後まで読んで頂いてありがとうございました!
こんなに亀更新な上に話数も少ない駄目サイトに態々足を運んで下さったり、更に拍手や感想まで…!本当に感謝してもしきれません!
これからは佐助のみならず、色々なキャラの話を執筆出来ればと思っています。気が向いたらまた来て頂ければ幸せです。

一周年記念として佐助中編を無事完結することが出来ましたが、これから二周年、三周年と末永くサイトを続けていきたいと改めて実感しております。これからも姫百合を宜しくお願い致します。

11.04.26

管理人 莉琉(りる)






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